2022.2.18 08:12/ Jun
「問い」を目にしただけで、こりゃ一本(いっぽん)とられたな、と思っちゃった本!
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松村一志(著)「エビデンスの社会学」を読みました。
現代、わたしたちは「科学的証拠」や「エビデンス」といったものが最重要視される社会を生きていますが、わかっていそうで、わかっていないかもしれないのが、この「証拠」というものです。
個人的な経験で恐縮ですが、どうやら、最近、シャバの世界では、エビデンスおじさんや、エビデンスおばさんが、地底の奥底から、もにょもにょと、生まれてきているような気がします。
エビデンスおじさんや、エビデンスおばさんは、「エビデンス」という言葉を、とにかく、意味なく使いたがります。ちょっと、会議で、誰かが、何か、新たな提案をしようものなら、
「おい、エビデンスがあるのか?」
「この事例のエビデンスは何ですか?」
と、ニタニタと、「鬼の首」をとったかのように指摘なさいます。
そのなかには(ごくたまに)貴重な指摘もあるのですが、しかしながら、たいていは、
「あなた、本当に、エビデンスとか、証拠とか、というものをわかっておっしゃっていますか?」
という「トンデモな指摘」も含まれています。
「この事例で、エビデンスを集めるって、そもそも可能ですか?」
「あのー、科学ってものをわかって、おっしゃってます?」
と、思わず問い詰めたく衝動にかられます。
ダバダー。会議がまことに「香ばしくなる瞬間」です。
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本書は、この「証拠」という概念自体を、徹底的に深掘りしていきます。そして、この認識のもと、本書の掲げるリサーチクエスチョン(問い)がこちらです。
「私たちの生きるこの時代において証拠とは何なのか? それはいかなる歴史を持ち、これからどう変わっていくのか? 私たちは証拠とどう付き合っていくとよいのか?」
(同書より)
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いやー。すごい。惚れ惚れする。
わたしは書店で、この数行の問い(リサーチクエスチョン)を見た瞬間、思わず「うなりました」(笑)。「こりゃ、また一本とられたな!」と(笑)ま、わたしのような、なんちゃって研究者に言われたくないとは思いますが。
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まず、本書がとる基本的スタンスは、
何が「完全な証拠」であるかは、その時代の状況に依存している
という立場です。
ある時代に「決定的な証拠」のように見えるものでも、時代がすすみ、人々の認識が変われば、「何か頼りないもの」に見えてくるものもあります。
また、証拠の確からしさは、ひとびとが依拠する思潮・思想によっても、変わります。
たとえば、冒頭、本書では、ヴィトゲンシュタインとパスカルの言葉を引用しつつ、実証主義と相対主義という2つの認識論を論じています。
本書によると、かつてヴィトゲンシュタインは、実証主義の象徴とも形容できるような、こんな言葉を残します。
「われわれは、科学的な証拠に反するようなことを信じるひとを、分別あるひととは呼ばない」
(同書より)
これは科学的手法によって、唯一の真理が導き出され、それはあまねく通用するはずだ、という考えを象徴する言葉のように思います。
一方、パスカルは、相対主義の立場とも形容できる、こんな言葉を残しています。
「ピレネー山脈のこちら側では真実でも、向こう側では誤りなのだ」
(同書より)
ピレネー山脈の「こちら側」と「あちら側」では様相は異なるのですから、そこで為される科学的営為も、科学的営為によって導き出された「証拠の効用」も変わることが予想されます。非常に興味深いと思いませんか。この2つの言葉における「証拠」の意味は、まったく異なることが予想されます。
このほかにも、証拠は「テクノロジー」の進展とともに、常に揺れ動いています。過去には、物証という概念が生まれ、科学的証拠という概念が生まれ・・・おそらく、これからの現代社会においては、人工知能の進展とともに、従来、考えられていなかったものが「証拠」とみなされるようになるでしょう。
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このように、証拠とは「完全なもの」ではなく、時代時代の流れのなかで、移ろいできたものと言えます。
本書は、「証拠とは何か?」という問いをもとに、近代という時代に、それがどのように変化してきたのかを論証していきます。証拠、エビデンスが重要視される時代だからこそ、今一度、証拠について考える機会をもつのは、いかがでしょうか?
あなたの使う「エビデンス」という言葉、そもそも、どういう意味でつかっていますか?
エビデンスって、そもそも、何ですか?
素晴らしい人文社会科学研究の問いは、美しい!
そして人生はつづく
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