2010.5.26 06:17/ Jun
組織研究において、組織社会化とは「新参者が、組織目標を達成するために必要な知識・技術・価値観を獲得し、組織成員になっていくプロセス」をいいます。要するに、一言でいうと「新人が職場に適応し、一人前になっていくプロセス」ということになります。
例えば、今は、新入社員がそろそろ研修を終え、職場に配属された頃でしょうか。この場合、新入社員は、まさに組織社会化のまっただ中にあるということになりますね。
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昨日、大学院中原ゼミで、「組織社会化」の文献レビューを関根さん(M1)が報告してくれました。なるほど、この領域は膨大な研究知見があるのですが、印象的だったのは、「組織再社会化」という概念です。
要するに、いったんある特定の組織に「社会化」された人が、それ以外の組織に参入したり、組織間の境界を渡ったときなどに、「ふたたび社会化されなおすこと」を、「組織再社会化」といいます。
「組織再社会化」と「組織社会化」を明確に区分する境界は曖昧です。「組織再社会化」は、「組織社会化」の「ひとつ」とみなすこともできますが、ここでは、敢えて分けて考えることにしましょう。
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現在は、組織は常に揺れ動いています。また、組織間の人の移動も、どんどんと激しくなることが予想されます。
M&Aや事業再編が繰り替えされ、「組織の境界」は常に入れ替わっています。一方、かつての「終身雇用」という雇用慣行(というよりも心理的契約)は、もう過去のものになりはてています。
いったん社会化され、組織に適応したとしても、その組織自体がステイブルであることはあまり期待できません。組織自体が揺れ、再編成されているからです。また、今後、雇用の流動化、グローバル化は、望むと望まないとに関わらず、進むでしょう。これは、ひとつの企業の選択、経営判断というよりは、マクロな社会構造の変化です。
このような中では、かつてからの「組織社会化」に加え、「組織再社会化」の研究の重要性が上がってくるのではないか、と推測します。実は、「組織社会化」の研究量に比べて、「組織再社会化」の先行研究量は少ないのです。
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例えば、ある会社で、ITのプロジェクトマネジメントの経験をかなり積んだ人が、その経験をかわれて、他の会社に中途入社するとします。
「中途入社」ということですので、本人にも「俺は経験者だ、仕事はできるんだ、誰にも頼れないな」というプライドありますし、また、周囲も、当然のことながら「即戦力」と見なします。望むと望まないとにかかわらず、彼には「即戦力」としてのラベルがついてまわります。
多くの会社では、中途入社の場合、新入社員のように、様々な「組織社会化」のための機会は設けられていないことが多いでしょう。中途入社のためのメンター制度なんて話は、新人のメンター制度の比べて聞くことは少ないと思います。中途入社した人は、プロマネの「即戦力」になることを期待され、職場にすぐに配属されます。
しかし、わたしたちの経験則からは、必ずしも、この人が、十全たる仕事のパフォーマンスを発揮できるかというと、そうではありません。
ある特定の会社でつんだ経験が、他の会社での仕事に「転移しない=活かせない」ということが往々にして起こるのです。つまり、仕事がなかなかできない。最悪の場合によっては、職場に適応できない、ということが起こりうるのです。また、仕事のパフォーマンスを十全に発揮するまでには、長い時間がかかることも、ままあります。
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この現象の理由は、複雑であり、かつ、多要因です。
外から見ると同じプロマネの仕事であったとしても、ある仕事をなしえるために、本来は必要な背景知識や業界の常識などを知らなかったりすることも、理由としてはありえるかもしれません。
特に日本企業の人材育成の特徴であるOJT(On the job Trainng)で開発されるのは、企業特殊スキル(特定の企業で機能するスキル≒特定の企業でしか機能しないスキルともよべる)だと言われています。ですので、前職で学んだことは、次の職場で活かせないことが起こる可能性は低くはありません。
この場合は、必要な知識を「学び直す(Re-learn)」必要がでてきます。場合によっては、今までの「知識・技術」を「捨て去る=学習棄却する(Unlearn)」必要がでてくる場合もあります。
また、仕事をなすためのコンテキストが、会社がかわれば、全く変わるということもありえます。コンテキストを理解するまでに相当の時間はかかるでしょう。あらゆる仕事の能力は、文脈や状況に埋め込まれています。
こうした場合、おそらく「組織再社会化」が必要になるのでしょうが、実は、あまり、これらについてはわかっていないことが多いように思います。そして、これからの時代は、こうした研究が増えてくることが求められるようになるでしょう。
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組織の境界を越えるとき・・・
人は、今までもっているものの何を捨て、何を得なければならないのでしょうか。何を学び(Learn)し、何を学びほぐし(Unlearn)、何を学びなおさなければ(Re-learn)しなければならないのでしょうか?
また、どのような経験を活かし、どのような経験の意味づけを再び行わなければならないのでしょうか。
いずれにしても、間違いのないことは、私たちは、望むと望まないとにかかわらず、いつまでたっても、組織社会化が終わらない時代を生きることになってしまった、ということです。
「組織再社会化」「組織再再社会化」「組織再再再社会化」が連綿と繰り返され、その矛盾と葛藤のプロセスの中をサバイブしなければならないということなのかもしれません。
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追伸.平成23年度東京大学大学院学際情報学府修士課程入試説明会のお知らせ
今年の大学院入試説明会が、6月12日開催されることになりました。この1日で、大学院のシステムがご理解いただけるものと思います。また、16:00~17:00からの「学環・学府めぐり」では、各研究室がポスターセッションをします。僕もポスターセッションで、研究のご説明をいたしますし、また中原研究室の大学院生もたくさんおりますので、お話をお聞きいただけるものと思います。もしよろしければ、ぜひ、お越しください。
■平成23年度東京大学大学院学際情報学府修士課程入試説明会
日時:2010年 6月12日 (土) 13:00 ~ 17:00
会場:東京大学大学院情報学環・福武ホール(赤門横) 福武ラーニングシアター(B2F)
詳細はこちらでお願いします
http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/iii/news/201123.html
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■2010年5月25日 中原のTwitterでの発言
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