2020.9.1 07:20/ Jun
「テレワークは上司・部下の信頼関係だよね」という「紋切り型の落ち」で思考停止してはいけない!
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松村圭一郎「うしろめたさの人類学」(ミシマ社)を読みました。
この本は、文化人類学者である著者が、世界最貧国のひとつである「エチオピア」に関する自らのフィールドワークで見聞してきたことをもとに書いたエッセイです。
地に足のついたデータと、確かな理論的考察をもとに「自国にとってアタリマエの現実」が、決して「アタリマエ」ではないことを論じています。
「贈与」と「交換」という古くて新しい観点から、近年になって揺らいでいる、国家、市場、社会などを考えなおす契機を、読者に与えてくれます。
贈与という観点から、わたしたちは、もう一度、失われた「ひとびとのつながり」を回復できるのではないか、という希望が語られているように感じます。おすすめの良著です。
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本書において、著者は軽妙な語り口で「さまざまな近代の行き詰まり」を指摘してくれますが、個人的に大変興味深かったことのひとつは、同書p74に論じられている「関係が先か、行為が先か」という議題です。
よくわたしたちは、この「関係が先か、行為が先か」という問題で、「袋小路の議論」にはまりがちなのですが、著者は、そのことを本書で解きほぐしてくれています。
「関係が先、行為があと」の典型例として、たとえば、わたしたちは、以下のような文章に出会うでしょう。
「上司ー部下の信頼関係があってこそ、テレワークがうまくいく」
「上司ー部下間の信頼関係がなければ、部下の成果があがらない」
これは一見してわかるとおり「関係がまず先にあって、行為があと」であることを暗示するような文章です。
とにかく「上司・部下間の信頼関係」が「すべての解決策の源泉」であるかのように、論理が組み立てられています。
しかし、これに対して、本書の著者は、社会学者・アーヴィン・ゴフマンの理論を引用しつつ、
「関係はあと、行為が先である」
ことを論じています。
ゴフマンによれば、
「ひとは、コミュニケーションのなかで、状況の定義を投企しあっている」
といいます。
中原的妄想で、この命題を語り直しますと、
1.ひとは、コミュニケーションのなかで、相手に働きかける行為を「先」に行い
2.そのなかで、お互いの関係がどのようなものであるかを、相互行為のなかで「定義」しつづけている
3.その結果、お互いの「関係」が認知されるに至る
4.つまりは、「行為が先で、関係があと」
ということですね。
たとえば、先ほどの例からいえば、
上司ー部下の信頼関係は「先」にあるのではない
ということになります。
むしろ、話は逆で、
1.上司が部下に日々働きかけることや、部下が上司に日々働きかけること(行為が先)
をもって、
2.部下にはこのあたりまで指導できるはずだ、上司にはここまで言ってもいいんだ、という実感を日々積み重ね
3.それが結果として「上司ー部下間の信頼関係」として認知される(関係があと)
ということです。
いかがでしょうか?
ともすれば、わたしたちは、上司・部下間の「信頼関係」が「まず先」にあって、それがすべての問題の解決策であるかのように誤解します。そして「上司・部下の信頼関係」をまずつくろうとします。しかし、実際に「信頼関係」をつくるといっても、具体的に何をしていいのか途方にくれます。問われるべきは「関係づくり」ではないのです。関係は結果論であって、問われるべきは、上司が部下に日々何を為すか、部下が上司に日々何を為すか、ということですね。
何にせよ大切なことは、
お互いに動くこと
行為すること
だということですね。アタリマエのことですが(笑)
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近年、人事の業界では、テレワークの規定要因(成立要因)が論じられるたびに、その成立条件として、
上司・部下の信頼関係
が述べられます。
安易な議論のなかには「上司・部下間の信頼関係落ち」のような状況も生まれている気がしています。それさえいっときゃ、OKのような!(笑)
しかし、問題は、それ以前です。
上司が部下に、日々、どのように働きかけてきたのか?
部下が上司に、日々、どのように働きかけてきたのか?
問われるべきは、「信頼関係」ではなく「行為」です。
このように、人文社会科学の知見は、アタリマエの疑い、世にはびこる神話を解体してくれます。
めちゃ、役に立つ、ぢゃないか!
あなたの会社のテレワークの議論は「信頼関係・落ち」にはまっていませんか?
そして人生はつづく
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