2020.1.24 07:14/ Jun
企業研修の目的は「学ぶこと」ではありません。
企業研修の目的は「現場でのひとびとの行動」を変え、成果につなげることです
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冒頭の2つのセンテンスは、人材開発の「基本中の基本」です。
人材開発は、その基盤となる理論を「学習理論」におっていますが、しかしながら、その目的は「学習」ではありません。
人材開発の目的は、「組織の目標・戦略達成」のために「現場でのひとびとの行動」を変えることであり、成果につなげることです。
もちろん、「現場での成果」は、人材開発の力だけによって規定されているわけではありません。お客さんの状況もあれば、市況もある。上司のマネジメント行動に規定されるところも、彼等の意志決定のよしあしもあります。
もし「現場での成果」が人材開発の力だけに規定されているとするならば、企業は、従業員に「研修」だけをひたすらやればいいことになってしまいます。研修ばっかりやってる企業って・・・それ「学校」じゃん(笑)そんなことはありえません。
ですので、実際には、人材開発の成否の指標は、「成果(要は儲かったかどうか)」に置かれることは極めて希です。人材開発は「現場の行動を変えること」くらいを目指すのが「プラクティカル(実用的)」なのだと思います。
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しかしながら、これらとて「机上の空論」。
実際のシャバでは、こうなっていません。
実際、多くの研修の成否の指標は、「現場の行動を変えること」には置かれていません。研修後に実施される、研修評価アンケートで「研修の満足度」を5段階「とてもよかったーよかったーどちらでもないーよくなかったーまったくよくなかった」で問う評価が、研修の成否の指標とされていることがほとんどです。
一手間かけて、研修終了後数ヶ月後に、研修で学んだ内容を、実際に実践したのか、どうか。受講生の上司から見て、受講生は変わったのか、どうかをトレースすることは不可能ではありませんが、ほとんど行われていません。一手間かけて、数問の質問を研修終了後にメイルやWebで問う・・・そうしたことも行われません。
「研修で学んだことが、現場で実践されること」を「研修転移」といいますが、それが測定されることは、極めて希です。
なぜか?
「現場の行動を変えること」を研修成否の指標にすることは、端的にいえば、「都合が悪い」からであり、「面倒」だからであり、「手離れ」が悪いからであり、1ミリも「儲からない」からです。
ここには、実は、研修担当者と研修実施者(ここでは敢えて話をわかりやすくするために外部の教育ベンダーとします)の「共犯」関係が存在します。今日は、この「共犯関係」について、それぞれの立場に立って、お話ししましょう
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まず、研修担当者の立場から。
研修担当者のなかには「現場の行動を変えること」を研修成否の指標とすることは、「都合が悪い」し、「面倒」だと考える方が少なくありません。
研修の評価で、受講生アンケートで「満足度」を問うことは、多くの場合、「都合がよい」のです。
なぜか?
それは研修終了後というのは、研修という名の「温泉」に入ったばかりなので、身体・モティベーションともに、カッカ、カッカと「高潮」している状況です。そういう状況で、研修の満足度を問われれば、よほど研修がマズくない限り、「とても良かった」に「○」をつけてしまうものです。これは研修担当者にとっては、まことに都合がよい(笑)。この回答結果をもって「よい仕事」をしたことになるのだから「都合がよい」のです。
また、研修講師の立場からすると、研修の満足度というのは、講師の技術によって意図的に、いくらでも「操作」できます。だから、受講生アンケートで「満足度」を問うことは、研修担当者にとっては「都合がよいこと」なのです。研修講師には「盛りあげてくださいね」と言えばいいのです。
しかし、一方、研修を終了して、数ヶ月した状態で研修の効果測定を行うというのは、そうではありません。温泉を出て、シャバに帰り、すでに身体は「冷え切っています」(笑)。
そういう状況で、研修転移を問われるような質問をされれば、研修終了後よりはクールな頭で判断をするでしょう。だから、「研修によって、現場の行動を変えたかどうか」を指標にすることは、研修担当者にとっては、「都合が悪い」のです。
また、研修転移までを研修としてしまうことは、「仕事を増やすこと」になります。研修転移をうながすためには、研修の事前と事後に、いかに、その参加者に働きかけていくか。また、研修参加者の上司と「意識あわせ」を行っていくか、を必要とします。
これまでならば「研修をやること」が仕事であったはずなのに、「研修をやった」としても、仕事が終わりません。これが第二の理由「面倒だから」です。
