2020.4.20 10:27/ Jun
オンライン授業は「組織ぐるみの準備が7割、実施が3割」です
出たとこ勝負のオンライン授業は「むごい結果」を生み出します!
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先週は、勤務する立教大学経営学部の主催で、2回目の「オンライン授業の教員勉強会」が開催されました。
山口和範学部長、尾崎俊哉先生、西原文乃先生などが主催された勉強会で、不肖、わたくし中原も、下記の資料を用いて、自分の経験を語らせてもらいました。
「オンライン授業」のための「最も大切なノウハウ」だけをまとめたスライドを、無償でダウンロードいただけます!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11472
2回目になるこの会には、1回目の170名に引き続き、200名近くの専任教員の先生、兼任教員の先生がご参加いただきました。
わたしのお話は、拙いものでしたが、何らかのお役に立てれば幸いに思っております。
立教大学は、大学院リーダーシップ開発コースが4月4日から、経営学部が4月9日から、オンラインで授業がはじまっています。
全学は4月30日から授業が開始されるとのことですが、この難局を何とか乗り切ることができれば、本当に嬉しいことです。
オンライン授業に関しては、下記のようなノウハウを交換しあうカンファレンスもヤフーアカデミアの伊藤羊一さんと主催させていただきましたので、重ねてご覧ください。当日の記録も、ヤフーアカデミアの皆さん、講師のみなさまのご厚意で、すべて無償で公開させていただいております。
【無料動画大公開】ニッポンのオンライン授業カンファレンス2020、オンライン授業のノウハウ動画を無料でどなたでもご覧いただけます!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11523
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2月ー3月と「オンラインおじさん(オンライン授業を実現するために多くの教職員の皆さんと奮闘してきたオジサン)」化していたこの間、わたしも多くの試行錯誤と、多くの失敗を積み重ねてきました。
その経験から、最近、とみに思うことは
オンライン授業は「組織ぐるみの準備が7割、実施が3割」である
ということです。
すなわち、オンライン授業は「授業をすること」もさることながら、「授業以前の準備」を「組織ぐるみ」で、いかに進められるかに、多くの成功要因があるのではないだろうか、ということです。
より具体的に申しますと教員個人が「オンライン授業をどのようにするか」も大切なのですが、それ以前に、オンラインの成功失敗は、組織ぐるみで「学習者、授業者の事前のレディネスの確保」をどの程度行っていけるかどうかに、かなり左右されるのではないか、ということを強く思うのです。
逆にいうと、組織が「事前準備」を軽く見ていたりして、準備を怠ってしまうと、悲惨な結果が待ち受けます。
端的に申しますと、
行き当たりばったりで行う「オンライン授業」はコケる
出たとこ勝負で行う「オンライン授業」は惨い結果を生む
「何とかなるでしょ」とはじめた「オンライン授業」は何ともならない
ということです(号泣)。
初回授業のときに、学生も、教員も、はじめてツールを用いるようなかたちではじまるオンライン授業は、おそらく「授業として成立」しません。
今日は、これらを、すこしだけ具体的に考察してみましょう。
わたしの経験ですが、特に注意したいと思われる要因は、下記の7点です。
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1.学生が「なぜオンライン授業を今行うか」を理解しているのか?
2.学生が「どのようにオンライン授業に参加するか」を理解しているか?
3.教員や学生が困ったときに問い合わせできる「ヘルプデスク機能」をもっているのか?
4.学生は、オンライン授業を開始できる「適切な情報環境」を確保できているのか?
5.緊急時やトラブル時に利用できるコミュニケーションチャネル、映像チャンネルが2つ以上存在するのか?
6.教員が、オンライン授業を体験する機会、学習する機会、サポートする機会があるのか?
7.準備を周到に進めつつ、最後は、腹をくくって、やりきる覚悟をもてるかどうか?
