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2022.3.8 07:11/ Jun

ウェストサイド物語は「愛の物語」か、それとも「排除の物語」なのか?

 ちょっと前の週末、映画「ウエスト・サイド物語」を見ました。スティーブン・スピルバーグ監督による名作ミュージカルの再映画化です。
   
 トゥナイー、トゥナイー
  
 誰もが知っている、あの名場面を含む、あの映画ですね。
 原作は1960年代になりますので、60年ぶりのリバイズとなります。
  

  
  ▼
  
 映画の舞台は、戦後のニューヨーク、ウエスト・サイド地区です。
 この地区では、ポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」が日々、ドンパチ(抗争)を繰り広げていました。彼らは、もともと移民同士ということになるのでしょうが、互いに互いを排除しあい、シマ(土地)を争っていたのです。
  
 しかし、そこに「許されぬ愛」が生まれます。
 ジェッツの元リーダーのトニー(男性)と、シャークスのリーダーの妹、マリアが一目惚れをして、恋に落ちます。さしずめ、ニューヨーク版ロミオとジュリエット。
  
 おぉ、これ以上は、ネタバレを含みますので、言いますまい。
  
  ▼
  
 さて、僕が、はじめて、この映画の原作を見たのは、たしか高校生の頃だったと思います。
  
 「よき音楽は、映画音楽にあり」
  
 を信じる高校の音楽の先生は、僕らに、音楽の授業時間、映画をたくさん見せてくれました。映画音楽から学べ、という主旨なのでしょう(笑)。音楽の時間じゃなくて、映画の時間。昭和は、鷹揚な時代だったのかもしれませんね。ただ、それも嫌いじゃなかった(笑)。
  
 高校生のときの僕は、「ウエスト・サイド物語」を、2つのギャング集団のあいだに存在する「許されぬ愛の物語」だと思っていた節があります。
 
 これは「愛の物語」なのだ
  
 トニー
 マリーア、マリーア、マリーア
  
  ▼
  
 しかし、それから30年・・・
  
 改めて、本作を見てみます。すると、前作にはなかった、違った風景が眼前に広がります。
  
 最大のポイントは、この映画が「愛の物語」というよりも「排除の物語」として解釈できるということです。これが前作と本作の「演出上の違い」ということになるのかもしれません。
  
 しかも、その排除は、幾重にわたって、重層的に重なっているのです。
  
 第一の排除は、「ジェッツ」と「シャークス」の相互排除ですね。これはわかりやすい。シマをめぐって、仲良くなれない。お互いにあまり恵まれない境遇にいるのにもかかわらず、ストリートで出会えば、喧嘩ばかりしている。
  
 しかし、その排除は「真空地帯」に生まれたものではありません。
  
 むしろ「排除」は「積年の排除」を通して生み出されている。
 より具体的には、ジェッツにしろ、シャークスにしろ、これら2つの集団は、幾重にも社会から「ともに排除しつづけられてきた集団」だということになります。
  
 第二の排除は「家庭からの排除」です。
 ギャングに落ちてしまった若者たちは、子ども時代、崩壊した家庭において、親からの暴力や貧困を苦しんできました。徹底的に、家庭から、近親から、学校から「排除」されてきた結果が、ギャングである彼ら自身なのです。
  
 第三の排除は「都市からの排除」です。
 1950年代のニューヨーク、都市は猛烈な勢いで近代化しました。彼らが生きた時代は、都市の裕福な者たち(白人層)が、自らの住居範囲を広め、移民を排除していった時期と重なります。そこかしこで、ビルを建てるために工事が行われ、移民たちは、居場所を失っていきました。かくして、彼らは「近代的な都市」「富裕層」から排除を受けることになるのです。
  
  ・
  ・
  ・
  
 このように「排除」は「排除」から生み出されます。
 そして「幾重にも排除されてきた集団」は、その「集団内部」においても「内集団」と「外集団」を作り、互いに「排除」を繰り返すようになるのです。そのなれの果てがジェッツであり、シャークスということになるのでしょう
  
 彼らは、些細な違いや、異質さに敏感になり、自分とは、「わずかに違う相手」を叩きのめします。そして、彼らの抗争の果てに、多くの人命が失われることになるのです。
  
 排除が排除を生む。
 あれっ、これ、私たちの身の回りでも起こっていることではないでしょうか。
  
 もし仮にこれが「是」とするならばこの映画において問題提起されている内容は、60年の時間をおいても、全く普遍的な内容だということになります。その問題提起は果てしなく重いですね。レナードバーンスタインの美しい音楽、マリア役のレイチェル・ゼグラーの美声が、せめてもの救いです
  
  ▼
  
 今日は映画「ウェスト・サイド物語」について書きました。
 この物語を「愛の語り」とだけ解釈するには、僕もいささか年をとったようです。また、世界に排除が広がっている、今だからこそ、僕自身も敏感になっているのかもしれません。
  
 排除が排除を生み出す構造が消失し、「ウエスト・サイド物語」を「愛の物語」と解釈できる世界がくることを心より願っています。
  
 トゥナイー、トゥナイー 
  
 そして人生はつづく
  

ウエスト・サイド物語Web
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory
    
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