2020.11.27 08:03/ Jun
ロジックのないストーリーは「絵空事」 ストーリーのないロジックは「他人事」
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人間が物事を認識するときに、異なる2つのモードがあることを指摘したのは、ジェロム・ブルーナー(Jerome Bruner)です。
ブルーナーは、人間の認識のもっとも基礎的なモードとして、いわゆる、Paradigmatic Mode(パラディグマティックモード:論理-科学的様式)と、Narrative Mode(ナラティブモード:物語様式)の2つがあることを論じました。
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まず、「論理-科学的様式」とは、普遍的な真理性と論理的一貫性をもとめ、簡潔な分析・理路整然とした仮説を導く思考様式です。
要するに、「理性・分析」といったもので、物事を認識する。別の言葉でいえば、「科学的認識」に近いといってもいいかもしれません。
一方、「物語様式」とは、「もっともらしさ(迫真性)」をもとめ、人間の意図や行為、人間の体験する苦境やドラマを含む出来事の変転を取り扱う思考形式のことです。
別の言葉でいえば、ストーリーにともなう「感情」や「共感」といった要素で、物事を認識する、といってもいいかもしれません。
ブルーナーは、人間が「わかったり」「腑に落ちる」するときには、これら2つの思考形式が相互補完的に補うことが重要であることを指摘しました。
あえて戯画的に二極にわけて論じられてはおりますが、これらは相互補完的なものであるということです。
論理も、物語も
それが重要だということです。
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思いおこせば、僕が、ブルーナーのこの議論にであったのは、今から20年くらい前のことです。
それ以来、事あるごとに、このことを思い出しては、この古典的な理論がいろいろなものに当てはまるな、と思ったりしています。
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たとえば、最近、PMI(Post Merger Integration : 企業合併)に関する研究を、志ある研究室の仲間たちと進めています。
(斉藤光弘さん、東南裕美さん・柴井伶太さん・佐藤聖さん、中原でこれまで定量調査などに当たってきました。
来春、ダイヤモンドさんから書籍の刊行をめざすべく、今、分析・執筆作業を進めています。井上佐保子さん、編集者の小川敦行さんには大変お世話になっております!)
企業合併を行うときに、もっとも大切なことは、企業合併が決まってから、ごくごく早い時期に、経営者がいかなるビジョンを従業員に語るのか、ということがあります。それがうまくいかない場合、組織メンバーには動揺が走り、最悪の場合、離職などが増える傾向があるからです。
端的にいえば
企業合併は「最初に何を語るかが肝心」!
なのです。
企業合併研究では、経営統合のごくごくはやい時期に、経営層が、従業員に、企業合併の正当性や、そこにかかわる希望を、いかに語るのか、ということが繰り返し指摘されています。
しかし、実際の企業合併では、そのようなリーダーの振る舞いは、極めて「稀」です。
というよりも、企業合併の領域というのは、これまで、「数字」だけによる言説に支配されている領域でした。
たとえば、経営者が従業員に企業合併のことを語るときにも、めちゃくちゃ極端にいえば、
「うちの会社とA社がくっつけば、さらに100億、儲かります!」
「C社とうちの会社が経営統合すれば、50億、経費を節減できます!」
といったようなかたちで、財務・会計の観点から、「数字」だけが、そのメリットとして語られる傾向があったように思います。
先のブルーナーの言葉でいえば、
企業合併の領域とは、ゴリゴリの「論理-科学的様式」が支配されている領域であった
ということです。
しかし、従業員の観点からすれば、おそらくそれだけでは「動けない」のです。もちろん数字も大切ですが、それだけで、自分がいま置かれている現実を認識することは厳しいものです。
具体的には、
「これまで」の自分の仕事は、どうなるのか?
「いま」の自分の組織は、自分は、どういう状況に置かれているのか?
「これから」自分の仕事は、どうなるのか?
要するに、従業員が知りたい、欲しているのは、「これまでーいまーこれから」の出来事の連鎖であり、そのストーリー(光景)なのです。
先のブルーナー議論に照らし合わせれば、Narrative Mode(ナラティブモード:物語様式)ということになります。
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すこし難しかったでしょうか。
ブルーナーの意図をびょびょーんと離れて、もう少し、平たくいいましょう。
要するに、他人の納得度をあげたり、他人の現実認識を高めるためには「ロジック(論理)」と「ストーリー(物語)」が必要なのです
ロジックのないストーリーは「絵空事」
ストーリーのないロジックは「他人事」
なのですね。
だから、
企業合併のときには、リーダーは、ロジックとストーリーを語る必要があるのだ
と思います。今回の合併が「絵空事」にならないように。そして、今回の試みが「他人事」だと思われないように。
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今日はブルーナーの古典的議論を使いながら、企業合併のことを考えてみました。よき理論とは、いつまでも古臭くならず、そして、様々な物事を考えるときに役に立つものです。
かつてクルト・レヴィンは
よい理論」ほど「実践的」なものはない
(Nothing is so practical as a good theory)
という言葉を残したといいます。
この言葉の意味を噛みしめる毎日です。
今週も、皆さん、お疲れ様でした。
そして人生はつづく
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