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これを以下、順に説明させていただきます。
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1の「学生が、なぜ、今、オンライン授業をするのかを理解しているのか?」は、とても重要なポイントだと思います。要するに、「なぜ、今、オンラインで学び始めるのか、何をめざしているのか」について「目的」を共有できているかですね。
これは学生も教員もですが、
Why do?(なぜオンライン授業をやるのか?)
Why me?(なぜわたしなのか?どんな役割が期待されるのか?)
Why now?(なぜ今なのか?)
を理解していないと、これ以上、話が進みません。
具体的には「なぜ、対面型授業が再開できる日を待たないのか」「なぜいまオンライン授業をはじめたいのか」「どんな準備をして欲しいのか」そうしたメッセージングを行っていく必要があります。わたしどもでいえば、山口学部長が早急に教職員にメッセージを発してくれたおかげで、それが可能になりました。
もちろん、誰にも「先行き」はまったく見えません。
「先行きを示せ」「ビジョンを示せ」といっても、「将来のこと」は誰もわからいのです。
しかしながら、組織としては、「今後の推移を、どのように見立て(推論して)、なぜ、今、オンライン授業に踏み込むのか」を明示する必要があります。逆にいうと、「いま、動かないでいると、どのような結末が待っているのか」・・・そうした危機意識を共有するということかもしれません。後者に関しては、関係者だけであってもよいのですが、こうした内容を何らかの手段を用いてメッセージとして発していくことは非常に重要なことだと思います。
といいますのは、ひとによって、目的の共有や危機意識の共有は様々なのです。
えっ、オンラインでなんかやるらしいよー
えっ、マヂ。そんな噂流れてるよねー、うちもやるんだー
というレベルの理解も、多いものです。
なぜ、いま、授業をオンライン化してでも、学びをとめないことに踏み込むかは、しっかりと学生に理解をしてもらわなければならない要因かもしれません。もちろん、これは教職員も同じことです。
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2.「学生が、どのようにオンライン授業に参加するかを理解しているか」は、「盲点」ですが、極めて重要です。いくら教員がオンライン授業を準備していても、そのURLやアクセスの方法を学生が理解していない場合には、
誰も「オンライン授業」には来ません
もちろん、教員の方も、自分の授業をどのように学生に周知したら良いのかを理解する必要があります。
とりわけ重要なのは、履修を決めていない学生にも、初回授業・2回目の授業のURLなどを周知しなければならない点です。
URLをオープンな場所に書き込むことは、セキュリティの観点からできません。セキュリティが確保できる場所で、学生に「授業参加の方法」を伝えなくてはならないのです。
それが実現できない場合、くどいようですが、
誰も来ない「無観客のオンライン授業」が生まれる
ことになります。そのためには、学務システムの整備、どこに情報を掲示していかなければならないかについての理解が必須になります。
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3.「教員や学生が困ったときに問い合わせできるヘルプデスク機能をもっているのか?」も極めて重要です。
わたしのつとめる立教大学経営学部が、様々な課題にいまだ対応しつつも、4月9日からのオンライン授業の開始に踏み込めたのは、山口和範学部長や教職員の皆様の奮闘も多大たるものがございます。
が、しかしながら、それと同じくらい、授業がはじまる前にヘルプデスク(上級生の学生が、下級生1年生の質問に答える相談機関・それを支えていたのは職員)をもうけ、そこで、ひとりひとりの新入生や、大学院生の情報環境をセットできたことも、非常に大きな要因です。
学生からの質問や、学生が抱える課題は、本当に多岐にわたります
イヤホンある?イヤホン用意しようね
PCの方がいいよ
そこのボタンおすと、挙手できるからね。
などの技術的な事柄にとどまらず
履修方法はこうだよ
この科目をとったら、これはとれないからね
バイトもなくて、やることなくて、大変なんだー
といった内容にまで、様々なサポートを個別にオンラインで提供できたことが、非常に大きいのだと思います。
