2021.9.30 07:13/ Jun
毎回の著作を楽しみにしている、書き手がいる。臨床心理学の東畑開人さんも、そのひとりだ。
(コロナ前に、一度、雑誌の対談でご一緒させていただいたことがあります。お元気ですか?)
僕が、彼の著作に出会ったのは「野の医者は笑う」。大学院を卒業したばかりのひとりの臨床心理学者が、「心の治療とは何か」を問いつつ、沖縄の「民間療法(野の治療)」を行脚する。
医療人類学をベースにしながら、心の問題を扱う。野の治療と、アカデミックな治療は異なる。しかし、同じ部分もある。沖縄の「野の治療」が「沖縄的要素のブリコラージュ」と喝破するが、アカデミックな治療現場も「精神分析もどきの、ユンギアンフレイヴァー溢れる、ロジェリアン」になっている。その着眼点、面白いと思った。すごい書き手が出て来たな、と感じた。
その後、東畑さんは、「居るのはつらいよ」でベストセラーを生み出す。この作品は、セラピーとケアを論じることが根源的な問いとなっている。
博士課程を卒業したばかりで、セラピーをやりたくてやりたくて仕方がなかった臨床心理学者(著者)が、沖縄のデイケアセンターで見たものは、「ただ、いる、だけ」の価値と、それをささえるケアだった。
面白い。実際、東畑さんは「居るのはつらいよ」で、第19回大佛次郎論壇賞受賞、紀伊国屋じんぶん大賞を受賞した。
河合隼雄さん以降、臨床心理学の領域に20年ー30年と、こうしたものを書ける著者は、管見ながら、いなかったように思う。
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「心はどこへ消えた?」は東畑さんの新著である。元ネタは、週刊文春で行なっていたエッセイということだったので、軽い気持ちで読み始めた。
本書は表面的にはエッセイである。いや、エッセイである。それも、第一級の観察眼と筆致によって書かれた、面白いエッセイである。
しかし、冒頭部分、そして、本書の背後に流れる問題提起の鋭さは、さすがだな、と感じ入った。
それが本のタイトルにもなっている
「心はどこへ消えたか?」
である。
著者曰く、
「心とは、ごくごく個人的で、内面的で、プライベートなもの」だ。それは(物事のあらゆる原因を探索し続け)「否定し続けたあとに、それでも残されるもの」である。心は、(原因の探索)の始まりではなく、終わりに見つかる」。心とは、そういう「小さな物語」だ。
(同書 p17 中原補足)
だから、結局、心を見つめるためには、時間もかかるし、余裕も必要だ。少なくとも、自らの生命が脅かされていない、という担保が必要だろう。
しかし、コロナ禍という「大きすぎる物語」は、それを「吹き飛ばした」
いやいや、それよりずっと前から、著者がいうように、危機は進行していた。
曰く、不況が続き、経済が停滞し、グローバル経済に巻き込まれ、格差が広がり、雇用が失われ始めたとき、ひとは、日々、リスクを感じながら生き始めるようになった。そして、リスクを前に、心は萎縮する。
(同書 p24 改)
外界が危険に満ちている時に、心は存在しない。心とは、「わたしのなかの鍵のかかる個室」のようなものであり、周囲から脅かされることなく、そこに安心して、ひとりでいられる時に、私たちは初めて自分を振り返ることができる、のだという。
(同書 p24改)
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そうかもしれないな、と思う。
たしかに、わたしたちは、この数年、心のことなど、考えている余裕はなかった。いや、心の病やつまづきがなくなってしまったわけではない。むしろ、それは深刻化している。
しかし、一方で、外界に迫り来るリスクのなかで、ひとが心を見つめる余裕と、他者の心がどうなっているかに関する推察の機会は、たしかに失われていたように思える。心は「消えた」が、危機に瀕しているのかもしれない。
問題提起、面白かった。
もちろん、エッセイも。
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今日は気鋭の臨床心理学者、東畑開人さんの著作について書きました。ぜひ手に取って見てください。
あなたの心は、まだ、そこにありますか?
あのひとの心は、どこへ消えた?
そして人生はつづく
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
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中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約34000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
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