2019.7.30 06:14/ Jun
企業内研修の実務において「厳密な研修効果の測定」は、限りなく「不可能」です
「魔法の杖のような科学的方法」が「どこかにあると考えることすら、もしかすると「方向があさって」なのかもしれません
それを「模索する」くらいなら、他のコトに時間を使った方がいい、というのが僕の結論です
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仕事柄、「研修効果の測定の方法」をめぐる質問を、年間に3万6千回くらいお受けいたします(号泣)。
曰く、
「研修効果の測定に、上が納得してくれないんです。これは、たまたま参加者がよかったから、なんじゃないか、とか、市況の影響を受けているんじゃないか、とか、いろいろウルサイんです。先生、厳密な研修効果測定の手法が、どこかにないんでしょうか?」
このご質問に対する僕の答えは、こうです。
「ありません。実務の現場で、実行するのはほぼ不可能です。また、その方向性での課題解決は、経営のためになりませんから、辞めた方がいいと思います。経営のためになりません、と上を説得してください」
これを、以下に、お話ししましょう。
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「厳密な」の定義によりますが、科学的に厳密な研修効果を測定しようと思ったら、よく知られているように「実験計画法」という手続きをとりながら、研修効果を測定することを目指さなくてはなりません(準実験を厳密の範疇に含めないならばの話です)。
専門家に便所スリッパでカンチョーされることを覚悟して、この場合の「実験計画法」を3行で説明いたしますと、1)「研修を受けた群」と「研修を受けさせない群」をわけて、2)この2つの群に対してランダムに、様々な部門から受講生を割り当て、3)「研修をやる前」と「研修をやったあと」のいわゆる「プレポスト(Pre-Post)」を比較して、研修効果測定を行うことがめざす、ということになります・・・この場合は。
こう書いちゃうと、簡単に見えます。
「なんだ、あるんじゃーん。じゃ、はやく教えてよ」
と思われる方も少なくないのではないでしょうか?
が、これを「実務」で実現しようとすると、ほぼほぼ「不可能」に近いことがわかります。
というか、現場からの「ツッコミどころ満載な状況」が生まれうる。
たとえば、先の説明には、1)「研修を受けた群」と「研修を受けさせない群」をわける、とありますが、これは現場や人事部内の納得度は得られますか?
「この研修はよいものだからやるんですよね? その研修を、研修効果の測定のために、敢えて「受けさせない群」をつくるってのは、どうかと思うんですが、どうでしょう? それは不平等じゃないですか?」
的な反応が、かならず現場や人事部内から生まれるはずです。
ま、正論だわな。これ、どうかわしますか?
また、2)ランダムに被験者を割り当てる、とありますが、これも非常に困難です。
おそらく、研修には受けさせたい層、受けて欲しい人というのがいるはずです。しかし、研修効果がどんな人にもあるかを実証するためには、誰かれかまわず、ランダムに受講生を割り当てなければなりません。これは、研修の実務的には、ありえない事態ではないでしょうか。
というか、
「なんで、この研修を僕が受けるんすか?」
という反応が必ず返ってくるはずです。
最後に3)です。
3)にはプレポストで測定をする、とあります。しかし、よく考えてみてください。「研修を受けた群」ならまだしも、「研修を受けていない群」のひとたちは、プレポストで、同じような質問紙やテストを、当人たちにとっては意味なく、受検させられることになります。これは実務上はかなり厳しいのではないでしょうか?
「あのーすみません・・・このテスト、半年後にも受けましたよね。2回も受けなきゃならないんですか? それに、オレ、そもそも、なんで、このテスト受けるんですか? 僕、何にも、悪いことしてないですよね? 罰ゲームですか? こちらも忙しいんで、仕事をさせてください」
というツッコミが現場から必ず帰ってくるはずです。
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要するにですね(朝は時間がないので、ちゃちゃっとまとめると)・・・こういうことです。
厳密に研修効果の測定をしようとすると・・・
本当にここまでして、厳密な研修効果を測定することにコストをかけるんですか?
現場に負担をかけて、厳密な研修効果測定をして、その後、あなた、どうしたいんでしたっけ?
という状況が生まれるということです。
端的にいえば、「経営のためにならない」可能性が高い。
といいましょうか・・・それだけコストや負担をかけて研修効果を測定することに、どのような「経済合理性」があるのでしょうか?
研修だけやって成果があがるのならば、毎日朝から晩まで研修をやるのでしょうか?
その方向は「やめた方がいい」のではないか、というのが僕の結論ですが、いかがでしょうか?
ここまでいっても納得しない上司がいるのならば、
上のところに、このブログ記事を印刷して持っていってください(笑)。
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「企業内研修の実務における研修効果」の目的とは、「アカデミックの研修効果測定」とは異なります。
「アカデミックの研修効果測定」とは、どんなにコストをかけたとしても、研究のために「厳密な効果」を測定することをめざします。
対して、実務における研修効果測定とは、むしろ、「限定的な合理性」のなかで行われます。
そして、その目的は「ステークホルダーが、研修を行うための意思決定をうながすこと(納得度をあげること)」にあります。
もちろん、誤解を避けるために申し上げますが、研修を「やりっぱなし」にしないでおく、というのは大切です。また、何もしなくてもいい、というわけではありません。教育の改善のため、研修効果を高めるため、なんらかの評価は行われるべきです。ただそこには「経済合理性」を超えた「厳密性」を求めるのは夢想だ、ということです。少なくとも「実務の現場」では。
ただ、その解決策として「厳密な方法」を求めていくのは、方向性としては「経営のためにならない」状況が多々生まれうるということです。
よって、研修効果の測定方法は、非常に簡便なものを、いくつか組み合わせて、研修効果が「ある」ように「実感してもらう」くらいが「実務的には適当」だと思います。
たとえば、
・従来の研修直後のアンケートに加えて、研修から数ヶ月後に遅延をおいて、「研修内容が実践されたかどうか」を問う
とか
・研修が「定期的」に行われており、かつ、何らかの「組織内調査」が同じように「定期的」に行われているのならば、研修の直後に「組織内調査の結果」にどの程度の変動が起こったかを測定する(単一事例デザインに近いですね・・・)
とか
・研修が「定期的」に行われており、かつ、離職率などの何らかの「経営指標」を定期的にウォッチしているのであれば、研修があったときと、ないときで、どのような変動が起こったのかを分析する
といったことがありえます。
しかし、それとて、負担もコストもかかります。
やたらめったら、やればいいというわけではない。
注意が必要です。
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さらにドラスティックに考えるのであれば、企業内研修の効果測定が、
「ステークホルダーが、研修を行うための意思決定をうながすこと」
にあるのならば、最初から「研修の企画」にステークホルダーに関与いただく
というのがもっとも「簡便な方法」です。
といいますのは、「研修効果を重箱の隅をつつくように、ぎゃーぎゃーいう上」に限って、研修や人材開発には「何も巻き込まれていない場合」が多いからです。
研修の企画に最初から巻き込んでおけば、「上」は「身内」になってもらえる可能性が高まります。そんなに気になるのならば、研修企画に意見を述べるなり、参加してくれればいいのです。
「あなたが関与して、コミットした研修なんだから、それでも、重箱の隅をつつくんですか?」
という話ですね。「あなた」も「研修企画の一部」なんですよ、と。
そう考えるのであれば、企業内の研修効果測定とは「組織政治的実践」である、ということになりますね。
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皆さんの会社では、どのように研修効果の測定をなさっていますか?
そして人生はつづく
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