もちろん、いろいろ書きましたが、近年では、研修転移を何とか高める工夫をなさる研修担当差の方も増えています。これは担当者に大きく依存します。一概に言えることではありません。
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次に、「研修の提供側」・・・多くは外部の教育ベンダーの皆様の立場にたった場合。
この場合、「現場の行動を変えること」はあまり指標にしたくないと考えるケースが少なくないと思います。なぜなら、冒頭申し上げたとおり、それは「手離れ」が悪いからであり「儲からない」からです。
まず「手離れが悪い」について。
先ほど書きましたように、研修転移をうながすためには、研修の事前と事後に、いかに、その参加者に働きかけていくか、また、研修参加者の上司と「意識あわせ」を行っていくか、など、多くの現場での努力を必要とします。
そして、ここまでを仕事とするのは、「仕事の始点と終点」が延びることを意味します。だから「手離れ」が悪いのです。いつまでたっても、お客さんから「別れられない」。だから、研修転移は頭ではわかっていても、見ないことにしたいのです。
実際に、多くの教育ベンダーのビジネスモデルは、おそらく、講師派遣料と著作権使用料(教材料)に多くをおっていると思います。研修転移については、頭ではわかっているけれど、そこまでやっても「儲からない」。このままのビジネスモデルである限りは、儲からないのです。
そして、ここが一番大切なのですが・・・
多くの研修担当者も、研修転移を「望んでいない」
研修担当者も、都合が悪く、面倒だと思っている。
研修担当者も、「研修の満足度」をとるのでOKだと思っている
だから、やらない。
だから、研修の成否の指標は「満足度」になる、ということになります。
つまり・・・
「現場の変化にはつながらない研修」は、このように、研修担当者と外部の教育ベンダーの「共犯」関係によって、「構造」として生み出されていた、ということになります。
もちろん、ここに「変化の兆し」も生まれてきています。やりきり型のワンショット研修も、今ではかなり少なくなってきました。インターバル型の研修も増えています。
また、HRテックなどの台頭により、様々な現場のデータが蓄積できるようになってきました。また、この研修転移そのものや、研修評価の仕組みを「ビジネスチャンス」と考えるベンチャーも生まれてきています。研修の教育ベンダーのかたちも、おそらく、この後、10年で大きく変わっていくことになるでしょう。
ちなみに・・・さらにひと言申し添えるならば、この「構造」をさらにさらに「強化」してしまう要因があります。
それは何でしょうか?
それは「ひとに対する、経営者の無関心」です。この無関心こそが、さらに事態を悪化させます。
経営者が「ひとの問題」には「無関心」
研修担当者は「都合が悪くて」「面倒だ」と思う
教育ベンダーは「手離れが悪い」し「儲からない」と思う
だから、「現場の変化にはつながらない研修」は、今日も、明日も、「構造」として生み出されていきます。
最大の犠牲者は、
時間外労働ができなくなりつつあるなかで、ひーひー言いながら、研修の時間を捻出し、働いている一般従業員
ということになりますね(泣)
あべしっ(北斗の拳風に読んでください)
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今日は、「現場に変化をもたらさない研修」がなぜ生まれるのかを考えてみました。もちろん、すべての研修担当者が教育ベンダー、経営者がそうだと言いたいわけではありません。
わたしの言いたいことは、
「現場に変化をもたらさない研修」は「構造」として生まれている
ということです。
最大に懸念するのは、
こうした「構造」によって、人材開発自体の価値が、低下していくこと
どうせやったって、意味ねーじゃん、と、ひとに対する「教育投資の価値」自体が下がっていくこと
です。
経営の優先順番のなかで、人材開発の価値が、地盤沈下していくこと
が一番心配です。そして、その傾向は、すでに出てきているようにも思います。
しかし、それではこの構造に亀裂をつくるためにはどうすればいいでしょうか。
それぞれの担当者が働き方を変える、ビジネスモデルを変える、というのもひとつです。しかしながら、最大の突破力は、わたしは「経営層かな」と思います。
経営や現場のフロントラインにいる総括責任者が、
「研修の満足度を問うな。研修転移を問え」
というだけで、事態が動き出す可能性もゼロではないかな、と思います。ま、楽天的だと言われれば、それまでなのですが。
あなたの会社の研修は、「現場に変化をもたらす研修」になっていますか?
あなたの会社の研修評価は、研修終了後の満足度アンケートですか?
そして人生はつづく
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