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2008.11.11 06:56/ Jun

学び手の感覚、学びに対する意識

 最近、いろいろな研究や論文を読んでいて、
「嗚呼、これが今みんなのホットトピックなんだねー」
 と思っちゃうことのひとつに「学び手としての意識」「学ぶことに対する見方」の問題というものがある。
 要するに、
「学習者に、自分が学び手だという感覚をどのようにもってもらうか」
「すべての人々が、学校教育(被教育経験)の中で培われた学び観、教育観を、いかに相対化し、それから自由になってもらうか」
 ということが、僕の近くで研究をしている人々の主要な関心のひとつになってきているような気がする。
 もちろん研究者によって言い方は違う。
「学びほぐし」だの、「Epistemic Agency」だの、「Epistemic perspective」だの、いろいろな異なった専門用語!?で呼ばれることが多いけど、僕には、結局、皆、同じことを言っているような気がしてしまう。
 おそらく「学ぶこと」そのことよりも、それ以前の問題、「学び手としての意識」「学ぶことに対する意識」をもっと問題の前景にもってこようぢゃないの、という話なのかな、と推察する。
 で、多くの人が、こういう風に考える背景には、こういう実践上の課題があるんだと思う。
「学習観が硬直化してしまった人、自ら自分を学び手だと思っていない人に、後続してどんな学習を与えても、結局、なかなか変容には結びつかない。
なぜなら、そもそも学びを見る視座や認識や意識が、それに順応していないので、ギャップや不協和を生み出してしまうから」
「教育の目的とは、究極のところ、自律したスマートな学習者を育てることにある。そういう人物像の根幹には、自ら学び手であるという意識や、学びに関する持論がなければならない」
 というわけで、「じゃあ、学び観や教育観を何とかすっぺ」という話になるんだけど、これが、なかなかフツーに難しい。
「知識」や「スキル」なら積極的に扱えるのかもしれないけど、「観」や「感覚」ですからね、相手は。
 硬直した学びのイメージ、学び手の意識を、いかに解き放つか。
 この課題に関しては、いくつか仮説的な試みがなされているけれど、まだまだ本格的な研究はこれからなのかな、という気がする。
 個人的には、学び観変容や学習者主体性の確保、そのものを「目的」に据えたトリートメント(教育的処遇)というのも、なんかプチ違和感はある。
 なぜなら、学び観や学習者主体性は、結局、長期にわたる学習プロセスの中で構築された(学習された)ものであるから、それを逆に脱構築するときも(学習棄却するときも)、他に何か学ぶものがあって、それに付随して副次的に起こるものなのかな、と思うから。
 あともうひとつは、そんな長期にわたるプロセスの中で学習されたものを、短期間のトリートメントで変容させうるものなのか、ということに関して自信がないから。
 でも、じゃあ、具体的にどうすんの?と言われたら、今の僕には、「すんまへん、出直します」という他はないんですけど。
 ともかく、自分の経験に照らしてみても「学びのイメージ」や「自分が学び手なのかどうかという感覚」は、大人の学びにとっても非常に大きい気はする。
 非常に面白い研究テーマだな、と思う。

 年明け2月に企画していたシンポジウムの委員会の会合が開催された。委員会メンバーの必死のすり合わせも実らず、シンポジウム内容、シンポジウムを終えたあとの活動イメージで合意には至らなかった。時間切れということもあり、イベント開催は中止。
 現在、僕の研究活動は、いくつかを除いてほぼすべてが「産学連携」のかたちで進行している。でも、いくら経験を積んでも、産学連携の試みとは、ものすごい難しいことだな、と思った。今回の出来事から、自分としては、いくつかの「教訓」を得た。
 もちろん、今回のことがきっかけで、こうした試みを辞めることは、1ミリも考えていない。
 そもそも僕の研究の場合、「産」の皆さんにご協力を仰がなければ、前にも後にも進めない。また、「学」のプチ知見!?が、「産」の世界を整理したり、脇から眺めたりするよい刺激になるものと、僕は信じている。
 両者のコラボレーションがあってこそ、この領域は前に進む、そう僕は信じている。
 が、そうはいうけど、正直ベースでいうとね・・・。
 昨日の夜は「心」が折れた。
 もっと正直にいうと、今もまだ快復はしていない。
 いやー、そんなこともある。
 あんのよ、実際、いろいろ、ねー(笑)。
 そして人生は続く。
 僕は、前に進む。

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