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2020.12.23 08:18/ Jun

卒論のテーマ決めは「自分ごと」から始めよ!:中原ゼミ流・研究テーマの選び方!?

 卒論のテーマ決めは「自分ごと」から始めよ!
    

    
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 全国の大学では、卒論の提出シーズンを迎えていると思います。
  
 中原ゼミでは、3年生がミニ卒(1万字で書く卒論のミニチュア版)、4年生が卒論にチャレンジしています。せんだっては、無事、4年生が「ゼミ内締め切り」までに全員提出できました(お疲れさん!)。昨日は3年生のミニ卒締め切りだったはずです。おそらく、全員が提出できていることを願っています。
  
 さて、学部生の卒論を書いてもらううえで、ぼくが、もっとも指導で気をつけているのは、
  
 卒論のテーマ決めは「自分ごと」から始めよ!
  
 ということに尽きます。僕の分野では、それができます。領域によっては、それが適当ではないこともあるので、一般化はできません。
  
 ここで「自分ごと」というのは、
  
1. 自分が、日々の生活で、関心をもっている内容で、かつ、ケリをつけてみたい課題
2. 自分が、これまで囚われてきたことで、かつ、これを機にケリをつけてみたい課題
3. 自分が、これまで長いあいだ経験してきたことで、これを機に探求してみたい課題
  
 のことをさします。
    
 こうした「自分ごと」課題のうち、1年半以内で探求可能なものーすなわちフィージビリティ(実現可能性)のあるテーマを卒論テーマとなります。
  
 もし、それでなかなかテーマが決まらないな、というひとがいれば、もうひとつアドバイスをすることもあります。
  
 自分ごとで取り組みたいテーマが、なかなか見当たらないのであれば、
    
「他人に感謝されるテーマ」を選びなさい!
  
 と僕は指導しています。
  
 他人に感謝されるテーマというのは、要するに、世の中で「課題解決が行われておらず、ケリがついていない問題」です。それを解決すれば、他人から「ありがとう」と言われますので、モティベーションも湧きます。
  
 ま、たいてい、これら一連の指導で、多くの学生はテーマを見つけます。
 というか、この段階では、研究テーマを「仮決め」させます。
 ここで重要なことは、研究テーマは「決定」ではなく、この段階では「仮決め」だということです。
 
 その後は、いよいよ先行研究調査です。
 先行研究を調べて、どんなに「プチ」でもいいから、オリジナリティを主張できるような証拠を見つけなさい、といいます。そして、もしいけると思えば「仮決め」を「本決め」に進めることができます。
  
 ひとによっては「仮決め」したテーマが、先行研究を調べてみると、すでに先行研究があって「本決め」できないこともあります。その場合は、またテーマ探しからはじめます。
  
 このように、研究テーマを見つけるとは、自分のこだわりと先行研究調査の「往復」なのです。
  
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 というわけで、ようやく決まった中原ゼミの「卒論テーマ・ミニ卒テーマ」は下記の通り!
  
 ミスコンありーの、テニスコーチありーの、スケート選手ありーの、就活ありーの、留学ありーの、ロボットありーの、筋力トレーニングありーの、スニーカーありーの、長期インターンありーの、ショッパーバックありーの・・・もうあまりに多様で、腰が抜けそうです。
  
 まさに「知的サファリパーク」!
  
