2020.6.23 07:54/ Jun
「自分の文体って、どんな文体なんだろう」
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思わず胸に手をあてて、遠くを見ざるをえない本に出会いました。三宅香帆著「文芸オタクの私が教えるバズる文章教室」です。
この本は、自ら「文芸オタク」だと称する著者が、日本の著名な作家の皆さんの文体を、これでもか、これでもか、と分析した本です。
書名には「バズる」とありますが、決して、軟派な本ではありません。
「バズる」というよりは「グッとくる文体」「刺さる文体」「読んでいて楽しくなる文体」とは何かを分析した本なのかな、と思います。たぶん。
おもしろ、おかしく、いたって真面目に
という著者の文章をつづる姿勢が、僕好みです。
作家の文体を学ぶことで、自分の文体に思いを馳せる。そんな読み方ができたとしたら、面白く読める本かもしれません。
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本書で紹介されているのは、たとえば、こんな文体。
「その頃、ヴェトナムは遠い、忘れられた、にぶい痛みの国であった」
(開高健)
さすがは、開高健。
すごい表現ですね。ただ、おそらく「学校」では上記のような文体を「正しいもの」として教えないと思うのです。
実際、作家・開高健は、決して下記のようには書きません。
「その頃、ヴェトナムは遠いところにある、人々から忘れられている国で、わたしたちに、どこか、にぶい痛みを感じさせる国であった」
ま、書くわけないね。
こりゃ、冗長すぎてあんまりだ。
むしろ、繰り返しになりますが、開高健は、こう書く。
「その頃、ヴェトナムは遠い、忘れられた、にぶい痛みの国であった」
(開高健)
著書に解説されているとおり、「遠い」「忘れられた」「にぶい」「痛み」という彼自身が感じたことを、そのまま不器用に、全部ならべることで、印象的な表現を創りだしていることがわかります。
すげー。
こんな感じで、本書には、数十人の、個性あふれる文体が紹介されています。
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文章表現には、これまでにも、様々な書籍があります。
僕も、一応、なんちゃってですが、文章を書く人間として、多くの文章読本には目を通しているつもりです。
しかし「文体」という観点から、これだけ多くの作家の文章をとりあげ、おもしろ、おかしく、いたって真面目に分析した本は、これまであまり出会ったことがありません。
おすすめの一冊です。
本書にはもうひとつ「お楽しみ方」がございます。
それは・・・著者である「三宅香帆さん」自身の文体を分析することです。
おそらく、彼女は、ひそかに、読者に、そのことを求めているのではないか。
「おもしろ、おかしく、いたって真面目に」文章を論じる彼女の文体を読んでいると・・・彼女の文体は「分析されること」を待たれているように思いました。
ま、本当のところはしりませんが。
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ちなみに・・・本書を読んでいて、思い出したことがあります。
それは、僕が大学時代の頃、何人かの作家や、研究者の文体をまねて、文章を書いてみる、という「ネクラな知的遊び」にひとりで取り組んでいたことがある、ということです。
文体を「目コピー」して、真似て書いてみる。
この人だったら、こう書くだろうな。あの人だった、ああ、書くだろうな、と、想像していました。でも、そうこうしているうちに、自分が面白いと思える文体に出会ったような気がします。気のせいかもしれませんが。
我ながら、ネクラだね。
すみませんね。。。超絶ど文系で。
ほろ苦い思い出です。
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皆さんも本書を読んで、面白い文体に出会ってみませんか?
そして人生はつづく
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