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2021.9.14 08:42/ Jun

1on1の失敗学!? : 日本全国で「やらされ1on1」が蔓延してしまうのは、いったい、なぜなのか?

 日本全国で「やらされ1on1」が蔓延してしまうのは、いったい、なぜか?
         
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 ここ数年、いくつかの企業では、「上司ー部下の定期的な振り返り面談」として、いわゆる「1on1(ワン・オー・ワン)」が、実行され始めています。
    
 この背景には、いくつかの理由があると思われます。
    
 たとえば、
  
1)リモートワークが普及し、上司ー部下間のコミュニケーションが、水でといたように、ウスウスの希薄化状態にあること
       
2)半期に一度の目標管理制度における振り返りが、10年日照りがつづいたように「形骸化・干ばつ化」していること。変化の激しい時代にあった、頻度をあげた振り返りが、人材育成の観点から重要になりつつあること
    
3)従業員のエンゲージメントを維持し、離職を防ぎ、成果創出につなげようとする動きがあること
   
 などが、この背景かと思います。
  
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 この1on1・・・会社によっては、現場に定着し、メンバーの方から「1on1(ワン・オー・ワン)をお願いします」とFeedbackを求める組織もあるのだといいます。わたしも、そういう企業をたくさん知っています。そういう会社にとって、もはや1on1は「上司が提供するもの」ではなく、「部下から求めるもの」です。
    
 しかし、その一方、会社によっては「定着」とはほど遠く、上司も部下も、「やらされ1on1」に辟易としている会社もあります。
   
「ていうか、1on1、人事がいうからやるけどさー、めんどくせー、ていうか、やったことにしねー」
   
 となっている会社もあるのだといいます。
     
 会社によって、職場によって、悲喜こもごもです。
 日本は広い。それがシャバの現実です。
     
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 わたしは去年から、PHP研究所さんとともに、「1on1がなぜうまくいかないのか?」の共同研究を開始し始めました。
  
「1on1は、どうやれば成功するのか」を考えるのでは「なく」、「失敗する1on1を子細に見ていくこと」で、その「落とし穴」をさぐり、将来的な「成功要因」を抽出することにしたのです。
  
 これが「1on1の失敗学」です。
  
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 考察をはじめるようになって、すぐに思い出した過去の研究があります。すこし「回り道」になりますが、今日は、それをご紹介します。
     
 その研究とは、今となっては古典的研究となってしまった、Schank and Abelson(1977)のスクリプトの研究です。
 わたしが学生時代によく読んでいた文献のひとつで、まさか、20年たって思い出すことになるとは思いませんでした。
     
 1980年代、認知心理学者のシャンクとエイベルソンは、「わたしたちが、日常的に経験する出来事は、いわばスクリプト(台本)のような表象」として、頭のなかに知識として蓄えられている(スキーマ)という仮説を提出しました。
  
 頭のなかをカパッとあけてみると、日常生活にわたしたちがどのように振る舞ったらよいかに関する「台本」が「心理的実在」として存在しているはずである。それをみんながもっているから、協働が成立したり、役割分担がうまくいくんだべさ、と仮定して、「人間の複雑な情報処理」をモデル化したわけです。
   
 要するに、私たちの頭のなかには、ふだん、繰り返し繰り返し行っている行為、出来事の連鎖が、あたかも「演劇の台本」のような知識として蓄えられており、それを活性化させることで、なんなく日常の仕事を行っている、ということです。
  
 当時、シャンクとエイベルソンが頻繁に引用した事例が、「わたしたちが(アメリカの)レストランにはいったときに、どのように行動を行うか」のスクリプトです。これは、いわゆる「レストランスクリプト」といわれます。
      
 たとえば、わたしたちは、米国で、そこそこ高級なレストランにいったとき、どのような所作をとるでしょうか。シャンクとエイベルソンのスクリプトは、もうすこしちゃんとしていましたが、今、自宅で原典を見ることができないため、わたしが適当に書きます。
    
1.受付にいく
  
2.予約があれば、名前と人数と時間をつげる
  
3.専属のウェイターがテーブルに案内してくれる
  
4.ウェイターと時候の挨拶をしつつ、メニューを受け取る
  
5.まずは飲み物を決める
 
6.その後アペタイザーとメインを注文する
  
7.飲み物がきて乾杯する
  
8.アペタイザーがくる
 
9,メインがくる
  
10.ウェイターは「どんなもんだ?うまいか?」ときかれる
  
11.たいてい「素晴らしい」といってあげる
  
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 たいていは、こんなかたちで、わたしたちが日常でやるべきことは、頭のなかに知識の構造として記憶されているものです。そして、ここからが最も重要なのですが、
   
