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2009.6.4 10:52/ Jun

伸びる大学生、伸びない大学生!?

 松尾睦先生(神戸大学)のブログ記事「知的刺激が大学生を伸ばす」を拝見しました。CDCという異業種交流会の研究の知見、僕は拝見したことがないので、詳細はわかりませんが、非常に面白いですね。
知的刺激が大学生を伸ばす
http://blog.goo.ne.jp/mmatu1964/e/5945ca6613d7de384cb80f7b295125b0
 数校の大学生を対象に調査を実施し、学生時代に「能力がアップした人」と「そうでない人」を比較したところ、次のことが明らかになった。
能力がアップした人は
1)学業、アルバイト、サークル等の活動へのかかわり方が違っていた。
2)挑戦して成果を出し、責任のある立場で活動し、知的な活動を経験していた。
3)アルバイトよりも、学業と課外活動、特にゼミから学んでいた。
4)ゼミにおいて、ひとつのテーマをきちんと追求し、グループで物事を考え、リーダーシップを発揮していた。
(上記、ブログより一部引用)
  ▼
 僕はこの論文を読んだわけではないので、詳細なコメントはできないですが、上記に関する限り、興味深いなと思いました。
「ゼミにおけるグループ学習でリーダーシップを発揮できるかどうか」というのが「能力アップ」の分岐点のひとつというのなら、この知見は大学教員を勇気づけるものですね。
 人事担当者の中には、いまだに、
「大学で学んだことは全く役に立たないから、すべて忘れて白紙で企業に来い」
 と学生に告げる人もいないわけではありません。そういう言葉を浴びせられて、モティベーションダウンしている学生を、これまでにも何人も見てきました。
(一方で、企業の人事部の方の中には「大学で必要な知識やスキルを教えないから、企業は苦労する」と公言なさる方もいらっしゃいます。先ほどの「白紙でこい」は、同じ会社の同じ人事部にお勤めの方の発言であったりします。せめて、自分の会社で採用する人に必要な要件くらい、人事部内でちゃんと話し合って欲しいものです)
 ▼
 この研究に関連して、またいつものように妄想力をふくらませ、思いついたことを書いておきます。
 ひとつめ。
 たとえば、この研究においては、アルバイトは肯定的には評価されているようですが(一見した限りは)、それとは異なる知見も存在しているように思います。
 北九州市立大学の見舘先生は、学生がアルバイトをする前とした後の、コンピテンシーの伸びを測定するご研究をなさっています。その伸び方が、学生の従事するアルバイトの職種によって異なることを明らかにしていらっしゃいます。
「学生時代、何から一番学びましたか?」
 と学生に問うと、真っ先に返ってくる問いは、「アルバイト先での経験」という答えが多い傾向があるように思います。
 アルバイトの経験といっても、もしかしたら「一様」ではないのかもしれません。学生の能力伸び、あるいは経験学習に貢献するものと、そうでないものがあるのかもしれないな、と思いました。
 そして、おそらくは、どれだけ能力が伸びるかは、仕事の内容、仕事場の組織化のされ方、そして、そこで支配的な価値観や規範に関係があるのでしょうね。
  ▼
 ふたつめ。
 先日、京都大学の溝上慎一先生から送っていただいた原稿(世界思想 Vol36 pp35-39)によると、「大学生の学生生活の時間の使い方」は、4つのクラスタ(まとまり)にわかれるそうです。つまり、時間の使い方という観点から、大学生を分類すると、4つに分かれるということですね。
■タイプ1.
 自主勉強・読書 / テレビゲーム / 友人クラブ・サークル・・・すべての活動に活発な学生
■タイプ2.
 自主勉強・読書 / テレビゲーム / 友人クラブ・サークルすべてに何もコミットしていない学生
■タイプ3.
 テレビゲームだけをしている学生
■タイプ4.
 友人クラブサークルだけに精を出している学生
 いかがですか?
 ご自分の学生の頃を振り返ってみてください。
 皆さんは、どのタイプでしたか?
 ちなみに僕は・・・・
   ・
   ・
   ・
 教養学部の時代、つまりは1年生~2年生は、完全に「タイプ2」でした。いわゆる「ひっきー」です(笑)。
 今から考えると人生の大きな損失だったと思いますが、まぁ、しゃーないね、やっちゃったもん、しゃーない。
 人が変えられるのは現在と未来。過去は変えることができません(泣)。
 僕は、1年生~2年生のとき、周りにいる学生のノリに、僕は、全くついていけませんでした。友達も、あまりできませんでしたし、学びがいを感じたことも、あまりありませんでした。とはいえ、何かに抵抗しようとも思いませんでしたし、何かを成し遂げようともしませんでした。
 つまりは、一言でいうと、何もしていませんでした(笑)。もう、ダメポ。
 ちなみに、3年生~4年生は、がらりと変わりました。本郷に来てからは、自己学習・読書+交友系の学生であったと思います。
 たくさんの本を読むようになりましたし、いろいろな場所にフットワーク軽く出掛けるようになりました。
 どちらかというと、ひとりでシコシコ学ぶのではなく、いろいろと人を巻き込んで、研究会をやったり、勉強会を主催したり、プロジェクトを実施したりしていました。そのスタイル – 「寂しがり屋の学び好き」は、今もなお、あまり変わっていません。
 それにしても、なんで、僕、変わったんでしょ?よくわからないのですが、いくつか思い当たるところはあります。それはまた別の機会にお話しします。
 閑話休題。
 話を元に戻しましょう。
 面白いのは、タイプ1の学生は、将来展望や、それに対応する日常の努力、知識や技能の獲得意志が強い傾向があるようです。また、授業外を通して教養を身につけたと答える傾向があるそうです。
 面白いですね。
 既に、学生の頃から「差」はついているのかもしれませんね。
(この調査は、京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育成会共催の調査「大学生のキャリア意識調査2007」の結果です。下記で調査結果が公開されています。
大学生のキャリア意識調査2007
http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/research/top.html#anc02
(ちなみに、いくつかの論文をお送りいただいた溝上先生に、この場を借りて感謝いたします。溝上先生の原稿を拝読するたび、その生産性の高さと思考の鋭さに舌をまきます。そして、「オレもがんばらなアカンやん」と思うのです。)
溝上慎一先生のWeb
http://smizok.net/
  ▼
 みっつめ。
 今は、大学も、学生の学生生活、学習環境を知る努力をはじめています。具体的には、大学法人評価の関係で、達成度調査や学生生活実態調査というのを実施している大学が多くなっています。僕が所属しているセンターでは、これに類するいくつかの調査を実施しています。
 ここで得られたデータと、企業の人事部のデータをうまく照合させれば、どのような学生生活をおくった人が、その後、どのようになっていったかを追跡調査できるのではないか、と思いました。いろいろ乗り越えなければならない壁は多いのでしょうが(理論的にも実務的にも)、できないことはないな、と思いました。
 そういう企業と大学の協働は、
 学生が伸びないのは、大学の責任だ
 いやいや、企業の責任だ
 と、しょーもない応酬をしているよりも、よほど、「建設的」だと僕は思います。そして、僕自身は、そういう「新たな協働のあり方」を模索したいと願います。

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