NAKAHARA-LAB.net

2021.12.23 07:54/ Jun

あなたの会社のロールモデルは「任命」されて本当に喜んでいますか?:スポットライトの背後に広がる「漆黒の闇(シャドウ)」

 昨日のブログで、僕は、ロールモデルについて書きました。
   
ロールモデルは「しくじり」を語るのがよいのか、それとも「キラキラ」を語るとよいのか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13646
  
 細部をはしょって、端的にその内容を要約するのなら、
  
 ロールモデルは「キラキラした活躍」を嬉々として語るよりも、「しくじり」や苦闘をかたったほうがいい
   
 ということになります。この記事には、おかげさまで(ありがたいことに)大変多くの反響をいただきました。ありがとうございました。
  
  ▼
  
 反響のなかには「企業・組織によって、ロールモデルとされたひとびと」の声もございました。その「働き方」が理想的だとされたひとびとのナマゴエです。
  
 非常に興味深かったのは、その方々のなかには、「ロールモデルとされたこと」は、必ずしも、嬉しいことではなく、あまり「喜ばしいことではなかった」という意見もまじっていたことです。もちろん、すべてではありません。下記に書くことは、一部であることは最初に申し添えておきます。
  
 その意見に曰く、
   
「ロールモデルとされたのはいいけど、”何かを捨てた人”と思われてるんじゃないか、とずっと不安だった」
  
「ロールモデルとされたけれども、みんなのお手本になるような仕事をしてきたわけでもないので、見本にされたくない。どこかで、なんであのひとが、と言われているような気がする」
  
「ロールモデルにはなったはいいけど、”あのひとみたいに、なれないよね”と、どこかで線を引かれているような気がして、仕事がやりにくく感じることもある」
  
「ロールモデルとされて、本来業務ではない仕事が増えた」
  
 ・
 ・
 ・
  
 なるほど。ロールモデルといっても、裏側をあけてみれば、悲喜こもごもであることがわかります。もちろん、ロールモデルとされることによって、モティベーションを高めるひともいます。が、その反面、そのことを不安に思う方もいるのです。

 スポットライトをあてて、何かに光をあてる、ということは、その周囲に「漆黒の闇(シャドウ)」をつくりだすことなのです。「シャドウ」があるから、光をあてられたものが照り輝くのです。
   
 会社・組織は、すぐに「ロールモデル」を設定したがりますが、そこには功罪があります。「行為の意図せざる結果」とも言えるのでしょうか。それが本人にポジティブな影響をもたらすこともあれば、そうでないこともある。
  
 会社主導型の「ロールモデル」においては、その功罪含めて、あり方を考えていった方がいいように思います。
  
人事業界の定番「ロールモデルの社員への提示」は本当にうまくいくのか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7831
  
  ▼
   
 今日はロールモデルについて書きました。
   
あなたの会社のロールモデルは、「任命」されて、本当に喜んでいますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
追伸.
 ちなみに、この問題は、大学業界におけるFD(ファカルティ・ディヴェロップメント)でも、教員同士のひそひそ話では、よく聞きます。昨今の大学は、すぐに教育を熱心に行っている教員を「優秀教員」と表彰したがります。それがモティベーションにつながるひともいるでしょう。しかし、このラヴェリングが一人歩きして、優秀教員に苦労をかけていることも少なくないのです。
   
「優秀教員とされたのはいいけど、”研究を捨てた人”と思われてるんじゃないか、とずっと不安だった。自分としては、両方頑張ってきたつもりだけれども。」
  
「優秀教員とされたけれども、みんなのお手本になるような授業をしてきたわけでもないので、見本にされたくない。どこかで、なんであのひとが、と言われているような気がする」
  
