2019.12.16 07:23/ Jun
「先生、この研究は、定量の手法じゃできないですよね。じゃあ、インタビューで聴くしかないですか? インタビューでもいいんですか?」
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学部生の研究指導を行っておりますと、1年に3回?くらい出会うのが、冒頭のような台詞です。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、こうした一連の、学生の台詞の背景をたぐり寄せると、下記のようなことを学生が思っていることがわかります
1.定量的な研究手法に比べて、インタビューなどの定性的手法は「あまり高度なもの」とは思われていない
2.極端にいえば、インタビューは「やれば、誰にでもできるもの」と思われている
3.ゆえに、インタビューは「トレーニング」がいらずに、すぐ手っ取り早くできるものである
というものです。
学生にとっては、統計の知識、分析のスキルなどを必要とする定量的手法よりは、定性的手法が、どこか「お気軽な手法」に見えるのかもしれません。極端な話でいえば「トレーニング」を必要とせず、「やれば、誰にでもできるもの」と思われている節があります。
実際、現場のインタビューに向かうとき、自ら定性的な研究方法論の書籍を読み込んで出かける学生は一握りです。
しかし、実際には、まったくそんなことはありません。
たしかに「現場のひとに出会い、話を聴いてくるだけなら、できる」かもしれませんが、「意味のあるデータ」となるような貴重な話を聞けるかどうかは、また別の問題です。限られた時間のなかで、論文や書籍などで引用できるような「意味のあるデータ」を聞き取るには、それなりのトレーニングと経験を必要とします。
これまでの経験上、そして、管見ながら、様々な定性的手法にまつわる書籍を読んでいて、インタビューでもっとも大切なことをあげろ、と言われれば、僕は下記の2つをあげます。
1.インタビューとは「仮説」をもって、「仮説」に頼らず
2.インタービューとは「インター・ビュー」
今日は、このことをお話ししましょう。
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まず「1.仮説をもって、仮説に頼らず」です。
インタビューにもいろいろな流派がありますので、一概には言えないのですが、個人的には、「インタビュアーは、インタビューの前に「仮説(自分なりの、真偽判定できる、解きたい命題)」をいったんは持つべきだ」だと思います。
要するに、
インタビューの現場に「手ぶら」で向かわない
必ず、
インタビューの前には、自分の頭で考える
ということです。
これに対して、学生に多い考え方は、
インタビューは「手ぶら」でいって、手当たり次第、質問をしてくること。その中から、情報が得られると、ラッキー!
というものです。
しかし、経験上、これでは、あまり貴重なデータは得られないことの方が、多いような気がします。徒手空拳を振り回したとしても、相手は何を語って良いのか、わからないですし、時間だけが浪費されることの方が多いような気がいたしますが、いかがでしょうか。
けだし
「質問すること」とは「スポットライトを当てること」です。
インタビューする相手の生きる、生々しい生活世界は、実に、リアルで、実に多様です。
ですので、スポットライトをあてるときには、
相手の生きている生活世界の、どこに焦点をあわせ、どの角度から光をあてるか
を考えなくてはなりません。
しかし、ここでややこしいことが生じます。
いったんは持った仮説を、現場では「手放す覚悟」を持たなくてはなりません。
なぜなら、
インタビューとは「生き物」
だからです。
実際のインタビューでは、インタビュアーの思い通りに、コミュニケーションが進むことは、ほぼ希です。そうなると、場合によっては、自分がもっていた「仮説」を、いったん手放さなくてはなりません。
これが冒頭に申し上げた
インタビューとは「仮説」をもって、「仮説」に頼らず
です。
名経営者・松下幸之助の名言に「任せて、任せず」というものがあります。
松下幸之助の考えるマネジメントの要諦とは「仕事を任せるけれども、任せたままにして放置してはいけない」という意味です。これは、どっちつかずなようにも見えますが、「本質的に大切なこと」は「二分法」を超えたところにあるのかもしれません。
たどり着く結論は、
インタビューにとっても「仮説」をもって、「仮説」に頼らず
です。
▼
次に「2.インタービューとは、インター・ビュー」です。
これは言うまでもなく、スタイナー・クヴァールの著した「質的研究のためのインター・ビュー」という名著に書かれてあることです。
この名著は、
インタビューとは「職人芸」である
という観点にたちつつ、インタビューにとっての要諦を短いセンテンスにまとめております。
それが
インタビューとは「インター・ビュー」である
というものです。
「インター・ビュー」
とは、
インター(Inter : あいだで)+ビュー(View : 見方や見解)
ということです。
クヴァールにとってのインタビューとは「インターでビューすること」、すなわち、
「共通のテーマについての2人の人間のあいだの互いのまなざし、見解をやりとりをすること」
に他なりません。
もうすこし別の言葉でいえば、
インタビューとは、インタビュアーとインタビュイーが出会い、話をしながら為すべき、協同的な創造行為であり、
インタビューとは「(2人のあいだで)同じ光景を見ること」
である、ということです。
それでは、2人で「同じ光景」を見るために、相手に、どのような質問を投げかけ、どのような光景を浮かび上がらせるのか。
大変興味深いですね。
冒頭申し上げたとおり、これを可能にするためには、しっかりと考えることが重要です。
インタビューとは、断じて「やれば、誰にでもできるもの」ではありません。
むしろ、インタビューは、このような複雑な認知能力を要求する、高度なテクニックとあり方を要求する「職人芸」であるということです。
だから、「自分の頭」でまずは考えようね、ということです。
そのうえで、問いを練り上げ、現場にでかけたら、手放す勇気も持とう
ということですね。
学生たちには、社会の多くの人々からいただいた「貴重な機会」を活かし、
現場の人々と「同じ光景」を見てくることを願います。
そして人生はつづく
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