2020.12.24 08:27/ Jun
※2020年12月24日(木)から2021年1月7日(木)まで、立教大学は冬季休業に入ります。このブログも、お休みになります。今年も、多くの記事をお読みいただき、ありがとうございました。心より感謝いたします。
年明けの記事再開は、1月8日からとなります。みなさま、よき年末年始をお過ごしください。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
中原 淳
▼(以下、年内最終記事)
2020年を一言でいうと「同じ風景を見ることが難しくなった年」と言えるのではないか
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もうあと1週間ほどで2020年を終えるにあたり、最近の僕は、こんなことを考えています。
2020年は、HR(人事)の仕事をする方々にとっては、「コロナ禍の年」「リモートワーク元年」「ジョブ型雇用元年」と形容なさる方もいらっしゃるのかもしれません。社会現象としてあらわれてくる2020年のイメージは、そのようなものかと思います。
しかし、僕の脳裏に浮かぶのは
2020年とは「同じ風景を見ること」が一段と難しくなった年
であるように思うのです。
今日は、そのことを考えつつ、これから、わたしたちが、何をしていけばいいかを考えてみましょう。
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まず「同じ風景を見る」とは、どういうことか。
それは図にしてみた方が早いので、下記に示します。
要するに、こういうイメージ。
「同じ風景を見る」とは、人々が、それぞれの脳裏に「同じようなゴールイメージ」を持ちながら、やりとりをしたり、仕事をすること、とします。
人文社会科学的には、これを「間主観性(Inter-subjectivity)」と言ったりすることもあります。
間主観性とは、文字通り「主観(Subject)と主観(Subject)のあいだ(間:Inter)」をさします。よって、間主観性とは、
ひと(主観)とひと(異なる主観)のあいだに、同じ意識・イメージが成り立っている状況
のことをいいます。
また別の言葉では「インター・ビュー(Inter-View)」といったりすることもあります。
前段の「ビュー(View)」とは「光景」のことですね。一方、インター(Inter)とは「間」にという意味です。
よって、「インター・ビュー(Inter-View)」とは
人々が「同じ光景」を脳裏に共有できていること
ということです。
(聞き取り調査の意味で用いる「インタビュー」とは、聞き取りによって、調査者が、調査対象が思い描いている光景を、共有できることをさします。ですので、インタビューの極意とは、調査者と被調査者が「インター・ビュー(同じ風景を脳裏に描くことができるように)」をもてるように、ナマゴエにこだわり、聞き取りを行うことです)
2020年とは「同じ風景を見ることが難しくなった年」というのは、言葉を変えると、ひとびとのあいだの「間主観性」や「インター・ビュ」が失われつつある年とも言えるのかもしれません。
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さて、それでは、この「同じ風景を見ること」はなぜ難しくなったのでしょうか。
それは、多くの理由がありますが、ここでは下記の3つをとりあげます。
1. 2020年は「時空間の隔たり」が増した
2. 2020年は「ひとびとの間にもともとあった、まだら」が見える化した
3. 2020年は「メディア」で分断が強化された
まず1の「時空間の隔たりが増した」はもっともわかりやすいかもしれません。
2020年は、コロナ禍により、多くの職場で、リモートワークが普及しました。もちろん、業種業態によって、それが難しい職場もあるのですが、おおよそ3割程度の職場では、リモートワークが実践されているはずです。
リモートワークは「働くことの時空間の隔たり」を増しました。ひとびとの仕事は、強制的に「バーチャルチーム(Virtual team)」といったものに移行しました。
これまでであれば、面と向かって話ができた、あのひとも、そのひとも、今は、同じ時空間を共有して仕事をすることはできません。「同じ風景を見ること」は、日々の様々なコミュニケーションによって、これまで可能になっていましたが、それもなかなか難しくなりつつあります。
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2つめの「ひとびとの間にもともとあった、まだらが見える化した」というのは、コロナ禍の「最大の望ましからざる特徴」かもしれません。
コロナ禍とは、ひとびとの間に新たに「分断や境界」をつくりだすのではありません。
というよりも・・・
コロナ禍とは「もともと人々のあいだに存在していた分断や境界」を「白日のもとに晒す」のです
たとえば、先ほどの1のリモートワークを事例にして考えると、リモートワークができるか、どうかは、一様に決まっているわけではありません。
