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2019.12.4 07:10/ Jun

人事業界に広がる「テクノロジー決定論」は「人間の猛烈なスルー能力」を軽視している!?

 ここ数年、「テクノロジー決定論」、というものが人事・人材開発の世界に広がっているような気がします。
  
 とりわけ、HRテック業界のなかで組織開発の関連領域・・・たとえば、組織内の状況をデータで見える化して、フィードバックに役立てる、といったような領域で用いられるテクノロジーには、その傾向が見て取れます。
 すなわち、僕の目からみて「テクノロジーを活用した組織開発領域」には、テクノロジー決定論が顕著に蔓延っているような気がします。
  
 ここでいう「テクノロジー決定論」とは
  
 新しいテクノロジーが(インプット)
 ただちに、ひと・組織・職場を変える(アウトプット)
  
 という具合に、インプットとアウトプットをただちに結びつけてしまう「安易な思考法」のことです。
  
 上記の命題において、「インプット」である「新たなテクノロジー」が、ただちに、アウトプットたる「ひと・組織・職場の変化」を規定してしまう、という考え方を、ここでは「テクノロジー決定論」と呼びましょう。
  
  ▼
  
 たとえば、職場メンバーのエンゲージメントや職務満足を「見える化」して、自動的にフィードバックをしてくれるHRテックを考えましょう。もちろん、フィードバックされたデータは、たしかに「ひと・組織・職場の変化」を導くリソース(知的資源)のひとつです。
  
 しかし、そうした「データ」が、直接、「ひと・組織・職場を変える」わけではありません。
  
 そのデータが現場のひとに「解釈(interpretation)」されて、「それは大事だね」「それは自分事だね」と意味づけられて、「まだ、何かやれそうだね」と考えられてこそ、「ひと・組織・職場を変える」のです。
  
 テクノロジー決定論は、
  
 新しいテクノロジーが(インプット)
 ひと・組織・職場を変える(アウトプット)
   
 とインプットとアウトプットを単純に結びつけることで、「ひとつ重要なもの」を見落とします。それはインプットとアウトプットのあいだにある「スループット」の存在です。本来ならば、インプットとアウトプットのあいだには「スループット」があるのです。
  
 すなわち、「ひとびとの解釈・意味づけ・それに基づく行動」といったような「職場内のひとびとの能動的行為」を、みごとに、綺麗さっぱり、意図的にか非意図的にか、パコーンと見落とします。
  
 すなわち、
  
 新しいテクノロジーが(インプット)
 現場のひとびとに解釈されて、意味づけられて(スループット)
 ひと・組織・職場を変える(アウトプット)
  
 のです。
  
 しかし、テクノロジー決定論は、どこかで「ひと」を甘く見積もっています。
 テクノロジーで、何らかのデータをフィードバックすれば、それでひとは変わり、ひいては職場は変わり、組織は変わるのだ、という図式で、すべての説明がなされます。
  
 さらにいうと、テクノロジー決定論の人間観とは、人間を「受動的存在」として見なしているむきもあるような気がします。
  
 すなわち、
  
 フィードバックされたデータを、ただたんに受容する「容器」のような存在として「ひと」を描きだしている
  
 かのようにも思えます。
  
 フィードバックさえなされれば、人間は、それを「ハハー」とありがたく受け止め、それがトリガーになって、考え方・行動を変えてくれるはずだ、という風に思っているむきもあります。
  
  ▼
  
 しかしですね・・・3秒、冷静になって、スーハースーハーと深呼吸して考えてみてください。
  
 ひとは、そんなに「従順」でしょうか?
 僕には、そうは思えません。
 
 もし、ひとがフィードバックされたデータを、ただちに我が事のように受容し、行動・行為を変化させる主体なのだとしたら、毎年毎年、健康診断や人間ドックで、なぜ多くの中年が、お医者さんに「γ-GTP、150いってるよ、おまけに、中性脂肪 200mg/dL超えだね」と指摘されても、なにひとつ「生活」を見直さないのでしょうか?
  
 それは、どんな数字を客観的に示されようとも、「いかようにも」、その数字が解釈され、意味づけられうるからかと思います。彼らは、どんな数字を見せられても、それを都合良く意味づけ、「行為を変えないこと」を主体的かつ能動的に「選択」している。
  
「γ-GTP、150いってる? 中性脂肪 200mg/dL? ま、そうだよね。最近数日、飲み会続いてたし、油物食べすぎたね。たまたまだよ、たまたま」
  
 ここで「たまたま」と意味づけられた数字は、どんなに、それがスパイシーなものであっても、スパイシーなデータとは、意味づけられません。
  
 個人であっても、こうなのです。
 もし仮に、これが「集団」にフィードバックされていたデータだとしたら、どうでしょう。
      
「ここにいらっしゃるみなさんは、残念ながら、全員、γ-GTP、200超えですし、おまけに、中性脂肪 180mg/dL超えです」
   
   ・
   ・
   ・
  
「あっ、そう?」
「言ってくれちゃったね」
「パコーンとね」
「でもさ、うちの職場さ、先週、ほら、社員旅行だったからさ、飲み過ぎちゃったんだよ」
「そうね、最近、飲み会続いたからな。たまたまだよ、たまたま」
「ま、お互いに注意するってことで、そうしときましょうよ」
「そうね、そうしよう」
「それにしても、おれら、メタボ三兄弟だな」
「そうだね、メタボ三兄弟、今日も気をつけて、飲みに行こう!」
(何も変わらず)
  
 このようにテクノロジー決定論は、「スループット」において、日々、「意味を産出する人間の存在」を忘れがちだから注意が必要です。
  
 ま、たいがいの場合は「都合のよい意味づけで発揮される猛烈なスルー能力」を軽視しているのですけれども(笑)。
   
 ▼
  
 今日は、HR業界、とりわけテクノロジーを活用した組織開発領域に、にわかに広がる「テクノロジー決定論」について書きました。
  
 あなたの組織の人事は、テクノロジー決定論に陥っていませんか?
  
 あなたのまわりには「都合のよい意味づけで発揮される猛烈なスルー能力」をもっているひとが、いらっしゃいませんか?
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー
     

  
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
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