2021.7.9 08:13/ Jun
現場にかかわる専門家は「2つの言葉」をもっていなくてはなりません。
ひとつの言葉が「専門家としての言葉」。いわゆる「専門用語」です。
もうひとつは現場のひとの話を聞き、彼ら / 彼女らと話し合える「現場の言葉」です。
現場にかかわる専門家は、「現場の言葉」に耳を傾けます。それをときおり「専門用語」に翻訳して、考えます。
しかしながら、彼 / 彼女が自分の思考を外部に語るときには、あえて専門用語をそのまま用いず、現場の言葉に戻して、現場の方々とフラットに話し合います。
この「知的な往還作業」は、とっても骨が折れるものですが、専門家が現場とかかわるときには、これを行わなくてはならないのです。
▼
河合隼雄・鷲田清一さんの対談「臨床とことば」のなかに「言葉をほぐす」という概念がでてきます。
ここで「言葉をほぐす」とは、専門家が、現場の方々と対峙してしまうとき、あえて「専門家」としての言葉を用いず、それらをあえて「ほぐし」て、現場の方々と話し合うことをいいます。
言葉とは「境界」です。
「いかにも、専門用語でございまっせ!」という、専門家による専門言語の使用は、意図的であれ、非意図的であれ、「専門家と現場の人々のあいだ」に「境界」をつくりだしてしまうのです。
専門家の彼、彼女が「どんなに実務に貢献したい」「どんなに研究の力を役立てたい」といっても、それは届きません。
「いかにも、専門用語でございまっせ!」という言葉の使用は「わたしは、あんたとは違う専門家ですけれども、何か?」と言い放っているのと同じことです。そんな専門家に、現場の方々は、心のシャッターをガラガラ下ろします。不注意な専門家は「シャッターガラガラワードの連発」します。
▼
それでは、専門家は、専門用語を「捨てる」べきなのでしょうか。専門用語とは「必要ない」ものなのでしょうか。
さすが、二人の碩学は、そうとは1ミリも考えていません。
物事を客観視してみたり、体系化したりするとき。
物事を分節化して、詳細を分析するとき
専門用語は、どうしても必要になるのです。それは、言葉のもつ、もうひとつの性質から導き出される、もうひとつの論理的帰結です。
つまり、
言葉(専門用語)は「スポットライト」
なのです
曖昧模糊、魑魅魍魎、不確実性満載の、この世の中において、わたしたちは、言葉を用いて、世界を照らし出します。そうしたことを可能にするのが専門家であり、専門用語なのです。だから、専門用語は必要です。
言葉(専門用語)は「境界」をつくる
その一方で
言葉(専門用語)は「スポットライト」のように世界を照らし出す
のです。
▼
現場にかかわる専門家とは、かくのごとく、非常に高度な言語技術を要求されます。
また「現場とかかわること」は、自分をひたすらに「ヴァルネラブル(弱く・矛盾した立場)」におくことになります。
専門家の世界にだけ閉じこもっていれば、専門用語だけで饒舌に話せるのです。現場とかかわることは、自分を「無知の知」の立場におかなくてはなりません。
現場と関わるなんて余計なことをしなければ、自分をヴァルネラブルな立場におく必要もありません。
だから・・・口にだしてこそ言いませんが(だから、不肖・中原が、かわりに、こっそりと教えましょう!)、
専門家のなかには「現場が嫌いな方」が、一定数います
現場の方々と話しあうのが、面倒くさいのです。
そして、
専門家のなかには「現場を低く見る」ひとも、一定数います
なぜなら現場とは「自分のもつ言語体系」がそのまま通じない「やっかいな世界」だからです。
・
・
・
不肖・中原は「現場が好物」です。
ドロドロとした魑魅魍魎、生臭い世界を目の前にすると、血湧き肉躍ります。
これをどうやって、現場の方々とともに「見える化」しようか。
ここからどうやって「みんなの対話の材料」をつくりだそうか
と考えます。それを考えていると、夜も眠れません。そんなことを繰り返しているうちに、あっという間に20年が経ちました。
難しいことはありません。 現場の方々の前で、「かっこつけなければいい」だけです。
既存の専門用語で説明つかないな、と思ったら「わかりません・・・いっしょに考えませんか?」といえばいい。「なんか、一緒に、やってみませんか?」と言えばいいだけです。
しかしながら・・・他人のことは知りません。大の大人が、どのように意志決定したとしても、それは「お好きになさいな!」です。お互いに、自分は、自分の仕事をしましょう。
・
・
・
「実務と研究」「実践と科学」・・・そうした世界に魅了されているみなさん・・・あなたは、それでも「現場にかかわる専門家」になりたいですか?
あなたは、現場とかかわるとき「言葉をほぐして」いますか?
あなたの言葉は、現場の方々に届くように「ほぐれて」いますか?
そして人生はつづく
ーーー
新刊「チームワーキング」発売初日・重版決まりました! AMAZON「マネジメント・人材管理」カテゴリー第1位! 手にとってくださった皆様、お読みいただいた皆様に、心より感謝いたします。
https://amzn.to/3esCOrW
すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを! これがこの書籍のメインメッセージです。チームを動かす新たなアイデアとして「チームワーク」ではなく、「チームワーキング」を提唱しています。データとビジネスケースから、チームを動かすためのスキルを学び取ることができるようになっています。どうぞご高覧くださいませ!
ニッポンのチームをアップデートせよ!
ーーー
【立教大学大学院で大学院生しませんか?】
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
来年の大学院入試は2月です。3期生の募集になります!ご興味がおありの方は、ぜひ、下記のページにお越しください!
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
https://ldc.rikkyo.ac.jp/
ーーー
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
ーーー
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)
ーーー
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
ーーー
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます!
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q
ーーー
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
拙著「職場学習論」(東京大学出版会)のカバー・装いが10年ぶりに変わりました(内容は変わっていませんのであしからず!)。ひとは、職場でどのようにして学ぶのか、というテーマを考察しています。どうぞご高欄くださいませ!
ーーー
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
ーーー
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約33000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
最新の記事
2024.11.22 08:33/ Jun
2024.11.9 09:03/ Jun
なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?
2024.10.31 08:30/ Jun
2024.10.23 18:07/ Jun
【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)