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2020.12.16 08:32/ Jun

あなたの会社の「オンライン新人研修」には、新人が「参加」できる「隙間(遊び)」がありますか?

 あなたの会社の「オンライン新人研修」には、新人が「参加」できる「隙間(遊び)」がありますか?
  
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 冬です。
  
 この時期、学部・大学院の中原ゼミでは、ミニ卒(3年生)、卒論(4年生)・修論などの執筆が続いています(お疲れ様です)。
   
 学部では、ここ数週間、1週間に1度ほど、順番に、学生個々人に、僕が論文のフィードバックをする会をひらいております。どの卒論も面白いと思いますが、せんだって話を聞かせてもらった学部4年生・佐藤都美さん(さとう・みやびさん)の卒論の発見事実は、興味深いものでした。
   
 佐藤さんは、今年の春に実施された、企業でのオンライン研修の効果性を検証しました。
  
 その結果、わかったことは、
    
「隙間のあるオンライン新人研修」の方が、効果が高い
  
 ということです。
  
 ここで「隙間があるオンライン新人研修」とは
  
1. 研修コンテンツがキチキチに提供されているのではなく、
  
2. すこし「隙間(あそび)」があり
   
3. その部分のコンテンツを、新人が運営に参加して
  
4. 新人自ら作成するようなオンライン研修
  
 のことをいいます。
  
「他人に提供されるコンテンツで学ぶ」ではなく「自分で参画して、自らつくったコンテンツで学ぶこと」は、学習効果をかえって高める。佐藤さんは、こうした現象を多角的に検証しています(質問紙調査・多変量解析)。
     
 この背景にあるのは、もちろん「コロナ禍」です。
    
 今年の新人研修は、突然のコロナ禍に襲われ、多くの人事は、準備が後手後手にまわりました。その様子はさしずめ「ユニフォームを着る前に、本番の試合がはじまってしまった(T先生のお言葉:言いえて妙!)」かのような状況です。
  
 それでも、志ある人事は、なんとか新人研修のオンライン化・ハイブリッド化に取り組みました。しかし、当然、準備不足は否めない。
   
 結局、オンライン新人研修には、いくつかの「隙間(あそび)」が生じることになった。人事によっては、その穴を埋めるべく、新人に運営を任せ、自らコンテンツをつくることを求めたそうです。
  
 そして、結果として、そうした「隙間(あそび)」を生かして、新人が参画できた研修の学習効果が高いものがあったとのことです。
  
 一般に、教授設計理論の観点からいうと、
  
 学習効果が高いのは、構造化されたカリキュラム(隙間がないカリキュラム)である
  
 ということになります。だから「隙間(あそび)」といったものはないほうがいい。
  
 しかし、少なくとも今年の場合は、そのセオリーがやや異なった。
 研修には、新人が参画できる「隙間(遊び)」があったほうがいいということになる、ということです。
    
 ただし、これには条件があるようにも思います。佐藤さんの論文によると、
  
「人事が、自分たちのために頑張ってくれている」という感覚を新人がもてていることが重要
  
 とのことです。
 つまり、新人は「人事」を「見ている」。
 人事は新人を「見ている」つもりかもしれないけれど、人事は新人に「見られている」
  
 つまり「コロナ禍に負けず、学びをとめないことに、人事が取り組んでいるけれども」、しかしながら、やむなく「隙間(遊び)」が生じてしまった部分に、新人たちは「参画」しようと思う。
  
 決して、
  
「準備不足で、まったく構造化されていない、単なる虫食いカリキュラム」に参画しようとは思わない
   
 ということですね。
    
 隙間(遊び)が大事だからといって、意図的に「隙間」だらけにしちゃったら、ダメということですよ。
 あと、「人事が頑張っている感」が大事だからといって、「頑張ってる感を演出する」とバレバレだと思います。そういう意図見え見えなのは、バレる(笑)
  
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 結局、めちゃくちゃ妄想をたくましくして考えると、
  
 何事も、自ら参加する方、自らつくりあげていく方に回った方が楽しい!
    
 ということなのだと思います。そのことはせんだってのエントリーでも「祭り」「祭りのコミュニケーション」という概念を用いて描き出しました。
    
コロナ禍によって、あなたの組織では「気配・隙間・祭り」の3つのコミュニケーションが失われていませんか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12444
    
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 せんだってのエントリーにも少し論じましたように、もともと古代社会において「祭り」というものは「やる側」と「見る側」は未分化で、別れていなかったのです。つまり「祭り」とは、やるものであり、見るものでもあった。
    
 そういう伝統的な祭りのなかにおいては、
  
 祭りをつくるプロセスそのものが「祭り」

 であったということです。祭りの効果は、「祭りをともにつくっていくプロセス」の中にこそあった。
  
 しかし、それが近代以降になって、それが「分化」してきます。「あなたはやる側」「ぼくは見る側」という風に役割がわかれていく。
 
 つまり
  
「観客(お客さん)」が誕生していく
   
 のです。こうなっていくと、祭りは、次第に、批評されるものになっていく。「お客さん」はこういうわけですね。
 
「今年の祭りは、いまいちだった」
  
 のように。
  
 もともとの新人研修の話に無理やり引きつけて考えますと(!)、新人を「お客さん」にしてしまうよりは、運営に巻き込んでいく、すなわち「祭り」をともにつくりあげる側に回ってもらうことは、だからこそ、重要だということになるのだと思います。
 
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 今日は「隙間(遊び)」のあるオンライン研修のことを書きました。
  
 あなたの会社の「オンライン新人研修」には、新人が「参加」できる「隙間(遊び)」がありますか?
  
 そして人生はつづく
   
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