「優秀教員とされて、本来業務ではない、大学のFDまわりの仕事が増えて、研究が進まなくなった」
   
 あるあるですよ(笑)
 ちゃんと、自分の授業をしたいだけ。
   
  ーーー
          
 【追伸】      
 昨日は中教審・特別部会・基本問題小委員会でした。教師の学びについての議論でした。下記が、今日の中教審での中原の発言趣旨です。なかなか大変です。毎回同じ事を申し上げているのですが、大切なことだと思っているので、同じ事を申し上げます。
  
中教審・特別部会・基本問題小委員会(資料)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/1422489_00012.html?fbclid=IwAR033Oi4sxUCnRxscGPPjZO3QiIgvbnAhunvPaiEXS_BUCg1286i6rHMcWU
  
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■「新たな教師の学び」と銘打つからには
 そのコンセプトを明確にするべきだと思う
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「研修管理システム」ではなく「新たな教師の学び」の全体像を示すべき
   
「やらされ」ではなく「自主的な学びである」ことを明示するべき
  
※教員免許更新制度の廃止の議論からはいっているため
それに代替する研修制度の仕組みが「前景化」しすぎて
いる嫌いがある。
   
資料2.3の中心には研修管理システムが登場している。
これは現場で誤解される(新たな管理が登場)。
管理という言葉を用いるべきではない。
  
========================================
■そもそも教師はいかに学ぶのか?
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 1.現場における経験
   1-1.目標設定ー日常的な業務実施ー振り返り(内省、1on1)
    (資料2-2で必要とされる任命権者との対話は
     研修受講の問題だけに限られるべきではない)
   1-2.校内研修
   
 2.教員同士がともに学ぶ
   2-1.OJT
   2-2.メンター制度
   
 3.「教師の学び」と「子どもの学び」と 「同期」していく
   ・子どもがデジタルで学ぶなら
    教師の学びもデジタルで提供されてもいい
    (校内研修を地域越境で行える)
  
   ・子どもが主体的・対話的・深い学びを
    なすなら、教師の学びも主体的・対話的
    深い学びを行うべき
  
 それで不足する部分、ないしは、
 1から3を回すためのサプリメント
 が「研修の学び」であるはず
    
 現在の議論は法制度を整備する関係も
 あるのでやむを得ないところがあるが、
 研修の学びから、議論をはじめている。
   
 そうではなく「そもそも教師の学び」を論じるべき
   
========================================
■「研修の学び」の「実際の内容」を、より解像度を高く論じる
べきだと思う

========================================
     
 システムなどの提供手段・メディア(How)について
の議論はあるが、「何を、どのようなタイミングで
誰がイニシアチブをもって、学ぶのか」(What and when)
に関する議論が弱い
    
 →資料2.2には、研修で「何」を学ぶかが不明瞭である
   
「何」の部分が見えないのに記録方法が細かくイメージ
 されている
  
========================================
■校内の研修推進体制の充実のなかに「長時間労働是正
による学習資源の確保」を入れるべきである(資料2.3)

========================================
  
1.長時間労働によって「学習資源」が失われている
     
 12時間を超える労働時間に従事している教員は
 全体の42%だった。
     
 長時間労働は、教育改革に向かう教員のリソースも奪う
「あなたには教材研究の時間がありますか」という問いに
足りていないと答える教員は75.7%。
    
新学習指導要領について理解する時間すらないという教員
が65.5%である。

 「教師の学びの促進」のために「長時間労働の是正」をセットで行うべきである
   
横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室 共同研究(平成 29 年度)
https://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/nakahara-lab/txt/180514_hatarakikata.pdf
     
   +
    
2.自分の能力開発・スキル開発は「自分事」なのだ
 という意識をもってもらう必要性がある

  
三菱UFJリサーチ・コンサルティングの調査
   
過去12か月間で職能開発をしていないは20%前後
これは長時間労働の長さによらず、一定
     
=ということは、長時間労働が是正されても
学びに向かうとは限らない
  
三菱UFJリサーチ・コンサルティングの調査
https://www.murc.jp/report/rc/column/search_now/sn210625/
  
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