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2008.11.2 16:22/ Jun

ワークプレイスラーニング2008を振り返る

 10月31日(金) 東京大学安田講堂にて、年に一度の産学カンファレンス「ワークプレイスラーニング2008」が開催されました。
ワークプレイスラーニング2008
http://www.educetech.org/wpl2008/
 今回は、1280名のご応募をいただき、最終的には約800名の方々にお集まりいただきました。ありがとうございました。
 以下、この日の出来事を振り返ってみたいと思います。
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 まず、今回のカンファレンスのテーマは、
「企業教育」の新たな役割をさぐる
 でした。ここで、「企業教育」を、「」でくくったのには、理由があります。
 それは、企業教育の歴史をひもといてみればわかるのですが、実は我々がアタリマエだと思っている人材育成のかたちとは、何一つ「固定的な、決まったかたち」などなく、社会的、思想的な状況変化に応じて、常に変わってきている、のだということです。
 たとえば、1960年代の企業教育とは、「明確な指示・命令を部下に与えることのできる管理職と、それに従順に従う部下という身体の開発」でした。そこで試されていた手法も、今の我々からは想像を絶するようなかたちでした。
 それが、高度経済成長期をへて、さらにはバブルという不況をへて、今につながっています。
 それでは、今、我々は、どのような人材を、どのように育成しようというのか。そして、それを担う人々は、どのようなあり方を求められるのか。
 我々主催者側(企画委員会側)が、今回のカンファレンスで、最も問いたかったことは、そういうことでした。
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 朝、いまだ静かな安田講堂です。
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 下記は受付の様子です。今回は多くの方々を迎えるため、総勢50名ものスタッフが準備にあたりました。スタッフは、協力企業から人をだしていただきました。心より感謝いたします。
 この50名の方々を「受付チーム」「会場チーム」にわけて、それぞれにリーダーを決めて運営いたしました。
 下記は受付の様子です。受付のリーダーは、産業医科大学の柴田さんでした。一時的に混雑したものの、ほぼ順調に受付ができたようです。
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 さぁ、いよいよです。
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 カンファレンスの冒頭。
 企画委員会の主査である、中原と長岡先生の方から企画趣旨を述べました。
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 中原からは
1. ワークプレイスラーニングとは、研修の学びに加えて、現場の学びを重視した考え方であり、多くの組織で、1)実務を通した学びのあり方、2)研修と連動した現場の学びのあり方、が問い直されはじめていること
2.このカンファレンスは、「聞くカンファレンス」ではなく、皆さん自身がディスカッションして、気づくことを目的に設計されていること
 などをお話ししました。
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 Learning barにご参加なさったことのある方はおわかりと思いますが、僕は「聞くだけの場」を設けることをよしとしません。
 僕の設計する場の場合、各事例発表のあとには、30分間におよぶ参加者ディスカッションがありますし、携帯電話を活用したフィードバックディスカッションもあります。
 カンファレンス自体が、「参加すること」「知をともに探求すること」を前提にデザインされているのです。
 今回は新たな試みとして、千葉工業大学の原田先生、学生さんらによるグラフィックファシリテーション(リアルタイムで図で議事録をとる)も行っていただきました。この図を見て、参加者の方にリフレクションしてもらうことが目的です。
 参加者には非常に好評で、休み時間などにここを訪れる方がたえませんでした。本当にお疲れ様でした。
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 長岡先生からは、先ほどの中原の話を踏まえて、
1.「研修」や「OJT」というラベルがないと「人材育成」とは言えないのか
2.「人材育成部門」が絡んでいない活動は、「企業教育」ではないのか?
3.人材育成担当者はどの範囲の「学習」までコミットすべきなのか?
 という問いかけがなされました。今後のカンファレンスでは、これら一連の問いに対して、事例をまじえ、皆さんで考えていくことになります。
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 最初のご発表は、花王株式会社の下平博文さんに、「”問いかけ”としての企業理念」という内容でお話しいただきました。
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 花王の理念である「花王ウェイ」を広めるために、下平さんたちは、職場単位のワークショップを開発しました。部課長による手揚げ式で、職場単位で「花王の理念とは何か?」「花王で仕事をする意味とは何か」「自分たちは何をめざすべきなのか」を対話していきます。
 この対話プロセスを通じて、仕事の現場で階層を超えた絶えざる学習を起こしていくというお話でした。
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 続いてのご発表は、NTTソフトウェア株式会社の渡辺浩一さんです。渡辺さんには、「ソリューション営業力強化に向けた現場での取組み」という内容でお話をいただきました。
