NAKAHARA-LAB.net

2009.10.24 10:45/ Jun

「前のめり」の社会:僕らのまわりには”Pro”があふれている!

 本日土曜日、TAKUZOとママは、「親子製作教室」があるとかで、保育園に行きました。なにやら、「作品!?」を親子で2時間かけてつくるそうです。どんなものができるのか、楽しみです。
 一方、僕は、今日は「仕事」です。
 朝から研究室で「本」を書いております。
 しこ、しこ、しこ、しこ。
 せこ、せこ、せこ、せこ。
 嗚呼、クソも進みません。
 もうスランプです。参ったな。
  ▼
 午後は、「階層的データ分析と協調学習に関する研究会」をやる予定ですので、東京大学・福武ホールに向かいます。
 階層的データというのは、一言でいうと、「データの中に独立の被験者がババーンと複数存在しているようなデータ」ではなく、「データ全体の中に複数の「ハコ」があって、その「ハコ」の中に複数の被験者が含まれているようなデータ」のことをいいます。
 その統計的取り扱いは、近年の人文社会科学でやや問題になっています。今回の研究会では、北村智さん(東京大学大学院 情報学環)の多大なるご協力をえて、「協調学習研究において、階層的データをどのように扱うか」という研究会を開くことになりました。
北村智先生
http://www.satkit-lab.net/
 まずは中原から趣旨説明をしました。その後、北村さんに、1) 集計データでの分析、2)ロバスト標準誤差を遣った回帰分析、3)階層線形モデルなどをつかった分析、4)マルチレベル共分散構造分析などについてレクチャーをしてもらいつつ、議論を深めました。青学、東工大、放送大学などから、協調学習に関心をもつ研究者が集まりました。熱心に議論が進みました。
 ちなみに、個人的には現在、いくつか階層的データを分析していますので、このタイミングで、この研究会に参加することは、既存の知識を整理する意味でも、非常に有益でした。北村さんには感謝します。
 僕が今やっているのは組織調査のデータなので、2)ロバスト標準誤差を遣った回帰分析、3)階層線形モデルあたりが最も利用頻度が高そうです。
 3)の階層線形モデルについては、すでに使ったことがあります。2)については、これから少し勉強しなくてはなりませんね。早速関連書籍と分析ソフトウェアを発注することにしました。何事も、膳は急げです。
  ▼
 明日日曜日、今度は、ママが仕事の日です。
 一方、僕は、一日、TAKUZO三昧、TAKUZO漬けです。
 さぁ、どこに連れて行こうかな・・・。
 あなたの街に、僕とTAKUZOがプラプラしているかもしれません。
 —
追伸1.
 昨日のエントリー、新入社員が組織にもたらす影響に関して、甲南大学の尾形先生の論文が先行研究としてあったよ、とM0の関根さんが教えてくれました。さっそく関連する文献の複写コピーを図書館にかけています。
新人の参入が組織・職場・個人に与える影響
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0008102435&lang=en
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追伸2.
 昨日、ワークショップ部のインタビューを受けました。Ba design magazineということで、「場作り」に興味をもっている方々を読者としてメルマガを発行するようです。僕は、Learning barについてお話ししました。
 これまで、Learning barのあり方については、新聞・雑誌など、インタビューを受けてきました。それとは異なることを、語ったつもりです。もし、よろしければ、ぜひどうぞ。
ワークショップ部 Ba design Magazineはこちら
http://utworkshop.jimdo.com/
ワークショップ部 Twitter
http://twitter.com/workshop_bu
 —
追伸3.
 昨日、ハーバードビジネスレビューの別冊「超MBA思考法」をぱらぱらと読んでいたら、大阪大学総長の鷲田清一さんが、「受け身の作法」ということで、こんなことをおっしゃっていました。

 鷲田さんの持論でいらっしゃる「聞く」「対話する」「待つ」にひきつけての小論です。
 曰く、
 現代は、社会も企業も学校も、あらゆる活動が「前のめり」です。そこあるのは「Pro(前)」という概念です。
 たとえば、会社の業務について考えてみると、あちこちに「Pro」がついていませんか。
 プロジェクト(Project)を立ち上げる、そのために利益(Profit)の見込み(Prospect)を確認する。
 見込みがついたらプログラム(Program)づくりに入り、計画書ができたら生産(Production)体制を整えて、販促(Promotion)する。そして、進歩(Progress)の度合いで、昇進(Promotion)が決まる。
(中略)
こういう時代に最も嫌われることは「待つこと」でしょう。(中略)受け身でいることはあまり評価されません。しかし、馬車馬のように、ひたすら前のめりに走っていれば、必然的に視野が狭くなります。
(鷲田清一 2009)
 鷲田先生のおっしゃるように、確かに、僕たちの日常は「Pro」だらけですね・・・。僕を含めて、みんな「前のめり」に生きている。そんな中で忘れ去られがちなのは「待つこと」「聞くこと」なのかもしれません。
 ちなみに、この特集号、かなりオトクだと思います。
 ハーバードビジネススクール教授のエイミー・エドモンドソンが「学習志向の業務遂行」について書いていたり(エドモンドソンは、恐怖が学習を阻害する、という信念のもと、心理的安全とチーム学習の実証研究で有名ですね)、IDEOのティム・ブラウンが「デザイン思考」について書いていたり、佐藤郁哉さんが「ナラティブ」について、小林康夫さんが「ブリコラージュ」について書いていたりして、なかなか面白かったです。いわゆるMBA的知識ではないですが、僕好みです。
 そういえば、もう1点。ご存じの方も多いかもしれませんが、神戸大学・松尾睦先生が、新著を上梓なさいました。「学習する病院組織」です。

 この本では、淀川キリスト教病院、聖隷浜松病院、医療生協さいたまの3病院のリーダー達が、いかに患者志向の理念を仕組み化したのかを事例研究で論じています。理論的には、組織学習とリーダーシップの関係性、ということになるのかもしれません。僕は、草稿の段階で拝見しておりましたが、なるほど大変勉強になりました。精力的な活動、本当に頭が下がります。
 それでは、そろそろ仕事に戻ります。
 夢の続きを見るとするか。

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