NAKAHARA-LAB.net

2020.2.19 07:01/ Jun

成果が出せない「しくじり管理職」の「脱線」は4つの「どはまりパターン」で引き起こされる!?

※本日2月20日はブログの更新を中止させていただきます!また明日お会いしましょう!
    
 新任管理職の「脱線」を防ぐためにできることはなにか?
    
  ・
  ・
  ・
  
「脱線(derailment:ディレイルメント)」という概念があります。これは、1980年代、リーダー研究の泰斗、モーガン・マッコールらが指摘した概念で(McCall and Lombardo1983)、端的にいえば、「管理職が任命後、思ったように部下を率いることができず、成果がだせず、つまづいてしまうこと」をいいます。
  
 管理職の辞令をもらうのは1秒ですが、そこからが「闘い」のはじまりです。つまり「管理職」は辞令をもらったあと、「実務担当者である自分」を「アンラーンニング(Unlearning)」し、「管理職になっていくこと(becoming a manager)」を学ばなくてはならないのです。
  
 このことを形容して、よく「実務担当者から管理職への役割の移行」は「生まれ変わり」に評されることがあります。
  
 ここで「生まれ変わり」とは、「ひとりで動き、ひとりで成果を出せば良かったソロプレーヤー」から「他者を動かし、みなの成果を最大化するリーダー」への「段差のある役割移行」でしょう。
  
 管理職になるとは、まさしく「今までの自分」を捨てて、「生まれ変わる」くらいの意識・行動の変化を求められるということでしょう。そして、この「生まれ変わり」に失敗し、成果を出せず、最悪の場合は、任を解かれてしまう管理職というものが、たしかに存在します。それが「Derailment(脱線)」ですね。
  
 マッコールらの研究によると、脱線の典型的なパターンは以下の4つです(せんだって、中原OBの斉藤光弘さんが主宰した研究会で、同じくOBの関根雅泰さんが発表なさっていました。感謝!)。
  
1.管理職がもともともっていた「強み」が「弱み」になるケース
 たとえば、プレーヤー時代に「徹底してやりきり成果をだす」という価値観をもっていたひとが、管理職時代にも、それを部下に迫りすぎ、そのひとが思うようには成果を出せない部下をメンタルダウンさせてしまうようなケース
   
2.管理職がもともともっている「弱み」の未開発のまま放置されるケース
 企画力や概念力、戦略を構想する能力が足りていない実務担当者が、管理職になった途端、職場の戦略を構築することができずに、部下を率いることができていないようなケース
  
3.管理職が「自分の成功体験」をひきずり、それがあだになるケース
 実務担当者につちかった「自分の成功・勝ちパターン」をそのまま部下に適用して、部下が動かず、総スカンをくらってしまうケース
  
4.単なる「不運」
 残念。そういうこともある。管理職は「運・鈍・根」ともいいますね。「運勢・鈍感力・根性」(笑)結局、根性かよ・・・。
  
   ・
   ・
   ・

 管理職の脱線をふせぎ、生まれ変わりを支援する方法には、さまざまなものがあります。
 しかし、もっとも研究の数が多く、かつ、もっとも効果量が高いと言われているものは、
  
 フィードバックによって「自己認識(セルフアウェアネス:Self awareness)」を高めること
  
 でしょう。
   
 すなわち、自分の行っているマネジメント行動を、360度評価などのフィードバック機会を通じて、いわば「鏡」を見つめるように、とらえなおし、自らリフレクションを実行し、行動を補正するということです。
  
 別の言葉でいえば、
  
 有能な管理職になるためには「他者の目をとおした自己の姿」と「自分が思っている姿」を比較し、自己の在り方を見つめ直すことが重要である
  
 ということですね。ある研究によると「上級管理職の自己認識と他者認識の整合率は30%」という数字もでています。
  
 あなたの管理職のセルフアウェアネスの「整合率」は、どのくらいですか?
  
  ▼
  
 今日は管理職の「derailment」について書きました。
 できることならば、管理職が「生まれ変わり」を成し遂げ、つまづくことなく、成果創出に向かってもらえることを願っています。
  
 あなたの近くの管理職は「フィードバック」の機会をもてていますか?
 あなたの近くの管理職は「セルフアウェアネス」してますか?
  
 そして人生はつづく

 ーーー
  
【泣くな!新米管理職!】
  
おかげさまで10刷重版出来。「駆け出しマネジャーの成長論」は、「実務担当者」から「新任管理職」への役割移行をいかに進めるかを論じた本です。「脱線」をふせぎ、成果をだすためには「7つの課題」への挑戦が必要であることを解説しています!全国の管理職研修で用いられています。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
パーソル総合研究所と中原は、このテキストをもとにした「マネジャーになる研修」を開発しました。種部吉泰さんとディスカッションは、非常に楽しいものでした。このコースについても、どうぞご覧くださいませ!
  
「マネジャーになる」 研修:プレイヤーからマネジャーへの移行期支援プログラム
https://rc.persol-group.co.jp/seminar/become-a-manager.html
  
  ーーー
  
「フィードバック入門」13刷、「実践!フィードバック」が重版5刷です。ハラスメント時代に必要な部下育成の技術がフィードバック。耳の痛いことをいかに部下に通知し、そこから立て直しをはかることができるか。全国各所の管理職研修で用いられています。はじめてリーダーになる方、管理職になる方におすすめの2冊です。どうぞご笑覧くださいませ! この書籍をベースにした映像教材、通信教育教材、研修などもございます。
     
 
   
DVD『フィードバック入門』、通信教育、研修はこちら
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/
   
  ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
    

  
  ーーー
  
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約25000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
  
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.10.14 19:54/ Jun

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.9.28 17:02/ Jun

サーベイを用いた組織開発が「対話」につながらない理由とは何か?:忘れ去られた「今、ここ」の共有!?

2024.9.2 12:20/ Jun

【参加者募集中】研修開発ラボで「研修開発・評価の基礎」をすべて学びませんか?