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 NTTソフトウェアでは、営業力強化をはかるために、営業プロセスを「見える化」するシステムの開発を行いました。
 営業プロセスの徹底した見える化により、タイムリーで、具体的で、高度な上司 – 部下の「対話」を実現します。現場主導で、上司 – 部下のインタラクションを通じて、「自立・自律している営業担当者」の育成をめざしているというお話でした。
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 事例発表のあとは、小樽商科大学の松尾先生、産業能率大学の長岡先生、中原のセッションがはじまります。
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 松尾先生は経営学の立場から、長岡先生は社会学の立場から、各事例に、的確で素晴らしいコメントをいただきました。
 その後は、いよいよ、会場全員でのディスカッションですね。皆様のご協力のおかげで、最初からスムーズにディスカッションがはじまりました。非常に盛り上がりました。
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 その後は、皆さんから携帯電話で寄せられた質問を、僕がかわりに、講演者の方に投げかけるセッションです。この日、計105件のメールが、僕のところまで寄せられました。皆様ありがとうございました。
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 午後のセッション。
 トップバッターは、KDDI株式会社の園田貴さんです。「トップから始まる全社的CS(TCS:Total Customer Satisfaction)の職場展開」という内容でご講演いただきました。
 KDDIでは、「全社をあげたお客様満足の向上」に向け、トップと現場が対話と実践を繰り返しています。このCS向上の取り組みが、従業員のエンゲージメント向上などに影響を与えているというお話でした。
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 次に、株式会社あおぞら銀行のアキレス美知子さんに「人財開発部門の戦略的役割」という内容でお話をいただきます。
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 アキレスさんは、メリルリンチ証券、住友3Mなどの外資系企業において企業教育部門の刷新を行ってきた経験をふまえ、人材育成部門は、今後、どのような役割をはたしていくべきなのか、についてお話になりました。
 人材育成部門は、戦略に貢献しなければならないこと。また、その変革のコツをお話になりました。
 その後は、再度、解説+ディスカッション+携帯フィードバックと続きます。
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 最後に、中原からのラップアップです。
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1. 企業教育の新たな姿として、「かかわりや対話を通した学習」というものが増えてきていること。「学習」というものをクラスルームの中だけに限定せず、広くとらえることが重要であること
2. 企業人材育成担当者の新たな姿として「ネットワーキングし、対話を促す育成担当者のあり方」が求められていること。
3. 2に関して、具体的には、職場内部のニーズをマーケティングし(、HRのあり方に関する「仮説」や「ありたい姿」を描く「職場内ネットワーキング」と、各事業部、経営者のかかげる難問と渡り合うため、外部の専門家、ベンダーの力といかにパートナーシップを築くかという「職場外ネットワーク」が求められていること
 などを述べました。この内容は、今日一日のディスカッション、講演内容、コメントを踏まえ、僕なりにまとめたものです。
 長岡先生がご提示なさった「人材育成担当者はどの範囲の「学習」までコミットすべきなのか?」という問いは、非常に鋭いものだと思います。また、松尾先生がご提案なさった「人材育成部門の仕事を営業をメタファにする話 – 今後必要なのはインターナルマーケティングだ – という話は、今後を考える上で示唆に富むな、と思いました。
 これにてワークプレイスラーニング2008は終了です。
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 最後に、この場を借りて、今回のカンファレンスの開催に協力いただいた下記の企業の方々、
 NRIラーニングネットワーク株式会社
 株式会社 ダイヤモンド社
 日本能率協会マネジメントセンター
 株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
 学校法人 産業能率大学
 
 NPO法人日本アクションラーニング協会
 グローバルナレッジネットワーク株式会社
 株式会社 グロービス
 株式会社 ヒューマンバリュー
 株式会社 レビックグローバル
 日本CHO協会
 らーのろじー株式会社
 また、事例提供をいただいた企業の方々、アルバイトとしてお手伝いいただいた東京大学大学院の大学院生諸氏、エデューステクノロジーズ事務局長の坂本君、Backstageのディレクターであった牧村さん(Backstageについては、また機会を改めて書くことにいたします)、そして、「卒意」をもって、ともに場を構成していただいた「参加者」の皆様。
 皆様に感謝いたします。
 本当にありがとうございました。
 体制、内容は未定ですが、僕としては、来年もこのカンファレンスを開催し、新たな挑戦を行っていければいいなと思っています。
 よろしくご支援のほどお願いいたします。
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