NAKAHARA-LAB.net

2021.12.10 08:00/ Jun

恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱!:価値を誰かに「お届けすること」の意味

「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」
  
  ・
  ・
  ・
  
 劇団四季を率いた浅利慶太の座右の銘だ。演出家のルイ・ジュヴェの言葉だそうで、雑誌だったか、Webだったか、どこかで目にして、マイ・ネタ帳に書き付けておいた。
  
 当時隆盛を極めていた「難解な演劇」に対して、浅利が追求したのは「観客に理解できる演劇」を届けることであり、それによって、「食える演劇」をつくることであった。
 浅利の演出や演劇には、いろいろ言いたいことがあるひとも、いるだろう。しかし、彼は、それを追求した。
        
 演劇は「崇高なもの」である。しかし、そこには看過できない「ひとつの問題」がある。それは「劇場にひとが集まること「観客に見てもらうこと」だ。これが為されなければ、演劇は、演劇として持続可能ではない。 
    
 かつて演出家ピーターブルックは、下記のような名言を残した。
  

「どこでもいい、なにもない空間。それを指して、わたしは裸の舞台と呼ぼう。ひとりの人間がこのなにもない空間を歩いて横切る、もうひとりの人間がそれを見つめる―演劇行為が成り立つためには、これだけで足りるはずだ」
(ピーター・ブルック)

   
「何もない空間」であって、そこに「立派な舞台」なんかなくてもいい。しかし、そこが「裸の舞台」になりえるためには「誰かに見つめられること」が必要になる。演劇行為には「観客」が必要だ。
  
 ふりかえって、「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」である。
       
 演劇には「劇場に観客に来てもらうこと」が絶対に必要だ。
 崇高な理想に燃える演劇人は、このことを「恥ずべき」「屈辱的だ」と考えるかもしれない。しかし、それは「偉大なこと」であり「崇高なこと」でもあるのだ。
        
 浅利は、劇団員の演技のクオリティに果てしなく厳しかった、という。
 そのことは、劇団四季の練習場にかかげられていた「慣れ、だれ、崩れ = 去れ」という彼の名言にも残されている。
  
 曰く、演劇は生ものだ。観客に甘え、演じるものに「慣れ」が生じ、だれが生まれれば、ただちに演劇は「崩れる」だから、浅利は演劇の「慣れ、だれ、崩れ」を許さなかった。だから「去れ」(そんな俳優はいらない)と言っているのである。たった「一音」外すだけでもダメである。それは「観客を失うこと」につながり、ひいては「演劇が演劇ではなくなること」を意味するからだろう。
    
 わたしは、まったくの演劇門外漢であるが、浅利が愛した言葉の意味を、こう解釈している。
     
 ▼
  
「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」 
  
 ひるがえって、話を演劇以外の領域にうつす。演劇と同様に「崇高なもの」を追求している領域は、演劇以外にもたくさんある。そして、そのなかで「崇高であること」に甘え、観客を失いつつあるものも多々ある。すでに「劇場には閑古鳥が鳴いている領域」もある。
      
 価値を「お届け」できて、そこに「観客が集まらなければ」経済活動は成り立たない。
 どんなに「崇高なこと」で、どんなに「厳密なこと」でも、観客がいないものには「持続可能性」はない。食えないものには、新たにひとが集まらない。優秀な知性は、食えるところに集まる。
      
 浅利が座右の銘とした「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」をかみしめなければならない領域は、演劇以外にもたくさん存在するように思うが、いかがだろうか?
       
 そして人生はつづく   
       
  ーーー
      
相互承認ツールのピアトラストさんの企画で「教えて、中原先生!」という企画を行わせていただきました。重要な概念をワンワードで説明させていただいております。最初のテーマは「心理的安全性」。その後編映像が公開されています。どうぞご笑覧くださいませ。
   

ズバリ!心理的安全性とは?<後編>~教えて、中原先生~
https://note.com/peertrust/n/necfc5636047c
  
  ーーー
  
【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.10.14 19:54/ Jun

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.9.28 17:02/ Jun

サーベイを用いた組織開発が「対話」につながらない理由とは何か?:忘れ去られた「今、ここ」の共有!?

2024.9.2 12:20/ Jun

【参加者募集中】研修開発ラボで「研修開発・評価の基礎」をすべて学びませんか?