2020.12.10 09:33/ Jun
御触書モデルの人事制度は「現場」を変えない!
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「何をアタリマエダのクラッカーを!」とおっしゃるかもしれませんが、人材マネジメントの世界で「支配的なものの見方」になっているものは、
「人事制度が、ひとの行動を変える」
「人事制度が、現場を変える」
ということです。
ま、そりゃ、そうですよね。
実務では、現場のひとの行動を変えたくて、人事制度を導入し、その効果を期待するわけですので。ま、なかには「(既存の)人事制度のために、(新たに)人事制度をつくるマニア」もいらっしゃるのかもしれませんけれども。
この図式は、HRM研究(人的資源研究)という研究分野でも、支配的なものの考え方になっています。
伝統的にHRM研究では、主に
人事制度(独立変数:原因)ーーー効果・成果(従属変数:結果)
といった風に、独立変数(原因)と従属変数(結果)が、探究されたりします。
「ほにゃらら制度が導入されている企業ほど、高い企業業績をおさめていることがわかった」
なんていう一文を、どこかの論文や専門書でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
こうした論文が、典型的に、このHRM研究のパラダイムのなかにあります。
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実は、わたしは、この伝統的な人事制度の見方には、懐疑的です。
この図式が、まったくあてはまらない、とは思いませんが、実務的に考えても、自分の研究データを見直してみても、かなり厳しい。
むしろ、めちゃくちゃ極端にいえば(ブログなので、ゆるちて)
「人事制度そのものは、ひとの行動を変えない」
「人事制度そのものは、現場を変えない」
くらいに思っています。
といいましょうか、、、また「へりくつコキ太郎」と言われてしまいそうなのですが、そこには大切なものが見失われている気がするのです。
それは
「人事制度を現場のひとびとが、どのように受容し、どのように解釈し、意味づけたか」
という視点です。
先ほどの「人事制度と成果」の2点だけをとらえる伝統的なHRMのパラダイムでは、この中間項が、どうしても抜け落ちてしまう、ということです。
これを敷衍して考えますと、
1. 人事制度が、ひとの行動・現場をかえるのは、
2. 現場のひとびとに人事制度が受容・解釈され
3. 意味づけられたときだ
ということになります。
ま、こう書いてしまうと、アタリマエダのクラッカー的な、あまりに凡庸な結論に、我ながら、コーヒーをこぼしそうになるのですが、事実なのだから、仕方がありません。
しかし、凡庸な結論ではありますが、これ、シャバではどうでしょう?
人事部が
勝手に、人事制度をつくって
題名に「標記のことについて、お取りはからいお願いします」
と書いてある、添付ファイルつきのメールを
現場におくりつけてくることは、ないでしょうか?
せめて、メールの本文くらい書こうよ(泣)。
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しかし、先ほどの命題に従うとすれば、
人事制度が効果をだすのは、現場のひとびとに人事制度が受容・解釈され・意味づけられたとき
なのです。
だとすれば、丁寧な説明は必要ですし、人々の話題になるくらいじゃなきゃ、効果はでない。
わたしはかつて、パーソル総合研究所さんとの共同研究の成果「残業学」で、こうした一方向的な「人事制度の押しつけ・通知」を、江戸時代の「御触書(おふれがき)」にしたがって「御触書モデル」と名付けました。
人事の仕事とは、橋のたもとに「御触書」のカンバンを立てることではありません。
人事の仕事とは、御触書が効果をだすまで「運用」を行うことです。
そして、そのためには、現場に出向き、現場のひとびとに受容してもらうことが重要です。
おそらく、人事制度は「企画2割、運用8割」くらいでちょうどいいのではないでしょうか。御触書モデルの人事制度だと「企画99、運用1」くらいでしょうけれども、
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実際、わたしと保田江美さんが行っている研究「中小企業の人材開発」研究では、見事に、人事制度の効果性はn.s.(統計的有意な差なし)がつづきます。
人事制度そのものではなく、よりミクロに現場を見ていかなければ、中小企業の人材開発の動態は理解できない、と確信しています(中小企業の人材開発は、東京大学出版会から年度内に刊行予定です!)
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今日は人事制度について、あれこれ、書きました。
あなたの会社の人事制度は「御触書モデル」に陥っていませんか?
そして人生はつづく
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