NAKAHARA-LAB.net

2021.9.3 08:04/ Jun

あなたの会社の研修は「自己効力感」が高まるようなデザインがなされていますか?

 研修終了後のアンケートで「満足度」だけをたずねるのはNGになりつつある理由!?
   
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 人材開発の世界では「研修転移(Learning Transfer)」という言葉があります。「研修転移」とは「研修で学んだことが、現場で実践されること」をいいます。
  
 研修転移とは、人材開発・研修開発にとっては「鬼門」です。
 なぜなら「研修室で大人は、しっかり学んでいた」としても、その内容が「現場で実践」され、「成果を生み出さない研修」は、人材開発とは言えなくなるからです。
   
 もちろん、すべての研修に研修転移が必要なわけではありません。しかし「行動を変容させ、成果を残すこと」は、ほとんどの人材開発課題にとって至上命題として残ることが多いものです。
  
 端的にいってしまえば、人材開発とは「学び」という手段を用いて、経営・組織にインパクトをもたらすことです。
   
 この定義にてらしてみると、「研修転移のない研修」は「人材開発」の定義から、そもそも「外れてしまう」のですね。
  
 かくして、研修転移は、人材開発を行うひとびとにとって、最大の関心事になるのです。
   
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 しかし、研修転移をどうやって促せばいいのでしょうか。
 研修転移を促進するキードライバーをすべてあげれば、大学院の授業になってしまいますので、ここでは1つだけあげてみます。
   
 それは、研修終了時の「自己効力感(やろうと思う感覚)」を向上させるべく、研修を設計することです。
      
 研修終了時の自己効力感とは
   
1)研修で学んだことを実践しようとする気持ちであり、
  
2)そのための事例やトレーニングが、研修で十分提供されており
  
3)あとは研修終了後に機会が現場で与えられれば、
  
4)研修での学習内容をトライできるという実感のこと
     
 をいいます。
   
 近年の研究では、研修終了時の自己効力感が研修転移に影響を与えることが、指摘されています。
 一方、これに対して、多くの研修で問われている「研修終了時の満足度」は、研修転移には影響を与えません。
 ですので、研修終了時の質問紙では、満足度よりも、自己効力感を問うことがスタンダードになっているのです。
    
 せんだっての大学院の授業「人材開発・組織開発1」でゲスト講義をしてくださった研修転移の専門家の関根雅泰さん(中原研OB)は、このことを示唆するいくつかのデータを、授業中に紹介してくれました。このデータは、関根雅泰さん(ラーンウェル)、林博之さん(ラーンフォレスト)が某社の研修で得たものだそうです。
   
 授業終了後、関根雅泰さん(ラーンウェル)は、久米佑哉さん(中原ゼミ・学部4年生)に依頼し、さらにデータを分析してもらったそうです。
 久米さんは「研修終了後の受講生の自己効力感」と「研修で学んだことを現場でどの程度活用したか」をクロスさせたそうです。
  
 そこで得られたのが、下記のグラフです。
   

   
 今、横軸には、自己効力感の高い群と、自己効力感が低い群があります。縦軸には、研修転移をがしがし行った程度がかかげられています。一目してわかるとおり、「研修終了時の自己効力感の高い群(左側)」の方が、「研修転移を行っていたこと」がわかる結果となりました。皆さんのご許可を得て、こちらでも公開させていただきます。
    
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 研修終了時の自己効力感は、単に、研修終了時に「アゲアゲ(気分高揚)」されるだけではあがりません。
   
・そのための事例やトレーニングが、研修で十分提供されており
・研修終了後に、機会が現場で与えられる期待
    
 が重要です。
    
 そのためには、これまでよりも研修を綿密に設計することが重要なのですね。 
  
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 今日は研修転移と自己効力感の関係について書きました。
    
 あなたの会社の研修は「自己効力感」が高まるようなデザインがなされていますか?
     
 なお、関根雅泰さん(ラーンウェル)、林博之さん(ラーンフォレスト)、島村公俊さん(講師ビジョン)と中原で、現在「新しい研修転移・研修評価の教科書」という書籍を編ませていただいております。この本は、ダイヤモンドさんから来年刊行される予定で、先ほどのデータも収録されるでしょう。編集や企画を進めてくださっているのは広瀬一輝さん、小川敦さんらで、僕のパートは構成に井上佐保子さんにも入っていただく予定です。
     
 どうぞお楽しみに!
 そして人生はつづく
    
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■参考
  
研修満足度を質問する「直後アンケート」が研修評価としては「プチ残念」になりつつある件:研修評価は「行動の変化」まで追うのであーる!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11936
  
研修の「満足度」を問うな、研修転移を問え!? :「現場にインパクトを1ミリも及ぼさない研修」は「共犯関係」によって生み出されている!?
 http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11065
  
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相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
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ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
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