瀧本 真優
飲食業における店長交代が組織コミットメントに与える影響過程
  
丹尾沙也花・久保田 陸
大学生・院生の失敗回避欲求に関する研究
過去の経験の認知が失敗回避欲求に与える影響および失敗回避欲求が就職活動に与える影響 –
  
尾関 巧
就活カフェにおける経営理念の浸透と効果に関する研究
C店でのアクションリサーチを元に-
  
熊野 真子
大学生のサークル活動が就職活動時の自己効力感に与える影響についての考察
  
鴻野 加奈
ミスコンテスト出場による自己肯定感の変動
社会とギャップについて―日誌法実験による探求―
  
柴井 伶太・佐藤 聖
日本企業の従業員によるPMI時のセンスメイキングのプロセス

秋山 琳香
大学生の就職活動開始時のキャリア自信形成プロセスに関する研究
-課外活動におけるストレッチ経験での自己効力感向上を事例にして-
  
山川 由斗
テニスコーチの離職抑制・促進要因に関する研究
-都市型インドアテニススクールのアルバイトに着目して-
  
島田 有美
引退を控えたスケート選手による「コロナ禍」の意味形成プロセスによる定性的研究
  
我妻 美佳
大学生の多元的アイデンティティが就職活動時の就職不安に与える影響
  
大沼 ひかり
中小企業における対話型組織開発
〜A社における開発研究〜
  
西岡 茉優
大学生の長期インターンシップ経験がキャリア形成に与える影響に関する定性研究
  
佐藤 智文
大学における経験学習型リーダーシップ開発授業・受講経験が就職後の組織社会化に与える影響過程
A大学B学部卒業生を対象とした定量的研究
  
鋤野 優花
お笑い芸人のキャリア形成プロセス
  
佐藤 都美
コロナ禍のリモート研修における新入社員の組織社会化に関する研究
  
鷲巣 あきら
日本人留学生の異文化適応プロセスに関する事例的研究
  
糸井 あかり
コミュニケーションロボットが就職活動中の大学生のストレスリダクションに与える影響
  
浅野 茉耶
容姿いじりの動画視聴が女性の容姿に対する自己肯定感の低下に与える影響に関する研究
  
秋山 亮
大学における経験学習型リーダーシップ教育が変革型リーダーシップに与える影響
  
種村 歩
大学生の筋力トレーニングが、主観的幸福感の向上に与える効果に関する研究
:自己愛・自己肯定感の媒介効果に着目して
  
仲村 慎太郎
スニーカーファンのクチコミが非スニーカーファンの購買活動に与える影響
ー大学生の商品選好に着目した研究ー
  
植田 和真
民間教育施設における経営学教育による中小企業経営者のアンラーニングの効果に関する研究
  
永井 友理
大学生バイトリーダーの年長者マネジメント経験がリーダーシップ行動に与える影響
  
久米 佑哉
大学の経験学習型リーダーシップ開発授業の学生スタッフ経験が大学生のリーダシップ行動に与える影響
-A大学B学部の学生スタッフを対象とした定量研究-
  
川端 大輝
就職活動時の自己分析によるアイデンティティ変化が就職活動時のキャリア自信に与える影響
  
角口 友菜
オンライン長期インターンシップのエスノグラフィー
  
奥谷 碧
ラグジュアリーブランドのショッパーバッグを日常利用する女子大学生に関する研究:主観的幸福感に着目して
  
石山 日和・森田 柊也
大学生がソーシャルメディアによって自己の容姿を認知した際起こる反応行動と劣等感に与える影響
  
大木 紫万
大学のチーム系競技部活におけるリーダーシップの発揮が、就職後のプロアクティブ行動に与える影響
  
新沼 紫雲
テレビCMとYouTube広告における無意識に刷り込まれる性別役割分業とその影響について
  
盛喜 隆太
地方出身、在京大学生の「ライフデザイン要因」が地元志向意識に与える影響
  
宮本 紗瑛
長期インターンシップの経験が青年の職業価値観に与える影響に関する研究
  
臼田 眞子
大学生部活動におけるキャプテンという役職が自己成長に与える影響
  
田中 智也
コロナ禍における大学新入生の友人関係の形成過程に関する研究
 
コバン穣
日本に潜んでいる人種差別の正体
気づかずに外国人を傷つけているマイクロアグレッションとは
  
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 大きく分けると、
  
1. バイト系
2. 就活・インターンシップ系
3. 趣味系
4. 大学授業系
5. サークル・部活系
 
 といった感じにわけられそうですね。まぁ、そうだよね、それらが、彼らのもっとも身近に感じるテーマなのでしょう。
 中原ゼミでは「人材開発・組織開発・リーダーシップ開発」・・・すなわち「学び」にすこしでもひっかかるテーマがあれば、卒論テーマはなんでもいいよ、と申し上げています。
   
  ▼
    
 僕が、学部生の卒論テーマで「自分ごと」を重視しているのは、卒論執筆の目的を「研究方法論の習熟」や「研究者になるトレーニング」というよりも、「知的課題解決作法の習熟」においているからです。

 むしろ、
    
1. 常に知的好奇心をもちながら行きつつ、
2. ときには、自分で調べて、
3. 自分で課題を決めて
4. 自分で課題解決できること
  
 をトレーニングしたいと思っています。
  
「好奇心ー調べるー課題を決めるー決めるー課題解決する」という一連のプロセスを自分一人でなしとげること。これが中原ゼミの卒論の目的です。
  
 彼らのテーマのなかには、研究論文誌などには掲載されない「破天荒なもの」もあるかもしれない。また、研究者としてのトレーニングを行うのだとしたら、もっと別の指導もできるのかもしれない。それは、研究者として、そう思います。
  
 しかし、
  
 学部生の多くは「研究者」になるわけではありません
  
 中には大学院で学ぶものもいますが、それはむしろレアです。
(一方で、彼らには、知的ホワイトカラーとして生きていくのであれば、君らの時代は、もう一度大学院などで学びなおすことになると思うよ、と言っております)
  
 彼らに必要なのは、シャバにおいても、ひとりで迷うことなく、知的関心を持ちながら、自分で課題を決めて、自分で課題解決できること、だと僕は思っています。それを体験するのが卒論です。
  
 卒論にしっかりとりくんだ経験は、必ず、中長期には、仕事の世界に「転移」すると思っています。
  
 それを僕は信じている。
 教師とは、そういうものです。
  

  
  ▼
  
 今日は中原ゼミの卒論のことを書きました。
  
 ま、ここから2週間ほどのあいだに、すべてに目を通さなくてはなりません。正直、体力的には、かなりきびしいです(笑)。ま、しかしながら、せっかく探求してくれたのだから、こちらも本気でのぞみます。きっちりフィードバックを返したいと思っています。
  
 知的探求、お疲れさん!
 そして人生はつづく
  
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