 ウェイターも、お客も、このスクリプトを、それぞれの脳裏に「記憶」し、それを「共有」しているからこそ、レストランでは、ひとびとのやりとりが、スムーズに進むのです。 
        
 逆に、このスクリプトを片方が記憶していない場合には、おかしなやりとりがすぐに生まれるはずです。
    
 ウェイターの方から「どんなもんだ?うまいか?」と聞かれたことに、真顔で「うーん、この肉は、イマイチだな。草履より、固いぞ」なんて言ってみたり・・・。
     
「ねぇさん、すぐにもってこれるの、なにかな。味噌きゅうり、と、枝豆くれるか。。。」なんていいながら、アペタイザーを2品も3品も4品も注文して、居酒屋状態になってみたり・・・。
  
 もちろん、そうしたこともあってもいいのですが、円滑なコミュニケーションができているか、といえば、さすがに怪しい。
  
 結局、人々のやりとりがスムーズに進むためには、スクリプトを、双方が、ある程度共有していなければならないのです。
  
  ▼
  
 ひるがえって、1on1はどうでしょうか。
   
 鳴り物入りで、新規に日本企業の職場に導入されたこの「上司ー部下のコミュニケーション」は、まったく新しい特異なコミュニケーションです。しかし、この1on1の導入にあたっては、上記のスクリプトを含む、下記の3つの要素が、上司と部下間で「共有されていない」と切に感じるのです。
     
 3つの要素とは
   

     1.1on1をする目的・意義

 (なぜ、1on1をやるのか?)
  ・Why do(なんでやるのか?)
  ・Why me(なんでわたしがやるのか?)
  ・Why now(なんで、今、このクソ忙しいのにやるのか?)
  ・What’s merit(やって何の得があるのか?)
  

       
     2.1on1とはどのように進むのかというスクリプト

 (いわゆる1on1スクリプト:とりわけ部下側はまったく知らない)
  ・何を準備しなくてはならないのか?
  ・面談では何を話すのか?
  ・どのように話すのか?
  ・何を考えるのか?
  ・面談後では何をするのか?

       
     3,1on1をやってみると得られる効果

 (どこか数職場で試行実験でしてみて、得られた効果)
   
 理想的には、これらを「上司」にも「部下」にもインストールしなければ、おおらく、1on1はうまくいかないと感じます。
  
 なぜなら、上司がどんなに熱量をもって1on1をしようとも、部下の方が、その目的がわからず、何をやってよいかもわからず(スクリプトがわからず)、さらに小さな効果実感ももてない場合に、それが定着するわけがない、と考えられるからです。
  
 現在、多くの企業では、上司の側だけに、面談のスキル、面談時に用いる問いかけをインストールして、メンバーには、様々なものを手渡していないようにわたしは感じます。
  
 むしろ、1on1とは、上司と部下が「ペア」で達成する面談である
  
 と考え、必要な知識・スクリプトを部下の側にも、ある程度は理解してもらうことが重要なのではないかと感じています。
  
 ▼
  
 PHP研究所と中原研究室では、
  
1.1on1とは上司と部下でペアで達成するものである
  
 という仮説に加え
  
2.1on1の成果は面談だけではきまらない。事前の準備、事後の実践サポートで決まる
  
 という仮説をかかげ、数年前より、さまざまな教材、イベントなどを開発しています。もしご興味があれば、ぜひ、ご覧いただけますと幸いです。
   
 それにしても、嗚呼、懐かしい。
 シャンク・エイベルソンのスクリプト研究(スキーマ研究)のことを、再び、お話しする日が来るとはね。やはり古典は重要ですね。
  
 そして人生はつづく
    
  ーーー
   
【参加者募集中!】  
     
2021年10月19日(火)にPHPさんの主催で「1on1の失敗学2021~若手社員の1on1力を高める」という講演をさせていただくことになりました。
     
質の高い上司部下面談(1on1)は、上司のみならず、メンバー(若手)にもインストールするべきスキルや態度がある、といった内容です。無料イベントになります。どうぞお越しくださいませ!
  

 
「1on1の失敗学2021~若手社員の1on1力を高める」
https://hrd.php.co.jp/management/casestudy/PHPconference202110.php#utm_source=hrd&utm_medium=banner&utm_campaign=hrd
     
また上司向け・若手向けの1on1教材も開発しております。ぜひご高覧くださいませ! e-learningは、もうすぐリリースです。
   
上司と部下がペアで進める「1on1」
https://hrd.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1
https://hrd.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-064
  
  ーーー
        
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新刊「中小企業の人材開発」(中原淳・保田江美著、東京大学出版会、2021年)マニアックなガチ・学術研究書なのですが、発売10日で重版出来となりました。ありがとうございます。中小企業の人材開発メカニズムに接近を試みています。どうかご笑覧くださいませ!
  

   
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
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http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
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