2021.6.2 06:50/ Jun
笑顔とは「意志の力」である!?
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コロナ禍は、いまだ止むことはなく・・・最近は「ワクチンの接種スピードが勝つか」それとも「ウィルスの変異スピードが勝つか」の「瀬戸際の戦い」になっています。
大学教育は、コロナ禍でやむなく、オンライン授業に移行したところも多く・・・最近では、「オンラインならでは利点を活かした授業改革」の試みも、行われ初めて来ているように感じます。
そのひとつが「オンライン海外留学」です。
時差の関係はあれ、オンラインで海外のクラス、海外の先生と結んでしまえば、あっという間に、いわゆる「留学」が成立します。
おそらく、今後は、これらがさらに普及し、日本にいながらにして、海外大学の授業を受講できる環境が増えてくるでしょう。
しかし「オンライン海外留学」は便利なれど、それが「イコール留学」と同じか、というと、ただちに首肯しかねるところもあります。
なぜなら、
留学とは「イコール授業」ではないからです。
留学とは「生活そのもの」であり
生身の人間の「出会い」であり
異なる文化との葛藤・衝突
だからです。
単に「授業を受けること」と留学はイコールではありません。そこでは、本国にいては学べないことを学ぶ機会があります。だから、わたしたちは移動するのです。異なる国で生活をするのだと思います。
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僕が留学の機会を得たのは、今からもう17年以上の前のことです。まだ駆け出しの助手だったころ、フルブライト奨学金を得て、米国ボストン、マサチューセッツ工科大学に客員研究員として赴任したことがございます。
僕の場合、正規の学生でケンブリッジに渡ったわけではないのですが、わたしが、この渡米で最も学んだことのひとつは、実は、語学でもなければ、自分の専門のことでもありません。もちろん、それらは学びましたが、「その後の自分に影響を与える、それ以上のもの」を、僕は、たくさん学んだ気がします。
そのひとつは、冒頭申し上げましたように、
笑顔とは「意志の力」である
ということです。
もう少し具体的にいいますと、
「赤の他人に対して、自ら笑顔をつくることとは、意図と意志をもって行う積極的行為である」
ということです。
これはいったいどういうことでしょうか。
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海外に暮らしたことのある方なら、おわかりかと思うのですが、海外では、たとえば、エレベータに乗るときに、前からエレベータに乗っていたひとに対して「笑顔で軽く挨拶」をしたりすることがあります。日本にいる感覚では、知らないひとに「笑顔」をおくるのは、少し変な気もします。しかし、海外では、それが一般に行われます。
これはどういうことかと申しますと、日本ほど治安がよくなく、かつ多様性のあふれる海外の社会においては、赤の他人に対して笑顔をおくることは、
「わたしは敵ではないよ」
「わたしは怪しいものではないよ」
ということを積極的に自己呈示しているとも解釈できます。
つまり、海外では「笑顔は、他者との関係をつくるために、笑顔は、意図や意志をもって、つくりあげるもの」であるとかんがえられているのです。
留学した当初、僕は、このことに非常に困惑しました。
それまでの僕は、どちらかというと、無表情の仏頂面。というか・・・背伸びもあったのかもしれませんが、難しいことを、難しそうに、しかめっつらでかんがえている時間も少なくなかったように思います。
それまでの僕には、笑顔を、意図や意志をもってつくる、という発想がございませんでしたし、その必要も感じていませんでした。
むしろ、笑顔なんてものは、
「他者が行う面白いこと」というインプットに対する、自らの「反射的アウトプット」である、とかんがえていた節があります。
反射ですので、そこに意図や意志の介在する余地はありません。どちらかというと「脊髄レベル」ででてくる、勝手なリアクションです(メタファですよ、あくまで)。当時の僕にとって、「笑顔になるかどうか」は、「自分に面白いことを与えてくれる他者がいるかどうか」ということであり「その結果、笑顔になるかどうかは、脊髄にきいてくれ、オレはしらねーよ」ということです。まことに痛い。中2です。汗顔の至りです。
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しかし、この発想は、留学で大きく変わりました。
少なくとも、僕が留学していた地域では、たとえば大学のラボ、研究室などで、みな、お互いに笑顔を意図や意志をもって送り合っていました。みな、そうやって「他者との関係」をつくりあげることに、意図や意志をもっていたように思います。
ラボには、世界中から、僕のような客員研究員や留学生が来ておりました。同室のイスラエルの研究者も、隣室の中国の研究者も、みな、意図をもって笑顔でいたような気がします。
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笑顔とは「意志の力」である
これが、僕が留学で学んだことのひとつです。それからの僕は、それまでの僕とは大きく変わった気がします。他人との関係をつくる、ということや、笑顔でいること、に「意図」や「意志」をもち、以前より主体性をもつようになったように思うのです。
もしかしたら、こうした学びは「オンライン海外留学」では難しいかもしれませんね・・・。
コンテンツはおくることはできても、「エレベータのなかの、即興的な笑顔の送りあい」は再現するのが難しいかもしれません。もちろん、昨今のネット環境の発展は素晴らしいので、VR(バーチャル・リアリティ)などでは、それすら可能になるかもしれませんが。
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今日は「オンライン海外留学」のお話をしつつ、「笑顔でいることとは、意志の力である」という、僕が海外でえた学びをご紹介しました。
かつて、社会学者アーヴィン・ゴフマンは、人間の日常生活とは「ドラマトゥルギー」であると喝破しました。わたしたちは、日々の日常生活において、様々な役割演技を行い、印象操作を行いながら、生きています。わたしたちの生活そのものが「舞台」であり、わたしたちは「パフォーマー」なのです。
あなたは、意志をもって、自ら「笑顔」をつくっていますか?
あなたは、意志をもって、自ら「他人との関係づくり」をしていますか?
もちろん、それは気苦労もあるかもしれない。しかし、社会を生きていく上で、結構、大事なことだったりします。かえすがえすも、大事なことを学ばせてくれた、留学時代を持てたことを、心より感謝しています。
だからね、コロナがあけたら、学生諸氏、海外で一度は生活してみよう。
人生100年時代とはいうけれど、若い頃に、その豊かな感受性でしか学べないことは、たしかに、あるから。
そして人生はつづく
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