2010.6.10 09:41/ Jun
研究者にとって「何を、どのように研究するのか」「研究の結果、どんな知見を導きだせたのか」ということは言うまでも、最も重要なことです。
「Publish or Perish?」という言葉は、そうした生業をしている人の心には、深く突き刺さる言葉でしょう。
しかし、言うまでもないことかもしれませんが「研究や探求のプロセスや結果をどのように見せるのか?」ということも、重要性を増していることのように思います。
これに呼応する言葉としては、工学系・情報系の研究者に共有されている言葉に「Demo or Die?」というものがありますね。
いかに自分の研究を見せるのか? どういうコンセプトをひねりだし、どういう風にステークホルダーに、その研究の面白さや重要性を伝え、「魅せる」のか、が問われます。
工学系・情報系の研究、あるいは、僕のように様々なステークホルダーと現場の改善に関わる研究をしていると、「研究をして知見を導き出すこと」に加えて、「自分の研究をいかに魅せるか」については重要性が増しているよな、と思います。
もしかすると、自然科学の領域では、こうしたことは当てはまらないかもしれませんが、程度の差こそはあれ、現在の研究は競争的グラントによって支えられているところも多いので、「研究の見せ方」については関心が多くはないが、少なくはない、というのが現状ではないでしょうか。
昨今は「科学を維持する費用」に対するタックスペイヤーの関心も高まってきています。国の財政がショートしているなか、もはや「科学」だからといって「聖域」ではないというのが、(自分の首を絞めるようですが)、僕の「認識」です。
資源を持たぬこの国がよってたつのは、「人材」であり「科学」であり「技術」だと思います。しかし、だからといって無尽蔵にこれにお金をつぎ込むことはタックスペイヤー、いえいえ、国の財政が許さないでしょう。
このような現状認識からすると、程度の差こそはあれ、「研究を見せること」、その上で様々なステークホルダーの理解を得ることの重要性は高まってきているように感じます。
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「研究を見せる」といっても、見せ方は非常に多岐にわたります。しかし、最も、私たちの身近なのは、「研究のタイトル」の付け方ではないでしょうか。
たとえば文部科学省・科学研究費(グラント)のタイトルは30字でしたっけ? この30字で、自分の研究がいかに新しく、社会的意義があるかを説明しなくてはなりません。
僕は、いろいろな学会に所属しておりますので、査読をたくさん抱えています。査読をしていていつも思うのは、投稿論文には「タイトル」を読んだだけで、内容がおおよそわかるものと、そうでないものがあるということです。前者は、査読中、すべてが構造化して頭に入ってきます。後者は、理解するのに時間がかかります。
もちろん、査読者は全文を精読いたしますよ。全部読むけれど、どちらが査読者の深い理解を得られるかは、推して知るべし、だと思います。
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しかしながら「研究の見せ方」、あるいは「タイトルの付け方」なんていうものは、教科書に書いてある知識ではありません。これらは研究をしていく中で、経験の中から身につけていくものでしょう。あるいは、研究指導のプロセスの中で、少しずつうまくなっていくものなのかもしれません。
とはいえ、全く鍛錬する方法はないか、というと、「参考になる方法」はあるのかな、というのが僕の認識です。
僕は、個人的に、異分野の本を読むことが好きですので、自分の「研究の見せ方」を鍛える意味で、コピーライティングの本などを練習がわりに読むことがあります。
「コピーライティング」と「研究のタイトルづけ」は全く異なる作業ですが、「短い情報量で伝える」という意味では、参考になるところも少なくありません。
たとえば、Yahooトピックスのニュース見出しは14文字。この見出しをどのようにつくるか、という下記の本は、非常に面白く読めました。
また、往年の名著ケイプルズの「ザ・コピーライティング」なども参考になりました、、、というより、いくつもの練習問題がありますので、読んでいて面白かったです。
例えば、ケイプルズの本から練習問題をひとつ。「ピアノレッスンの広告案」の例題です。あなたがクライアントならば、どちらの「提案」の広告にGOをだしますか?
【提案1】
1.ビジュアル:ピアノを弾いている男性
2.見出し:「数ヶ月前は全く弾けなかったんです」
【提案2】
1.ビジュアル:楽器を演奏している人々
2.見出し:「演奏できるようになる、ちょっと変わった方法」
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もちろん、これで研究の見せ方がうまくなるかどうかは知りません(笑)。コピーライティング、言葉遊びは、単なる僕の趣味ですので、真に受けないように。
ただ、こういうものを読んでいると、「言葉に対して敏感になる」というのは確かだと思いますよ。街を歩いていても、記事のタイトルを見ても、他の研究者の研究プレゼンを聞いていても、「素敵な表現だな」とか「あ、これうまいな」とか「こうすればいいのにな」と思うことが増えてくるように思います。
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やや話が脱線しましたが、今日のお話の核心は「どのような研究を為すか」ということに加えて、「どのように研究を魅せるか」は少しずつ重要性が上がってきているということです。
もちろん、それがいくら重要性を増しているからといって、前者がままならないうちに、後者に取り組むのは本末転倒でしょう。まずは「どのような研究を為すか」が最も重要であることは、繰り返し指摘しても、指摘しすぎることはありません。
いやいや、いろいろ気にとめなければならないことがあって、大変な時代です。
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■2010年6月9日 中原のTwitterタイムライン
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