NAKAHARA-LAB.net

2019.10.23 06:53/ Jun

「1on1の効果」を決めるのは「上司」だけでなく「部下」ではないか?

「1on1をする側の研究」じゃなくて、「1on1を受ける側の研究」がしたい
  
  ・
  ・
  ・
  
 立教大学経営学部・中原ゼミの2年生は、今年、金融庁・きらぼし銀行のみなさまとともに、両組織とのコラボプロジェクトに邁進しています。
  
金融庁 × きらぼし銀行 × 立教経営中原ゼミ2年生の「産官学共同研究プロジェクト」がはじまりました!:心ゆくまで知的に暴れろ!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10662
 
 
  
 プロジェクトの目的は、
    
 金融庁様・きらぼし銀行様(民間企業)2つの組織をフィールドとさせていただき、4つのテーマに関する「若手の人事課題、人材マネジメントの課題」を調べ、その課題解決のあり方を両社に・社会にも提案・共有すること
  
 です。
  
 具体的には、下記の4つのテーマに分かれて、文献を調査したり、ヒアリングを行ったりしています。
  
 1on1
 男性のキャリア
 女性のキャリア
 早期離職
  
  ▼
  
 そのなかで、今日は、一番上の「1on1グループ」をご紹介したいと思います。これにかかわる中原ゼミ2年生のメンバーは、大木紫万さん・新沼紫雲さん・植田和真さん・永井友理さん・種村歩さん・盛喜隆太さんの6名です。このグループの研究テーマは、冒頭にわたしが述べたものです。
  
 曰く
  
「1on1をする側の研究」じゃなくて、「1on1を受ける側の研究」がしたい!
   
 「1on1を受ける側の研究」ということになりますと、要するに、メンバークラス。
 自分たちは「1on1を行うマネジャークラス」のひとを研究するのではなく、メンバークラスの社員が、1on1をどのように受け、利活用しようとしているのか、などを調査するそうです。おそらく、そうしたメンバークラスの働きかけと、1on1の効果性を「かけ算」するのでしょう。
  
  ▼
  
 この研究計画を見ながら・・・手前味噌になりますが、僕は、学生たちは「よい視点の転換」をしたなと思っていました。ナイス!

(中原ゼミの学生は、Microsoft Teamsというソフトを使って、ふだんコミュニケーションをしていて、それぞれのグループの進捗が教員からある程度見えるようになっています)
  
 なぜなら、まず第一に、
  
 1on1をする側の研究や、1on1をどのようにすればいいかの言説は、世の中に腐るほどあふれておりますが、1on1をどのように受けて、利活用しようとしているかは、あまり語られていないことーーーつまり先行事例が少ないこと
  
 があります。
  
 もうひとつは、
  
 1on1とは「メンバークラスが、自分の話したいことを上司と定期的に話せる、相手本位の時間」であるとされる傾向があるが、もしそうなら、メンバークラスが、それをどのように積極的に利用しているかどうかで成否が決まるところも多いと予想されるからーーーつまり研究的な視点の鋭さ
  
 です。
  
 最後に
  
 そして、自分たち2年生は、あと数年たてば、社会にでて、1on1を受ける側の人間になる。そのとき、自分たちが、どのように振る舞えばよいかを、自らの探求を通して明らかにすることができるから・・・キャリア上の有用性
  
 です。
  
 できれば、
  
 1on1をどのくらいの頻度で、どのような回数話したのか、そこに問題点はないのか。どんなメリットが生まれたのか的な単純な質問に加えて
    
・1on1をメンバークラスはどのように意味づけているのか?
(1on1をそもそもどういう機会だとメンバーは認知しているのか? 能動的に1on1を利活用しているのか、1on1での情報探索をメンバーは自ら行っているのか?)
   
・1on1の上司との信頼関係、上司とメンバーのLMX(Leader Member Exchange)はいかなる関係にあるのか?
(LMX:Leader Member Exchangeとか、そういう概念・・・2年生知らないか?)
   
・1on1の前にメンバークラスはどのような準備をしているのか?
(会議にのぞむとき、なんの準備もしてこない人と、そうじゃないひとには違いはでてこないか?)
     
・1on1の最中、どのような内容をメンバークラスは話せているのか?
(話している内容、それにかけている時間。上司からの助言や反応)
    
・1on1の最中、上司からはどのような支援や働きかけがなされているのか?
(1on1版の職場学習論ができそうですね・・・職場学習論っていっても、2年生知らないか・・・)
  
・1on1の結果、生まれるものは何か?
(1on1の効果とは何なのか?)
  
・1on1の効果を、メンバーはいかに意味づけているか?
(1on1をeNPSするとすると、どうなるか? メンバーは、1on1にどの程度の有用性や実用性を考えているのか)
  
 などなど、フカボリした仮説や疑問をもって、現地のフィールドに赴いてほしいものです。
  
 これに関連すると、Feedback研究などでは、Feedback seeking、組織社会化研究では、能動的社会化といった概念もございます。先行研究をしっかりと調べて、ぜひ、よき課題解決に向かって欲しいなと思います。
  
  ▼
  
 今日は、中原ゼミの2年生たちの探求のなかで「1on1」に関するものをお話しさせていただきました。他のグループも、それぞれに面白い研究をしています。こちらに関しては、またご紹介させていただこうと思っています。
  
 最後になりますが、金融庁の石田晋也参事官をはじめとして川口英輔さん、戒田善一さん、岩元弘考さん、宮内文さん、松尾祐一朗さんには、おそらく多大なるご指導をいただいていると思います。本当にありがとうございます。 
  
 また、きらぼし銀行の味岡桂三社長はじめ、吉田裕幸さん、山本頌さん、小川恵さん、吉川満さん、小畑さおりさん、原啓太さんにも心より感謝いたします。
  
 この結果は、3月の成果発表会にて、必ず、両組織、社会にお届けできるものと思います。ちなみに、中原ゼミでは「フィードバックはごちそう!」と言い聞かせております。忌憚のないご意見を学生たちにいただけますと幸いです。
 中原ゼミ1期生(現・3年生)も、さまざまなかたちで、2年生をバックアップしていただけているものと思います。ありがとうございます。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   

  
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