2010.7.12 09:34/ Jun
佐藤尚之著「明日の広告:変化した消費者とコミュニケーションする方法」を読みました。
現在はコミュニケーションデザインを主領域とするクリエィティブディレクターの著者が、ここ数年に起こった「広告手法の変化」について述べた本です。
今から3年前に出版された本ではあるが(この業界は日進月歩でしょうから)、古さを全く感じさせません。僕は、広告の世界のことは、全くのドシロウトですが、この本に書かれてあることは「まさに、今」という感じがしました。
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佐藤氏は「広告業界初心者」に対してわかりやすく「広告業界の激変」を解説するため「ラブレターのメタファ」を持ち出します。このメタファが秀逸です。さすがはクリエィティブディレクターの方ですね。広告を「消費者へのラブレター」に喩えます。
佐藤氏によれば、「ラブレターを普通に受け取ってくれていた時代」は、ネットの出現とともに、終わったといいます。
以前は、
1.ラブレターが相手の手に渡りやすかった
消費者は長い間お茶の間にいて、テレビや新聞などの4媒体をよく見ていた。
2.他に楽しいことが少なかったので、ラブレターはとても喜ばれた
情報量も限られていた。
3.渡したラブレターを相手がちゃんと読んでくれた。
広告は情報ソースとして信頼されていた
僕の言葉でいえば、マス4媒体という圧倒的なコミュニケーションチャネルを用いて、情報を渡すこと、いわゆる「導管モデル」型の広告が、この当時の広告なのかもしれない、と思います。
しかし、現代の消費者は、もうその地平には存在していません。むしろ、「いまやラブレターを受け取ってさえくれない」時代に突入しているのです。
その変化を端的に述べると、
1.ラブレターが相手の手に届きにくくなった
2.他に楽しいことが山とあり、相手はラブレター自体に興味をなくしている
3.ラブレターを呼んでくれたとしても、口説き文句を信じてくれなくなった
4.しかもラブレターを友達と子細に検討し、友達に判断を任せたりする
ということになるのかな、と思います。特に、個人的には、「4.しかもラブレターを友達と子細に検討し、友達に判断を任せたりする」はネットの時代の消費行動を端的に物語っているように思います。
我々は、いまや消費を行うときに、ネット上のクチコミ、レコメンデーション、レィティングを参考にします。そして、自分が商品を購入したあとには、その商品に対する感想などを、場合によっては投稿する場合もあります。
よくいわれることであるが、「サーチ&シェア」が、現代の消費行動、いいえ、僕を含む私たち個人の消費行動を支えているように思います。
そして、消費行動やメディア環境の激変によって、「明日の広告」には下記のような事が求められることになるのだとしています。
1.相手の趣味や行動を調べ、よくよく観察し、相手の身になってみる
2.その上で相手の行動を先読みして待ち伏せし、確実にラブレターを渡す
3.他の楽しいことに目がいかないように、感動的なラブレターでくどく
4.相手の友達にも気に入られるよう、十分ケアする
非常に興味深いな、と思いました。
特に「4.相手の友達にも気に入られるように、十分ケアする」とは、「購入者本人と、その友達(他者)とのコミュニケーションをデザインする」ということになるのかなと思います。これは大変に難しいことですね。
しかし、「ラブレターを友達と子細に検討し、友達に判断を任せたりすること」が消費者の常態となってしまっているのならば、このアポリアに挑戦せざるを得ないのかもしれませんね。著者の肩書きに「コミュニケーションデザイン」とあるのは、そのためなのではないかと思いました。
ひるがえって、学習研究の最先端は、まさにこの「コミュニケーションデザイン」との格闘の歴史です。1990年代後半からの、多くの研究は学習者-学習者のコミュニケーションをいかにデザインするのか、という課題に注力しています。「広告」と「学習研究」は、一見、関係なさそうな感じもしますが、「妙な重なり」を感じました。
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「明日の広告」は非常に興味深く読むことができたし、大変勉強になりました。
僕は広告はドシロウトだけど、ここで起きていることを理解することは、ナレッジワーカーにとって非常に大きいことであると思いました。
あと一点。実は、僕自身が最も心惹かれたのは、下記の記述です。これは本当に、僕自身の「個人的な感想」になるけれど、佐藤氏の下記の「気持ち」に強く共感できました。長くなりますが、それを引用しておきます。
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僕は長くコピーライターをCMプランナー、ウェブプランナーをやってきて、ずっと何かが足りないと思ってきた。(中略)ラブレターを書くだけ。机に向かって必死に書くだけ。相手がどういう人かはマーケティング担当任せ。どのメディアにどういうタイミングで乗せるかはメディア担当任せ。
それって、単なる「ラブレター職人」なだけだ。渡す相手もちゃんと見ずに、ラブレターを書くことだけがうまくなっていく。
もちろん立派なラブレター職人はたくさんいる。世界に通用するまで技を高めた尊敬する職人も何人もいる。でも、僕個人はラブレター職人であるだけではイヤである。つまらない。
きちんと相手を見て、心を動かすラブレターを下記、それを自分の手でしっかり渡したい。渡すタイミングを考え、渡す場所を考え、渡すときのBGMや雰囲気も考え、すべてを考えた上でラブレターを書き、インパクト強く相手に渡したい。そして、渡したあとのフォローも自分で考えたい。
(p51)
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なぜ深い共感を覚えたのかって?
それは話が長くなるので、またの機会にしようと思いますが(笑)、僕自身も、この手のことに悩んだ時期、いいえ、悩んでいる時期がありました。自分の「仕事」って、結局、何なのかについて。ちょうど、8年くらい馬車馬のように走り抜けてきた後くらいでしょうか。
まぁ、それは、また今度お話しします。
今週も非常に忙しいです。
そして人生は続く。
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■2010年7月11日 中原のTwitterの発言
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