2010.7.9 08:13/ Jun
このところ電子書籍の話題が、メディアを賑わしていますね。
AMAZONのKindle、Apple社のipadに加えて、日本の通信会社、書店など、多くのステークホルダーが、電子書籍市場への参入を表明し、「明日のプラットフォーム」の「主導権」を握ろうとしています。まさに群雄割拠。関係者の方々は、さぞエキサイティングな日々を過ごしていることでしょう。
東京ビックサイトで開かれている「デジタルパブリッシングフェア」もめちゃくちゃ盛り上がっているそうですね。何人かの方からご報告をいただきました。ありがとうございます。
僕も、一応、年間で数十万円の本を買う「読者」の一人です。また、あんまり売れなくて出版社の皆さんには申し訳ないな、と思っているのですけれども、一応、「書き手」のひとりでもあります。ですので、電子書籍の話題は、興味をもって、野次馬的、かつ、無責任に注視しています。
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さて、このところの電子書籍のニュースを眺めていて、僕には、どこか「既視感(デジャブ)」があります。
今の電子書籍系のメディアニュースを目にしていると、今から10年前に起こった「eラーニングバブル」を、どうしても、思い出してしまうのです。
市場規模も、ステークホルダーの数も全く異なるので、そんな比較はナンセンスと怒らないでください。現在の業界を知らないくせに、と青筋たてないで怒らないでください。まぁ、学者の戯言など、真に受けないで(笑)。
確かに、電子書籍とeラーニングの世界を重ね合わせることには、はなから無理があるのですが、下記は敢えて敢えて、それを重ね合わせながら書いてみましょう。特に、一般の方の目線にたって、書いてみようと思います。
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10年前におこったeラーニングバブル・・・あの頃は、「これからはネットで学ぶ時代になり、伝統的なクラスルームや教師は駆逐される」だとか、「バーチャルユニバーシティというものが生まれて既存の大学はなくなる」だとか、そういうことが「まことしやか」に言われていました。
大手の通信会社は、皆、こぞってeラーニングビジネスに参入しました。東京ビックサイトで開かれていたパビリオンには、コンパニオンのきれいなお姉さんがあふれていて、鼻息の荒いビジネスマンたちが、そこを闊歩していました。ブースの大きさも半端なかったと記憶しています。
当時、まだ若くウブな小生は、コンパニオンのお姉さんと行き交うだけで、緊張したものです(笑)。あっ、いま、すれ違ったとき、エメロンリンスの香りがしたね、みたいな。
それから10年・・・
確かに、今、ネットを「学びの道具」「探求の道具」として使う人は増えています。しかし、それは10年前の業界が思い描いていたような光景とは全く違う形で、つまり、あの頃支配的だった「eラーニング=パッケージ型のコンテンツをWebで配信すること」というものとは、全く異なる光景が、現在広がっているように思います。
2000年中盤に入ってくると、Youtube、Twitter、SNS、blogなどのサービスが「社会インフラ化」しだし、人は、それを利用しながら、興味関心に応じて様々な情報にアクセスすることができるようになりました。iTunes上では、世界中の大学の授業が見られるようになりました。
人々の中には、そうしたサービスを利用して、様々な情報を収集し、自分なりに加工し、発信しはじめるようになっています。その様子は、学習研究者が見れば「学びがおこっているよな」と認識するかもしれません。本人が、その活動を「学び」だと思っているかどうかにはかかわらずして。
つまりこういうことです。
本来学びをめざす「eラーニング」というものではなく、一般的な情報ツールが普及し、それが「学び」のために利用される場合が多くなってきているように思えます。
この様子は「学びとはいわない学びの可能性」が、広がってきているとも言えるのかもしれません。あるいは、「人々の情報行動の中に学びが埋め込まれている」といってもいいのかもしれません。
もちろん、「eラーニング」というカテゴリーの中に入るサービス、教育の中にも、素晴らしいものはあるのだと思います。残念ながら、最近の状況は僕はフォローしておりませんので、そのあたりはどなたか関係者の方がフォローをしていただけると助かります。
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しかしながら、僕が、電子書籍とeラーニングのかつての盛況に、既視感(デジャブ)を感じてしまうのは、実は「こういうこと」ではありません。
そうではなくて、ビジネスパーソンの皆さんが、規格やプラットフォームの違いを前面にかかげ、イニシアチブを握ろうとしている様子です。そして、そこで見落とされがちなものが「学習者や読者の経験」であるという点です。
やれ、どこどこの会社が、市場に参入した・・・
・・・こっちの方が価格が安い
・・・こっちの規格の方が高度な表現ができる
まるまる規格は、コンテンツの共有ができる
明日には、あのステークホルダーは消えてなくなる・・・
こういう「ビジネスの語り」がメディアにあふれ出していることに「微妙な既視感」を感じるのです。そして、そこで見落とされがちなものに「類似点」を感じるのです。ひとことでいえば、それは「顧客目線」です。
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電子書籍の場合、見落とされがちなのは、
「読者が快適に、楽しく、便利に、読書をする経験をもつことができるのか? それは紙で読む場合と同じなのか、それより高い付加価値のある読書経験が存在するのか、どうか?」
ということではないでしょうか?