1年生がもつこうした疑問に、ひとつひとつ答え、サポートを提供したヘルプデスクの果たした役割は、まことに甚大で、感謝に尽きます。
幸い、立教経営には、「ビジネスリーダーシッププログラム」という「初年次教育カリキュラム」があり、それを通して培われた「上級生は、下級生の面倒を見るものだ」というカルチャーはベースにありました。
このカルチャーのもと、舘野先生、田中先生、宇田先生、小森谷さん、井上さん、加藤さんはじめBLP・LDCの教職員の先生方、学生アシスタント(SA・CA)、メンターの皆様、ヘルプデスクにたってくれた学生たち、120名のメンター上級生の皆さんが、ひとりひとりの学部生と向き合い、ヘルプデスクとしてサポートを提供してくれたからこそ、様々な課題はありつつも、学生の情報環境が整いつつあるのかな、とも思います。本当にお疲れ様でございます。心より感謝いたします。
今後は、持続可能な形で、学生に対するサポートをいかに実現するか。
その資源をどのように確保するかが、課題になるのかなと思います。
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4.「学生は、オンライン授業を開始できる適切な情報環境を確保できているのか」に関しては、非常に大きな課題です。というか、全部、大きな課題すぎて、すみません。
まず大切になってくるのは、3のヘルプデスク機能での個別相談をとおして、これを整備していくこと。その上で、学生の情報環境を把握することです。
立教経営では、田中聡先生が率いるデータアナリティクスラボ、そしてデータアシスタントの学部生の皆さんが、学生の情報環境、現在の学業へのモティベーション、学生の状況などを調査し、見える化し、施策立案に役立てようとしています。
そのうえで、ルータやPCの貸与など、様々な方策を講じていくことが重要になってきます。
これは今後の大きな課題でもあります。
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5.「緊急時やトラブル時に利用できるコミュニケーションチャネル、映像チャンネルが2つ以上存在するか」も極めて重要です。
よく、オンライン授業界隈では、
オンライン授業をやるならば、Aのプラットフォームがいいのか、Bがいいのか
という議論がなされることがあるのですが、わたしとしては、緊急事態とは「A+B」くらいの考えでちょうどいい。できれば「A+B+C」で「メイン」をAで確保しつつ、サブを2本「B」と「C」で確保するくらいで、ちょうどいいくらい、と思っています。
これから4月末になって、各所でオンライン授業が行われるのであれば、プラットフォームは多重化してもっていたほうがいいように思います。緊急事態は何が起こるかわかりません。
Aがだめなら
Bにただちに移行
Bがだめなら
Cにただちに移行
そういう備えがあれば、トラブルを恐れることなく、授業ができます。
わたしのゼミでは、基本はZOOM、それがだめならMicrosoft Teams、それがだめならGoogle という風に移行を考えています。そして、そのスイッチングを可能にするためには、
トラブル時に学生にただちに連絡できるコミュニケーションチャネル
トラブル時に教員も学生もただちに閲覧できる場
があるかないかです。
これがない場合は、いくら緊急時にスイッチングしたくても、トラブル対応はできません。緊急時に常に備えることが、オンライン授業にとっては極めて重要です。わたしのゼミでは、TeamsとLINE、大学院ではKintoneとLineの2つのコミュニケーションチャネルをもっています。
わたしが今一番危惧しているのは、学内にあるサーバです。
学内にあるサーバは、アクセスが集中します。
これが落ちてしまうと、もう元も子もありません。
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6の「教員が、オンライン授業を体験する機会、学習する機会、サポートする機会があるのか?」は、このブログでは、何度も何度も申し上げておりますので、簡単に済ませます。
せめて、教える側には
オンライン授業を自ら「受講」する経験
可能ならば
オンライン授業を教員同士でロープレする経験
できるならば
オンライン授業を先行してやってみる経験
をもてると非常によいと思います。
教員のFD機会を、短時間でもいいので毎日行っていくとか、教員へのマニュアル類の整備、TAをつけるなどのサポート体制の整備も重要です。
組織としての体制が
あとは、先生、よろしく、やってね!
