2019.11.28 07:10/ Jun
ひとは、様々な「物語」を自ら紡ぎ、生きています
と同時に
ひとは、様々な「物語」に囚われて生きている存在でもあります。
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「先生、物語に囚われるって、どういうことですか?」
昨日、たぶん、僕のブログを読んだある学生さんが、こんな問いを発してくれました。こういう瞬間は嬉しいものです。彼らを「学問の入り口」に立たせるチャンスだからです。
日々本当に忙しく、あまり時間はないのですが、なるべく彼らの話を聞きながら、僕は、彼らを「学問の入り口」に立たせるようお話をします。
「そうか・・・じゃあ、少しだけ考えてみよう」
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たとえば、君が、生きていくなかで「何らかの苦難」にぶち当たりつづけ、こう思ったことはない? そういう瞬間にも、ひとは「物語に囚われている」
「わたしばっかり、ひどい目にあい続けている。わたしの人生は、もうおしまいだ。これからも何にもいいことがない」
何をするにも踏んだり蹴ったり、のときってあるでしょう?
こういうこと、誰しも一度は思ったことがあるだろう?
生きてさえいれば、苦難にもぶちあたる。
不幸なことに、それが続くことも、ゼロではない。
君を含め、ひとによっては、こういう思いを、持ってしまったひともいるんじゃないかなと思う。僕は、これも「物語に囚われる」ということに近いと思う。
つまり、
「わたしばっかり、ひどい目にあい続けている。わたしの人生は、もうおしまいだ。これからも何にもいいことがない」
というものが「物語」じゃないかと思うんだ。
▼
かつて、マーティン・セリグマンという有名な心理学者がいた。
彼はとても有名な心理学者なんだけど、彼が残した言葉に「人が苦難から快復することを妨げてしまう要因は3つある」というものがある。
それが「3つのP」という考え方なんだ。
これから紹介する「3つのPの考え方」が「邪魔」をして、人は、「苦難」や「苦境」を乗り越えることができない。
つまり、「自分は苦難にあいつづけ、もう、ダメだ」という「物語」に囚われてしまい、もう一度、快復(レジリエンス)する機会を失ってしまう。
1.Personalization(個人化)
「自分だけが悪い」「自分だけに苦難の対象者」だと思い込んでしまうこと
2.Pervasiveness(普遍化)
今、自分をおそっている出来事が、自分の人生のすべてに影響すると考えてしまうこと
3.Permanence(永続化)
ある苦難の余波は、いつまでも続くと考えてしまうこと
つまり、「自分だけが苦境に陥っている(Personalization:個人化)」「こんなことがあったら、すべておしまいだ(Pervasiveness:普遍化)」「この悪影響は未来永劫つづくだろう(Permanence:永続化)」・・・こうした考えーすなわち「物語」に、人が「囚われてしまった」としたら、それ以上は身動きがとれなくなってしまう。
人にもともとそなわっている「レジリエント能力(苦難からの回復能力)」がうまく発揮できなくなってしまうんだ。
君も知っているように、僕たちの実際の人生は、おそらく
あなただけではなく、「他の多くのひとびと」も、苦難に直面し
シンドイことの悪影響は、「人生のある部分」だけにしかあらわれず、
しかも、シンドイことは「永続しない」可能性の方が高い
確率論的にはそういえる。
だけれども、苦難に直面し、これを乗り越えることのできない人は、ついつい「3つのP」に囚われてしまう。
もちろん、これは「バイアス」といってもいいのかもしれない。もちろん、何度も何度も苦難に陥れば、視界が悪くなり、そういう「バイアス」に陥ってしまうのは、やむを得ないともいえる。
どうだろう、わかるかな?
こんな風に、ひとは、いろんな「物語」の中にいて、自分を意味づけたり、場合によっては自分を縛ったりしているんだよ。
ところで、君は、「物語」に囚われていないかな?
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ちなみに・・・せっかく「学問の入り口」に来たんだから、もし興味があったら、これらの本を読んでみたら。
今日した話は、シェリル・サンドバーグという元フェイスブックの役員の女性が「Option B」という本のなかでしているよ。
彼女が「夫の死」という苦難を目の前に、いかに戸惑い、いかに乗り越えようとしたのかが、書かれている。「3つのP」の話もそこに書いてあるから、読んでみたら。「レジリエンス」とか「ポジティブ心理学」という分野の入り口になるかもしれない。
あと、物語について考えてみたいんだったら、この本もおすすめだ。
もっとも簡単に、「ひとは物語る動物であること」「ひとは物語に囚われてしまうこと」を論じている新書だよ。こちらは「物語論」「ナラティブ論」という分野の入り口になるかもしれない。
大学の図書館にも、たぶんあるから借りてきなよ。
そして人生はつづく
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