といいましょうか、「読者としての僕」は、「そこ」にしか関心がありません。
特に、特にですね、、、誰が何といおうと、知的生産を志す僕の読書にとって大切なのは、「物理的に線をひくこと」と「折り目をつける」ことです。
これらの諸活動を失ってもあまりある高い読書経験、それらを補完するような付加価値が、電子書籍に存在するのかどうかが、僕個人としては、気になるところです。他の方は、また違った付加価値を求めるかもしれません。
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eラーニングの場合は、見落とされがちであったのは、
「学習者は、気持ちよく、楽しく、学ぶことができるのか? それは既存の学習と比べて、どのような高い付加価値をもつ経験なのか?」
ということであったように思います。
といいましょうか、「学習者としての僕」には、そこにしか関心がありません。
確かに「eラーニング」というカテゴリーの中に入るサービスの中には、高い付加価値のある学習経験を実現しているものもあるでしょう。僕は、そういう「eラーニング」には心ひかれます。しかし、そうでないものに関しては、つい、こう言いたくなります。
「プラットフォームも、規格も新しいのはわかるけど、で、そこで学ぶオレは楽しいわけ、知的に興奮するわけ?」
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かつて、eラーニングの場合ですと、「何とか社のプラットフォームは、何とか規格に対応した」だの「何とか社のプラットフォームはチャットもできるだの」・・・そういうことが、業界内部の言説として生み出され、消費されていました。確かに、それは、サプライサイドの関心としては、コレクトなのかもしれません。
しかし、「学習者」の立場にたつと、全く異なる光景が見えてきます。サプライサイドの興味関心の中心であるプラットフォームの違いや規格の違いは、それほど大きな問題ではないように思います。そうではなくて、学習者が気にすることは「それでラーニングエクスペリエンス(学習経験)がどう変わるのか?、それは快いのか」ということではないかと思います。
今から10年前のeラーニングブームの頃から、僕は、ずっと、「学習者不在のeラーニング論」には少々辟易としていました。
そして、「ネットで学ぶ」ということが普及するのなら、おそらく、その当時のe「ラーニング」という言葉が指し示す学習シーンとは全く違う光景を、僕らは見ているだろうな、と思っていました。
そして、それは一部「現実」になったように思います。
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僕は、電子書籍の関係者ではないし、それに深く関与するつもりもないので、無責任に言い放ちますが、どうも「読者不在の電子書籍論」が、このところ生まれているような気がします。まぁ、ブームなので仕方がないのかもしれませんが、少し気になるところです。
おそらく10年後、「電子書籍」という言葉はなくなってしまうのではないか、と想像します。それは普及して、書籍と電子書籍を分ける必要がなくなるのではないか、と思います。
そのときに、誰の提供する、どういうプラットフォームと、私たちは、つきあっているのか。残念ながら、僕は「占い師」でも「ビジョナリ」でもないので、わかりません。
しかし、「本を買うという経験」「本を探すという経験」「本を読むという経験」「本をためる経験」・・・そういう「読書に関わる総合経験」が、どのように読者フレンドリーに変化するのか?
それによって、読者が快適に、楽しく、読書をする経験をもつことができるのか?
それは紙で読む場合と同じなのか、それより高い付加価値のある読書経験が存在するのか、どうか?
このあたりが、プラットフォームの勝敗を分ける、ひとつの「試金石」になるようになるような気がします。
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関係者の皆さんにおたずねします。
電子書籍の読書経験は、読者が「また読んでみたい」と思うものなのですか?
あなたの提供する電子書籍サービスで、あなた自身は、読書を楽しめますか?
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■2010年7月7日 中原のTwitterタイムライン
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