NAKAHARA-LAB.net

2020.1.30 07:06/ Jun

あなたの周囲には「フレームワークの罠」にどっぷりハマっている「残念なビジネスパーソン」はいらっしゃいませんか?

 最近はずいぶん少なくなっていますが、世の中のビジネス界には、「フレームワークの罠」というものがあるように思います。
  
 ここでフレームワークとは
  
 SWOT分析
 3C分析
 4P分析
  
 といったもののことです。おそらく、ビジネスをやっているのなら、一度くらいは、どこかで聴いたり、目にしたことがあるのではないでしょうか。
  
 フレームワークとは、ザクッと要約すると
  
(1)新たにビジネスを立ち上げるとき、既存の事業の今後の行方を分析するときに、
  
(2)企業内部・企業外部の環境を分析するための
  
(3)思考のテンプレート(ツール)
  
 と考えればよろしいのかな、と思います。
  
 先のSWOT分析ならば、企業のもっている「強み」「弱み」「機会」「脅威」を分析することができます。
 3Cの場合は「市場・顧客(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」を分析します。
 また、4Pの場合は、マーケティングのときの「商品(product)」「価格(price)」「立地(place)」「販売(promotion)」を分析することができる、とされています。
   
 今日は、これらの分析ツールの詳細について論じたいわけではないですし、また、わたしはフレームワークのプロではございません。詳細は、ほかのWebページにゆずります。
  
 ここでは、ビジネスで「市場などなどを分析するためのツール」に「フレームワーク」といったものがあるんだなー、くらいをお考えください。そして、「フレームワークの罠」とは、「フレームワークへの過剰な依存が引き起こす、課題解決の落とし穴」のことをいいます。
    
  ▼
  
 一般に、わたしたちが生きる「シャバの現実」とは、まことに「複雑怪奇・魑魅魍魎」なものです。
  
 フレームワークの役割は、この「複雑な現実」のいくつかの重要な要因に「スポットライト」をあてて、思考や分析を進めやすくすることです。
  
 もちろん、「スポットライトを当てる」ということは、その周囲に「漆黒の闇」をつくりだします。フレームワークで切り出された事実が、「現実のそのままの写像」であることは、ほぼありません。ですので、フレームワークは万能ではありません。
  
 しかし、それでも、「複雑怪奇・魑魅魍魎なシャバワールド」を、何の「手がかり」もないなかで、やたらめったら分析するよりは、フレームワークがあったほうが「100倍マシ」です。
  
 かくして、ビジネスにおいてフレームワークは、様々な場面で多用されます。
  
  ▼
  
 僕は、仕事柄、さまざまなビジネスの課題解決の現場(市場分析)にお邪魔することが多いので、このフレームワークが利用される場面をこれまでたくさん目にしてきました。
   
 しかし、これらのフレームワークの利用場面を、たくさん目にする中で、わたしたちが、フレークワークを利用するときに陥りがちな「大きな罠」があることが、わかってきました。
  
 それは、なにか?
  
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 それは・・・
  
 フレームワークで分析しても、「やりたいことがない」
  
 フレームワークで分析しても、「決められない」
  
 ということです。
  
 自社・市場・競合などについてフレームワークを用いて、徹底的に分析したとしても、「自分自身にやりたいことがない」「自分で何をするか決められない」ということが、よく起こる、ということです。
   
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「なんじゃ、そら」とアゴがハズレそうになった方も、腰が砕けて、思わずウ○チョスを漏らしそうになった方も、いらっしゃるかもしれませんが、本当によく起こります。
  
 具体的にはこんな感じです。
   
 ほにゃららフレームワークを用いて、高度な分析を行い、何枚も綺麗なパワポが続いた。しかし、「何をやりたいのか」を表明するスライドになって、ほとんど提案らしきものは書いていない。
   
「で、何がやりたいんですか?」
  
 とうかがうと、
  
「いや、それが、どうしても、フレームワークを見ていても、思いつかなくて」
  
 とか
  
「いや、チームで話し合ったんだけれども、どうしても、決められなくて」
  
 という答えがかえってくるのです。
  
「もしかして、分析しただけですか・・・」
  
 あべしっ・・・(北斗の拳風に読む)。
  
 ▼
  
 ここで問題は2つくらいかな、と思います。
  
 ひとつ。
 まず認識しておかなければならない問題のひとつは
  
「フレームワーク自体が、答えを教えてくれるわけではない」
   
 ということです。
   
 分析結果をいくら眺めていても、どこらあたりから考えるか、のきっかけはつかめるかもしれませんが、その結果そのものが、「答え」を教えてくれるわけではない。
   
 何をするか、何をしたいのか、を決めるのは、当の本人です。
 そのためには、「脳がちぎれるほど考えなくてはいけない」
   
 考えてないから、「何をやったらいいか」わからない。
 そもそも「やりたいこと」がない。
   
 ふたつめ。
    
 何をしたいかを決めるときには、自分や自分たちのなかに「軸」がなければ「決められない」ということです。
  
 この提案で、誰を救いたいのか?
 誰にどんな価値提供を行い、どのような光景を見たいのか?
 どんなビジネスが「よいビジネス」なのか?
  
 こうした種々のの問いに対して判断するための、自分に「軸」がなければ、具体的に何をするかは決められません。
 フレームワークで、どんなに高度な分析がでてこようとも、それらが「等価」に並んでしまう場面では、ひとは物事を決められません。
  
 再び、あべしっ
  
 ▼
  
 こう考えてみると、結局、課題解決とは
  
 一方で「フレームワーク」などをもちいて、自社や他社を「分析」しつつも、
 他方では同時に「自分たちが何をやりたいのか」を同時に「考えぬくこと」です。
  
 そして、最後の最後に、これらのふたつの流れを「エイヤッと結び付けること」になるのかな、と思います。
  
 絵にすれば、こんな感じ。
 名付けて「課題解決の階段」
    

  
「階段の下」から、「分析」をする。
「階段の上」から、「やりたいこと」を考える。
そのうえで、「階段の踊り場」で出会う(笑)。
     
 だとするならば、フレームワークによる思考は、単純に「分析ツール」ではなくて、「やりたいこと」の「後付け意味づけツール」としても機能するのではないか、と思いますが、いかがでしょうか? この場合、まずは「やりたいこと」が先にある。その後に「やりたいこと」の理屈づけに、フレームワークが用いられる、ということです。
    
 いずれにしても、課題解決とは「帰納的思考と演繹的思考の出会い系や」!
(味のファンタジスタ・彦摩呂風に読んでください!)
     
 ということになるのでしょうか。
  
 ▼
  
 今日はビジネスで用いる「フレームワーク」の利用について書きました。
 世の中には、フレームワークを語り出すと、ものすごい蘊蓄のある方がいらっしゃって、すぐに口角泡を飛ばし出します。詳細は、そちらにゆずります。
  
 わたしはフレームワークについてはさして詳しくないですが、課題解決の現場を見ていると、そんなことを強く思います。
  
 あなたはの周囲には「フレームワークを使って、さんざん分析したあとで、何にもやりたいことがない病」に陥っている方はいらっしゃいませんか?
  
 あなたは「フレームワークの罠」に陥っていませんか?
  
 そして人生はつづく
  
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