2021.7.26 08:40/ Jun
あなたは、どんな「ハコ」に生きていますか?
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もうすでに、多くの研究機関が、社会に対して大きな問題提起を重ねておりますので、「今さらジロー感」の漂うお話ですが、
「ニッポンの大人は、他国の成人と比べて、学ばない」ないしは「学べなくなっている」
ことが、よく知られています。
コロナ禍で後退する「ニッポンの大人の学び」!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13178
高度に情報が発達し、必要な知識も「爆増」している。このDx時代に、学べない。このことは、その社会の変化についていけなくなることを意味します。これはゆゆしき事態です。
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しかし、ここで日本人の大人が「学ばないこと」や「学べなくなっていること」は、イコール、「日本の大人が、怠惰である、ないしは、怠惰になっていること」ではありません。
一般に、シャバにあらわれる「個人の行動」とは、たいていの場合、個人を取り囲んでいる「環境」の影響を受けているのです。
つまり、
個人は、彼 / 彼女が存在している職場、組織、ひいては、社会全体の影響を受けて、日々の行動を形成している
のです。
これが冒頭に述べた「入れ子(nested)」です。
絵に描いてみますと、こういうことでしょうか。
人間は、人間を取り囲む様々な「ハコ」によって「入れ子(nested)」されたなかに「存在」しています。そして、彼 / 彼女が気付こうと、気付かないでいようと、その「ハコ」の影響を受けている、のです。
このことは、文字に起こしてしまえば、何を「今さらジロー感」が押し寄せてくるようなお話です。
しかし、よーくよーく考えてみると、このことをもし認めてしまえば、大変なことが起こります。
ひとびとが、問題だと思われる行動をしたときに、その原因を「個人のなか」の問題として考えるのであれば、問題行動を起こした本人の「せい」だけにして、本人だけを「責めれば」いい。
先ほどの事例でいえば、
日本の大人は、怠惰だから、学ばないんだよ!
しゃんとせい、しゃんと!
ですむのです。
しかし、
ひとびとを、先ほどのように「ハコ」のなかにいる存在だとするならば、話は別です。
この場合は、ひとびとの問題行動に対処しようとするのであれば、ひとびとを取り囲んでいる、さまざまな組織・制度を「いじらなければ」ならないことになります。
てことは・・・「やるべきこと」が無限に広がっていくことを意味しています。つまり、「あの手、この手」を尽くして、ひとびとの行動を「変革」していくことになるのです。
つまり、
日本の大人が学ばないのは、彼 / 彼女の怠惰だけに問題を帰するのではなく、彼 / 彼女が「学ばないという選択肢」をとり続けている「ハコ」に問題があるのではないか
と考え、「ハコ」すなわち、職場、組織、社会の「総点検」を行わなくてはならないことになります。
たとえば、職場の長時間労働が問題ではないか。上司のマネジメントがプアなので仕事がはかどらないか。給与が低くて、お金を学びには回せていないのではないか。社会に大人が学べる環境が少ないのではないか、、、という風に。
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実は、この問題は、僕が、今から20年前に「学びの研究の常道」を離れ、自ら、人材開発研究や組織開発研究を行う、きっかけになったことの、ひとつの理由でもあります。
一般に「学びの研究」は、組織的要因・社会経済的要因とは「独立」して、Purely, Academically and Independently(ピュアに、アカデミックに、独立して)に、その「ハコ」のなかにある要因を探究し「学びとは何か?」を突き詰める傾向があるように思います。
つまり、非常に簡潔に述べると、職場・組織・社会が(ハコ)、どんなかたちであろうと、それとは「独立」して、その「ハコの内部」にある「学び」にまつわる因果律(XとYの関係)を探究できる、としてきたのです。
しかし、わたしは、どうもここに「課題」を感じていました。
大人が学べるかどうか、なんて、その大人が、どの「ハコ」に「存在している」に依存している。
だから「ハコ」を無視して、「XとYの普遍的関係」を追求しても、それは「この世界に、存在するどのハコにもあてはまらない謎の原理」を探究してしまうことになるのではないだろうか。
かくして書いたのが「職場学習論」を代表とする一連の著作です。
要するに、僕は、「ハコ」を裏切らず、「ハコ」にフィードバックできる知見を模索してきた、ということになります。裏切ってはいけないものは「ハコ」なのです。
爾来20年・・・ハコにこだわってきた20年でした(笑)
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今日は、このクソ暑い日がつづくなかで、さらに暑苦しいブログになりました。すみません。
でも、このことは、僕が自分の研究を考えるうえで、もっとも大切にしている「ものの見方」のひとつだな、と思います。
あなたは、どんな「ハコ」に囲まれ、そこでどんな行動をしていますか?
そして、この見方をとると、もうひとついいことがあります。
それは、一見理解不能な、「他者の行動」をも理解するきっかけになるかもしれません。
一見、非合理に見える「他者」は、今、どんな「ハコ」に囲まれて、日々を過ごしていますか?
あなたにとって「非合理な他者の行動」でも、その「ハコ」の内部でいる彼 / 彼女にとっては「合理的選択」の結果、採用している「行動」なのではないでしょうか?
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ほら、人文社会科学って面白いでしょ。
人文社会科学を学ぶことは、 世の中を見る「メガネ」を得ることです。
今週も頑張っていきましょう!
そして人生はつづく
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