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2007.7.11 08:34/ Jun

パワーポイントを使ったプレゼンテーションは、何を見失いやすいか?

 先日、産業技術研究所の栗原先生、MEETの西森先生、望月先生、山内先生らとリサーチミーティングをもった。来年度、本格的に実施するプロジェクトのブレインストーミングである。
 ディスカッションの内容は、これまで栗原先生が開発なさってきたプレゼンテーションソフトウェアに、どのような機能を追加すれば、さらに教育現場に役立つものになるだろうか、ということであった。とても興味深い数時間だった。
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 仕事柄、僕はプレゼンテーションをする機会は本当に多い。毎日のように、パワーポイントでスライドをつくり、人前で話している。そういえば、先日、ある人にこんなことを言われた。
「会社員と比べて大学教員は、エクセルは下手な人が多い。でも、なぜかパワーポイントはできる」
 まぁ、このことは人によるけれど、少なくとも僕は、この「典型的パターン」を代表する一人であることに間違いない。ちなみに、たまにエクセルでワードのような書類をつくる人を見かける! その巧みなワザには感歎の声をもらさずにはいられない。僕がエクセルを唯一使うのは、統計をやる前にデータの前処理をするときくらいなものだ。
 閑話休題。
 とにかく・・・であるからして、プレゼンテーションには、人並みならぬ「思い」がある。プレゼンテーションの出来、不出来は大変気になることのひとつである。
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 思うに、パワーポイントを使ったプレゼンテーションで最も気をつけなければならないことは、「聴衆は、発表を聞いているうちに、プレゼンテーションの全体構造を見失う」ということだと思う。
 たとえば、今、あなたが、パワーポイントを使ってコンセプトAを説明するとしよう。コンセプトAには、4つの下位構成要件W,X,Y、Zが存在するとする。
 こうした場合、一般に、あなたは、まずコンセプトAが、4つの下位構成要件W、X、Y、Zから構成されることをスライドで述べる。
 その後、それぞれの下位構成要件W,X,Y、Zのそれぞれの詳細な説明をスライド数枚を使って行うだろう。Wの説明にスライド5枚、Xの説明に8枚、Yの説明には4枚、Zの説明には6枚といった具合である。そして、このとき、よく問題が起こる。
「コンセプトAの4つの構成要件のうち、今話している内容が、どの構成要件についてなのか」
「そもそも、今話している内容がコンセプトAとどのような関係にあるのか。そもそもなぜ説明される必要があるのか」
 についてわからなくなってしまうのである。
 こうした内容について、しっかりと「メタ認知」していない限り、プレゼンターの発話内容について、構造を見失ってしまいがちなのだ。
「あれっ、今、Yを話しているんだっけ? あれ、そもそもなんで、Yについて話しているんだっけ・・・あっそうか、コンセプトAについての説明なんだ・・・・、そうか、コンセプトAには4つ重要な点があるんだった」
 という感じである。
 まだコンセプトが1つであるならば問題は起こらないかも知れない。紹介するコンセプトがAのみならず、B、C、Dと増えてきた場合は、さらに混乱がます。90分の講演や授業であるならば、たいてい、紹介するコンセプトは1つではすまなくなるだろう。こうした事態は頻繁に起こる。
 これを避けるためには、パワーポイントの各所に「プレゼンテーションの全体構造を示すスライド」を何枚も挟むか、あるいは、口頭で繰り返し、「今、自分が何についてしゃべっているか」「どういう流れで話しているか」を説明することが必要になる。
 具体的には、
A-W
 -X
 -Y
 -Z
 というような関係を明示するようなプレゼンテーションを、何枚も挟んでいくか、
「今、コンセプトAについて話してますよね。で、Aを構成する2番目のXが終わりました。つぎはYですね、いいですか」
 という感じに(ちょっとオーバーだけど)、聴衆に全体の流れをひとつひとつ確認していくことである。
 なぜこうしたことが起こるかというと、「パワーポイントは紙芝居型の、単線のスライド展開をする」からであり、かつ、「スライドの描画領域がそれほど多くない」からである。それは非常にパワフルなツールであるけれど、全体構造を「併置」して聴衆に提示することが難しい。
 黒板だったら、左はしあたりに、構成図を書いておいて、残りの盤面で、それぞれの説明ができるんだけど、そういうことはパワーポイントでは難しい。
 常に全体構造を意識させつつ、つまりは、スライドを俯瞰的に見ることを可能にしつつ、スライドを送ることができれば、こうした問題は起こらないのであるが・・・。
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 プレゼンテーションを終え、聴衆と会話しているとき、僕は、たまに愕然とすることがある。
 一生懸命にスライドをつくりこみ、シナリオをつくり、プレゼンテーションしても、聴衆は自分が話したかった内容の5分の1くらいしか理解してくれてはいない。あるいは、話している内容の構造を見失っておられる。そうした深刻な事態が、会話の中から推察されるときがある。
 こうした事態は、ひとえに僕の話力不足、能力不足であり、反省至極である。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 しかし、何とかして、プレゼンテーションの内容理解を支援するテクノロジのあり方を模索することはできないのだろうか。
 プレゼンテーションのことになると、なぜか熱が入る。

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