コンサルティング、人事サービス、ITなどの職種に関しては、リモートワークは比較的容易に移行できますが、そうでない職種もあります。ひとびとは「まだら」になります。
また、雇用形態によっても、それは異なります。会社によっては、正社員はリモートワークを実践する一方、経理を担当する派遣社員の方々などは、それがうまくできないところもあるようです。ひとびとの境界は強化され、まだらがクリアになります。
このように、ひとびとのあいだに、いま「まだら」が顕在化しています。
もともとあった分断や境界が、よりくっきり、クリアにしてしまうのが、コロナ禍の特徴です。
そして、「まだら」が激しくなる職場では、ひとびとが「同じ風景を見ること」は難しくなります。それぞれが置かれている状況によって、ひとびとのあいだに「認知的多様性」が生じ、同じ風景が握りにくくなるのです。
たとえば、職場のあるひとは「リモートワーク」ができていて、一方では、それが全然できないひとがいるとしましょう。これらのひとびとが一同に介して話し合ったとしても「うちの職場の働き方を今後、どうするか」で合意に至るには、より多くの時間がかかるでしょう。
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3つめ「2020年は「メディア」で分断が強化された」に関して、もっともわかりやすい事例は、某国の大統領選挙かと思います。
今回の大統領選挙では、「公正な選挙が行われた」と主張する一群がいる一方で、選挙から数ヶ月たっても「選挙を盗まれた」という世界のなかで、その主張を繰り返すひとびとがいます。
ここで重要なのは、どちらが「正義か」ということではありません。それぞれのひとびとが「違う光景」を見ている。その「光景」のズレが埋まらない、ということが問題なのです。
ひとびとは、いま、たしかに「同じ時間」を生きています。
しかし、ひとびとは「同じ風景」を見ることはできていません
そして、同じ風景を握れていないゆえに、コミュニケーションが成立しないのです
かくして「分断」が強固になっていきます。
そして、メディアは、その状態をさらに「強化」しています。
ひとびとは、それぞれの信条・思いを強化するようなメディアを選択し、そのメディアを視聴することで、その思い・信条をより強いものにしてしまいます。
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以上、3点につき説明をしてきました。
かくして、2020年とは「同じ風景を見ること」が難しくなった年である、と僕は思います。
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さて、それでは、ひとびとが「同じ光景」が見れなくなってしまうと、何が困るのでしょうか。いったい、そのことは、わたしたちの職場や組織に、どのような「不利益」をもたらしてしまうのでしょうか。
まず、もっともわかりやすいのは、同じ風景を握れないことで、1)リーダーシップ・チームワークの機能不全に陥ってしまうことです。
ここで、リーダーシップとは「ひとびとが同じ目的に向かって、それぞれの強みを持ち寄りながら、チームを前に進めている状況」とします。
またチームワークとは「共通の目標にむかって、ひとびとが、それぞれの仕事を重ね合いながら、成果を創出していくプロセス」と考えましょう。
もうおわかりですね。
この定義を見返してみても、リーダーシップにも、チームワークにも存在しているもっとも大きな要素は「同じ目的をにぎること」「共通の目標をもつこと」です。「同じ風景を見る」とは、リーダーシップやチームワークの成否にとって、極めて重要です。
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また、「同じ風景を見ること」ができないことは、2)ひとびとが行う挑戦にも悪影響を及ぼします。
2019年ー2020年に人事業界で流行した言葉に「心理的安全(Psychological Safety)」があります。
もともと心理的安全とは、「ひとびとが、リスクを取って挑戦したとしても、そのことで、亀裂が生まれたり、とがめられたりしない、安全な状況」のことです。なぜ、これができるかというと、その基層に、それぞれに「信頼」が成立しているからです。そして、信頼感のさらに基層にあるのは「我々は、おなじ風景を目指している集団である」という意識であることは想像に難くありません。
よって「同じ風景を見ることができない」ことは、ひとびとを萎縮させ、ひとびとの挑戦を阻害していきます。組織からは活性が失われ、イノベーションにつながるような創造的葛藤も失われるでしょう。
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2020年は、同じ風景を見ることの危機である
個人的な見解で恐縮ですが・・・ここまで、僕は自らの確信をとうとうとお話ししてきました。
それでは最後に、それでは、わたしたちは「同じ風景を見ること」をいかにして可能にしていけばいいのでしょうか。
