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2023.2.17 08:02/ Jun

創業者が「事業承継」に失敗するとき、いったい「何」がおこっているのか?:自分のつくった「世界」に、自分を映す「鏡」がない!?

 自分のつくった「世界」に、自分を映す「鏡」がない!?
       
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 昨日まで2日間、「ファミリービジネスにおける事業承継問題」にまつわる研究会に参加していました。
     
 この研究会は、研究室OBの斎藤さん、辻さんが企画してくださったものです。研究室内外から関心のある方々が集まり、同問題にまつわる論文(先行研究)を20本読み込み、議論する、といったことにチャレンジしました。企画してくださった斎藤さん、辻さん、そしてご参加いただいた皆様に、心より感謝いたします。
       

     
 ファミリービジネスとは「経営の中核に”経営者の家族”が存在するビジネス」をいいます。ここでは、さしずめ、とーちゃんが創業者、かーちゃんが専務、兄さんが部長、弟が課長といった感じのイメージを思い浮かべていただければと思います。ファミリービジネスは、「経営」と「家庭」が渾然一体となっているところに、その特徴があります。
   
 考えてみれば「労働の場所」が「家庭」と分断される「近代」以前は、ビジネスといえば「ファミリービジネス」こそが一般的でした。しかし、大量生産・工場労働が普及してくると、「労働の場所」が「家庭」から切り離されていきます。
  
 ただし・・・これは大企業・大資本について言えることです。中小企業・零細企業ということになると、ファミリービジネスこそが、まだまだ一般的です。「とーちゃんが創業者、かーちゃんが専務、兄さんが部長、弟が課長」は、日本のここかしこに存在しているのです。
   
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 ファミリービジネスの難問中の難問とは「事業承継問題」です。
       
 すなわち創業者の年齢があがってくるに従い、創業者が所有してきた「財産」「経営権」などを、次の世代(自分の後継者)に承継しなければなりません。同族企業の多くの承継は「家族内」で行われますが、この内部で「ひともんちゃく」あり、「ドンパチ」かますことが多いのです(笑)。
       
 金銭的なトラブルは言うに及びません。
 金がからめば、ひとは、もめます。
        
 しかし、もっとも大きいものは、おそらく「創業者から後継者に変わったとき」に、後継者が「経営」「組織」をうまく引き継げるのか?という問題です。後継者のマネジメント能力、リーダーシップ、組織内政治能力が問われます。
    
 しかし、さらにややこしいことに、問題は「後継者」だけにあるのではありません。「創業者のしがみつき」も大きな課題になります。 
     
 一般に、創業者は「自分の事業」を「自分」そのもののように感じています。
   
 別の言葉でいえば、
  
 創業者にとって「自分の事業」とは「自分のつくった世界」なのです。
    
 彼 / 彼女は、この「美しき世界」をつくりだすために、心血をそそぎ、「自分の人生の多く」を賭してきました。ここにこそ、創業者が、その立場、その地位にしがみつき、なかなか承継を行えない、という問題が起こるのです。たとえ承継を行ったとしても、株だけは大きな割合を握っておき、グチグチと後継者のやること、なすことに口をだす、といった問題が起こりえます。
    
 税・法律の仕組みから考え、ロジカルに課題をとらえるならば、結論をいえば「なるべくはやくから、承継計画をつくり、着々と所有を移転し、後継者育成を行い、手放すこと」が「正解」になります。つまり、「合理的な答え」はすでに出ています。
   
 ただし、実際には、そうはならない。
 実際の社会は「非合理のかたまり」です。そして、人間こそが「非合理なもの」の中心にいます。
 創業者は、自分のつくった世界にこもり、自分のつくりだした世界から抜け出すことを「選択」することが難しくなります。創業者のつくりだした「事業」は、創業者の「アイデンティティ」そのものだからです。
   
 さらに悪いことに
    
 創業者が「自らつくりだした世界」には、創業者自身を映し出す「鏡」はありません。
     
 家族も、従業員も、評価権限を握られている経営のトップにフィードバックを行うことはできないのです。よって創業者は孤立していったり、フィードバックレスの状況に置かれます。かくして、さらに事業承継は頓挫するのです。万が一、事業承継はできたとしても、後継者のやることに、いちいち口を出すなどして、家族がうまくいかない、といった事態も起こりえます。
      
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 わたしはこうした課題を解決することのひとつに、わたしたちが専門とする「ひと・組織のアプローチ」が有効ではないか、と考えています。一般にファミリービジネスの事業承継は、税・法律・経営のアプローチが多いものですが、「非合理なひとと組織」のアプローチをもてば、より解像度の高い課題解決ができるのではないか、と思うのです。
    
 「ファミリービジネスの事業承継研究」は斎藤さん・辻さんらとの共同研究で、まだ取りかかって1年くらいの新ネタですが(研究代表者の斎藤さんからお誘いを受けました)、ここから数年かけて、とともに、この難問にまつわる納得解を解いていきたいと考えています。
  
 最後になりますが、研究会にご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
  

     
 そして人生はつづく
     
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