2020.12.8 09:08/ Jun
「おまえの会社、今日、買収されたってよ!」といわれた従業員が、ある日、突然巻き込まれる「にっちも、さっちもいかないダブルバインド」とは何か?
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現在、進めている研究のひとつに「企業合併 × 組織開発の研究」があります。思い起こせば、もう2年目くらいに入る研究で、研究室OBの斎藤光弘さん、東南裕美さん、学部生の佐藤聖君、柴井伶太君すすめている共同研究です。
この研究では、「企業合併」といういわば「切った、はった」の問題に、下記の3点の視点から切り込んでいきます。
1.従業員の立場から、企業合併をとらえる
2.ひとと組織の観点から、企業合併をとらえる
3.定量データを用いながら、論を展開する
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ふりかえってみれば、企業合併にまつわる、これまでの研究や書籍は、どちらかというと「経営者の論理」で、かつ、「財務・法務の問題」として、また、データに基づくというよりは思弁的あるいは実務的に、企業合併をとらえる傾向が強かったように思います。
これに対して、わたしたちは、
(1)従業員が企業合併をどのように捉え、意味づけ、効果を実感しているか、という視点でデータを取得し
(2)「企業合併後の、人の問題・組織の問題」をいかに克服するのか、ということに関する実践的処方箋を提供したいと思い、この本を編んでいます。
もちろん、後景にあるのは「人材開発・組織開発」の知識や理論です。
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この研究をやっていて、つくづく思うのは、企業合併というものは、そこに巻き込まれるひとびとが「疑心暗鬼・不安」にかられるものだな、ということです。
えっ、そうかな、と思う方は、ある日、突然、競合だった会社に、自分の会社が「パックンチョ!」と飲み込まれてしまった日のことを想像してください。
特に、あまり経営状況がよくない状況で、突然自分の会社が「買われた会社」の従業員の置かれる立場の不安定さ、そこにまつわる不安は、極めて大きいものです。
なぜなら、多くの従業員にとって、企業合併とは、突然襲われた「巻き込まれ事故」のようなものです。突然、「ドン・ガバチョ!」とあなたの会社はなくなり、あなたは「事故」をもらってしまいます。
そのような状況のなかで、「買われた会社の社員」は、「買った会社」「買われた会社」、ないしは、それぞれの社員たちの「まなざし」に、「めっこり」と挟まれることになります。
さしずめ、そこで駆動するディレンマ(板挟み)は、下記のようなものでしょう。
なづけて「企業合併の買収ディレンマ」
1.買った会社になびくのなら「裏切りもの」とみなす
(おまえが、買った会社にホイホイとついていくのなら、買われた会社の社員たちからは白い目で見られるかもしれない)
2. 買われた会社にしがみつくなら「裏切りもの」とみなす
(買われた会社の従来のやり方にこだわりのなら、買った会社の社員たちからは、あのひとは買われない人なのね、と見なされるかもしれない)
3. 何もしなければ「裏切りもの」とみなす
(買った会社にも、買われた会社にも、コミットしないのなら、どちらからも、疑心暗鬼の目でみられる)
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従業員は、かくして「買われた会社(の従業員のまなざし)」と「買った会社(の従業員のまなざし)」に縛られます。ちょっと朝っぱらから妄想満載、フーコー・フレーバー(フランスの哲学者ミシェル・フーコーがいうような言い方)な言い方をかましてみると、
1. 買われた会社と買った会社からの「まなざし」を
2. 勝手に自ら「想定」しながら
3. 自由が束縛される状況が生まれます
(パノプティコン的状況ですね。つまり、つねに他人から監視されてるんだろうな、という他者からのまなざしを内化して、自分の自由を自ら拘束してしまう、ということです)
それに、さっきの状況、えーーーい、どないせいっちゅうねん!という感じではないでしょうか。
ああ、どっちにしても「裏切りもの」と見なされる。
もう、にっちも、さっちも、どうにも、ブルドック状態です。
もう少し真面目にこの状況を描写するとすると、これは、いわゆる「ダブルバインド(二重拘束)」状態に似た状況ともいえるかもしれません。
かつて、グレゴリーベイトソン(天才です・・・何学者とは形容できない)は、複数の相反するメッセージが一度にひとに与えられる時、メンタルを狂わしてしまう可能性があることを指摘しました。
だから、企業合併というのは、メンタルしんどい、ひーひーなんだと思います。
さまざまな「まなざし」を内化しつつ、自らを律しつつ、しかしながら、どのように振舞っても、相反する「まなざし」から、自由にはなれず、ダブルバインドの状況に挟まれる。
そして、僕たちは、従業員の立場から、この問題をとらえ、いかなる人材マネジメントを行なっていけばいいのかを考えたいなと思っています。
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研究は、今、佳境に向かっています。なんとか、年度内には、原稿にして、来年の夏くらいまでには出版をめざしたいものです。こちらは、ダイヤモンド社の編集者小川敦行さんとのお仕事で、構成に井上佐保子さんにはいってもらっています。
プロジェクトの代表をつとめる斎藤光弘さんのプロマネのもと、社会に役立つ知見を「お届け」できるよう、頑張っていきたいと思います。
そして人生はつづく
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