それは、まことに「凡庸」な物言いになってしまいますが、わたしたちが「対話(ダイアローグ)」に時間をとり、それを尽くしていくだと思います。
僕がおすすめする「対話」とは、下記のようなものです。
その原則と、手続きを下記に示してみました。
【対話の原則】
1. すべてのひとびとがフラットに、率直に、時間をかけて話し合えること
2. 「自分たちの未来を、自分たちで決めること」をお互いに信じること
3. ひとびとは、それぞれ置かれている状況によって、考えに違いがあることを認めること。
4.ひとびとの考えの違いをいったんはリスペクトすること
【対話のプロセス】
1. オープンに、フラットに話しあうこと。それぞれのひとびとが、ひとびとが集う輪の中心に「自分の意見を置く」イメージで、それぞれが自分の考えを表明すること
2. 話し合いのプロセスをとおして「考えの違い」を知ること。そのうえで「考え方の分かれ道」がどこで生まれるかを知ること。「わかりあえないもの」が、どの地点から生じるか、その「分岐点」を明らかにすること
3.話し合いを通じて、いまは「わかりあえない」「相手の主張に見るべきところはないか」をさぐりあうこと
4. お互いにわかりあえる地点に「同じ風景(目標・めざすもの)」を描くこと。この「
風景」にコミットすることを、全員で「決めること」
5. 決めた内容には、自発的に従うこと。「同じ風景」を実現することに、それぞれが貢献すること
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このように対話は、地道で地道で仕方が無いことなのですが、結局、このようなプロセスを時間をかけてやっていくほかはないのです。職場単位でマネジャーが行うことも必要かもしれません。組織ぐるみで、組織開発として実践することも必要かもしれません。このような地道な対話の果てに「同じ風景」をわたしたちは描き出す必要があります。
一方、賢明なわたしたちは歴史に学び、「同じ風景を見ること」が難しくなる時代というものは、ひたひたと「危機(クライシス)」が迫っていることも把握しておかなければなりません。
このような時代には、「どこかで、強いリーダーが生まれてきて、この苦境を救ってくれないだろうか」という風に、ひとびとのあいだに「リーダーシップロマンス」が生まれたりします。「救世主のようなリーダー」を想定し、ここに「依存」を果たそうとするのです。
もちろん、この優秀なリーダーが問題を解決してくれればよいのですが、一般に、個人の力だけで、組織のなかの苦境を救うのは難しいものがあります。
また、リーダーが優秀なひとならよいのですが、もっとも懸念するのは、そのポジションが、ナルシズム・サイコパス・マキャベリズムにあふれたダークサイドの落ちたリーダーに占有されてしまうことです。こうなると、組織には害悪しか起こりません。
また、同じ風景を見ることが難しくなる時期というのは「権力や武力を背景にしてでも、無理矢理、ひとびとに「同じ風景」を描かせようとする暴力的諸力ーすなわち「ファシズム」が生まれる可能性が高まる契機でもあります。
注意しなくてはなりません。
もうすでに、あなたの目の前に「落とし穴」は生まれているかもしれないのです。
私たちは、地道で、凡庸であっても、対話を繰り返していくことです。
ここに希望があります。それは歴史が教えてくれていることなのです。
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今日は、「同じ風景を見る」ということについて2020年を総括してみました。
おそらく、来る2021年も、しばらく、わたしたちはコロナ禍に苦労しそうな期がいたします。そして「同じ風景を見ること」は、2021年、さらに難しくなると思われます。
あなたの職場メンバーは、「同じ風景」を見て、仕事に取り組めていますか?
こんなご時世だからこそ
地道で、地に足をつけた「対話」を。
たかが対話、されど対話
そして人生はつづく
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※感謝※
今日のブログは「HR Advent Calendar 2020」の一環の記事として書かれています。お誘いいただきました、LINEの青田さんには心より感謝いたします。他の方の記事もこちらにございます。どうぞご覧くださいませ!
■HR Advent Calendar 2020■
https://adventar.org/calendars/5673?fbclid=IwAR2MDDEuZkCDCQk2n1MPCHMU7PfcrZfGlRlKRS747kHCWEr4HxkZDYDmPVc
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※感謝その2※
本日をもちまして、立教大学は「冬休み」に入ります。冬休みは、12月24日から1月9日までです。このブログも、原則お休みとなります。どうかよき年末年始をお過ごしください。今年もありがとうございました。
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