では、かなり厳しい状況を生み出す可能性があります。
オンライン授業で教壇にたつ教員を、「組織ぐるみ」でサポートすることがなければ、オンライン授業の成否は望めません。
「学びをとめないオンライン授業」の実現のためには、「学び直し」の機会がとても重要です。組織的、行政機関、国が一丸となって、そうした「学び直し」の機会を創出していくことが重要だと思います。詳細は、下記をご覧ください。
「学びをとめないオンライン教育」推進のためには「学び直しの機会」の創出が必要だ!:ニッポンのオンライン授業カンファレンス2020事後アンケート速報!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11571
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7は、ともすれば「精神論」に聞こえるかもしれません。ただ、わたしはそう思っています。1から6の準備を周到に進めますが、「リスクはゼロ」にはなりません。リスクを最後まで抱えつつ、最後の最後は、腹をくくって、決断し、やりきる覚悟をもつかどうかは、極めて重要なのかもしれません。
今回の事態は「緊急事態」です。
ですので「準備は事前に完璧に行うことはできません」。
また「準備が完全にならないことはわかりきっていること」です。
「完全にリスクゼロにしてからスタート」ということでは、おそらく、絶対に、いつまでたっても、スタートできません。
緊急事態はスピードも重要です。
「リスクをなるべく減衰する努力」は片方でしつつも、「リスクゼロにならないこと」に、どこかで腹をくくって、決断して、やりきらなくてはならないのです。
教育機関をとめれば、学生の学びに答えられない、というだけではありません。
学生の居場所も、コミュニケーションチャネルも失います。
また、学びをとめれば、在校生に単位はだせません。
単位がでなければ、社会に人材も輩出されません。
在校生を社会に輩出できないということは、新入生もとれないのです。
大学は、社会のなかで「孤立」して存在しているわけではありません。
大学の前行程には「初等中等教育」があり、大学の後工程には「社会・仕事世界」があります。
そのどちらをも「機能停止」してよいのであれば、
ちなみに、万が一、「学びをとめてしまった場合」、大学経営にとっては、甚大な影響を及ぼします。
新入生が入ってこなければ、4年間のあいだ、学年ひとつぶんの収入が失われます。
また、誰も「学び」がとまってしまった大学に入りたいひとはいません。
そうなれば、大学教職員の雇用の問題にただちに直結します。
つまり、教育機関は「選択肢」があるようでいて、あまり残されていません
僕は、個人としてそう思います。
もう詰んでいる。
覚悟を決めなければならないと。
ならば、この変化を何とか前向きにとらえ、リスクを極限までへらしつつ、挑戦した方がいいのではないだろうか。そうした姿勢を社会、学生に提示していくことは重要なことではないか、とわたしは思います。
最後は、腹をくくり、楽しむことではないかと思います。
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今日は、オンライン授業は「準備が7割、実施が3割」ということを書きました。
教育機関は、いま、「緊急事態」に陥っています。
しかし、緊急時に何をしたのか、どのように動いたかは、社会の多くが、将来の学生が、しっかりと見ています。
今後は、オンライン授業のやり方もさることながら、オンライン授業を実現していく環境整備を、より大きな経営的な視野で行っていくことが重要に思います。もう時間があまりありません。この10日間から2週間が、大きな差を生み出すのではないかのではないかと思います。
そして人生はつづく
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追伸.
大学院リーダーシップ開発コースでは、もうオンライン授業が2週目を終えました。大学院生の皆さん、事務局の皆さんのご尽力、ご協力により、授業者として楽しみながら、行わせていただいております。今後がとても楽しみです!
「人づくりと組織づくりを学ぶ」立教大学大学院リーダーシップ開発コースがオンラインで開講!
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/2020/20200404/
立ち入り禁止でも授業は止めない 立教大経営学部の覚悟とは(朝日新聞EduA)
https://www.asahi.com/edua/article/13281948
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