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2008.5.23 07:45/ Jun

道草

 夕方、仕事場から猛烈な勢いでダッシュして、TAKUZOを保育園に迎えにいきます。1週間に1度か2度、僕が、TAKUZOを迎えにいく日があります。
 セーフ!
 TAKUZOを含めて、まだ、保育園には、親の帰りを待つ子どもがたくさんいました。
 TAKUZOは午後6時を超えると、急に、「不機嫌」になるそうです。5時30分を超えたあたりから、何人もの親が入れ替わり立ち替わり、自分の子どもを迎えにくるからでしょう。
「オトモダチ」が一人、また一人と帰っていきます。寂しいだろうな。時には、広い教室の片隅で、TAKUZOがひとりポツンと遊んでいるのを見ることもないわけではありません。ブロックに向き合って、ひとり。そんなとき、僕は、胸が痛い。
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 帰り道は、僕とTAKUZOの時間です。「道草」のはじまり、はじまり。
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 まずはちょっと腹ごしらえ。小さなドーナツを買って、僕が5分の4、TAKUZOに5分の1あげます。これで、しばらくは、お腹はもつでしょう。
「パパとTAKUZOの秘密だよ、ママには内緒だよ」
 こんなところに書いてしまっては、「秘密」もクソもないですけれども。
 帰り道、大人の足であるけば5分もかからない道を、ゆっくり1時間くらい時間をかけて歩きます。TAKUZOは、あっちに歩いては、戻り。こっちにきては、向こうに歩きます。好奇心がむくまま、気の向くまま。危険なときを除いて、なるべく抱きかかえないようにします。
 薬屋の前のSATOちゃん(象さん)、工事現場のポール、時計屋の壁掛け時計、そしてまたSATOちゃん、非常口のサイン、路地にさいたパンジー、エレベータのボタン・・・。
satochan.jpg
 いろいろなものを見て、触れ、匂いをかぎ、TAKUZOは、トコトコと歩いていきます。
takuzo_michikusa.jpg
 TAKUZOの一挙一動を見ていると、時にはハッとすることもあるんです。
「ここに、こんなに綺麗な花が咲いていたんだ」
「こんなところに、小道があったんだ」
ohana.jpg
 日常生活の中で、僕には、Seen but not noticed(見えてはいるけど、気づいてはいない)ものが、なんて多いんだろう。TAKUZOは、そんな「小さな発見」を僕にもたらしてくれます。毎日、そこを歩いていながら、僕には、見えていないものがたくさんある。
 でも、昔は、僕も「道草」してたんだよな。道路の両脇にうずたかく積まれた雪の山。その上を探検していたあの頃。
 僕は、いつのまにか、道草をしなくなりました。仕事場と家のあいだを、最短の時間と、最短の距離と、最小の労力で行き来するようになりました。
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 時には、父親らしく「トレーニング」もします。階段をうまく上る練習、段差を降りる練習。
 TAKUZO、「熟達化」には「注意を傾けた練習」が必要なんだよ。転んだり、つまづいたりしても、諦めちゃダメだ。大丈夫、絶対にできるようになるから。もう服は泥だらけですが、気にしないようにします。
osuwari111.jpg
 家に着く頃には、結構暗くなっています。家に入って、手を何度も石けんで洗って、消毒をして、お水を飲んで、おむつを換える。そうすると、ピンポーン。ママが帰ってきました。
 楽しい夕ご飯の時間です。
 最近のTAKUZOは、自分で食べたがります。テーブルの上は「戦場」ですね。「Hell」といってもよい。はっきり言って「汚い」。ですが、ここで文句を言ってはいけませんね。
 レストランで、フォークとナイフをうまくつかって、すました顔で料理を食べてる、あの人も、子どもの頃は、みんな汚かったんだよ。
 TAKUZO、いつか、きみにも、そういう日がくる。大丈夫、絶対にくる。
 夕ご飯を終え、お風呂に入れて、歯を磨き、ハナをとって、寝かしつけです。ここ一週間は疲れているせいか、「おやすみ3秒のびた君状態」ならぬ、「おやすみ15分TAKUZO君」ですね。
 こうして、TAKUZOの長い1日が終わります。もちろん、親の長い夜は、「これから」、はじまります。
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 夫婦ともども仕事が段々忙しくなってきました。自分たちの生活は、こんなに変わったのに、まわりはほとんど変わりません。
 子どものいない頃でさえ、「仕事を何とかこなしていた状況」だったのですが、今にはそれが「倍率ドン、ハラタイラは2倍状態」です。つーか、ハイプレッシャーすぎて、ハライタイ(胃痛)です。でも「仕事は何とかこなさざるをえない」です。
 僕の場合でいうと、きっと、以前より、時間がさらに「細切れ化」しているのだと思います。「原稿を書く」「論文を書く」「分析をする」「査読をする」といった「まとまった時間」のかかる仕事が、「後回し」になりがちです。というか、仕事ってのは、細切れではできないものなんですね。かつての僕には「まとまった時間」があったんですね。今になって、ようやくわかりました。
 共働きの子育ては、「ブレーキのないジェットコースター」にのるようなものです。それがいつ止まるのか、はたまた、永遠に動き続けるものなのか、僕には、全くわかりません。ですが、もう、ジェットコースターは動いている。
 少しずつ、スタイルをつくっていくしかないですね。見いだしていく他はないですね。焦らずに、だが、確実に。
 あと、カミサンに、もっと「楽」をさせてあげたいです。
 基本的に全く「気の利かない」僕ですが、僕がやってもマズくなさそうなことは、なるべくやろうと思っています。
 でも、気が利かない上に「不器用」なのが困ったところです。お皿を洗っても、洗濯物を干しても、「適当」なのかなぁ。オレ的には「完璧」なのですが(笑)。
「終わったぞー」
 得意満面な僕が去ったあとで、カミサンが、何も言わず、僕の「不始末」をやり直しているのを、僕は密かに知っています。ごめんね。
「今日、仕事のかえり、気晴らしに、どっか寄ってくればいいじゃん、おれ、TAKUZO、見てるよ」
「えっ、いいよ、別に」
 こちらも、どうも僕には、あまりうまく言えません。
 ごめんね。
 —
 
 もう週末か。今日は金曜日。最近、週末が来るのが早いなぁ。
 そして人生は続く。

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