2019.5.7 06:12/ Jun
ナラティブセラピーとは「希望を掘り当てる考古学」である
・
・
・
国重浩一著「ナラティヴ・セラピーの会話術」(金子書房)を遅まきながら読みました。
本書は、ここ20年ほど注目が集まっている心理療法のひとつであるナラティブセラピーを、平易な言葉で解説し、著者自身の事例(ケース)を収録した入門書です。
ナラティブセラピーとは、ここでは、
1.人間が自ら自分の人生を生き抜き、それらを「意味づける動物=物語る動物」であることを前提にした心理療法で、
2.「物語に囚われてしまったひと」に対して働きかけるカウンセリングである
3.ナラティブセラピーでは、カウンセラーとの会話によって、「自分」と「自分の抱える問題」を切り分けて(外在化・影響相対化質問法)、
4.いかに自分が「ある特定の理屈・世間でよく語られる物語に囚われていたか」に気づき、
5.新たな門出にふさわしい「もうひとつの物語」をつくりあげ、定着させていくこと
と考えてみたいと思います。
専門家が聞いたら、なに、それ?と言われるかもしれないけれど、ここでは、こう仮置きします。
▼
ここまで聞いて、人文社会科学にある程度の土地勘がある方がいらしたら、ナラティブセラピーとは、「ナラティブアプローチ(物語論)を応用した心理療法」とも定義できるのではないかとすぐに思うでしょう。
そして、その敷居は、通常の書籍では、かなり高いものです。
ナラティブアプローチを理解するための通常の書籍は、社会構成主義、ポスト構造主義・・・ヴィトゲンシュタイン、デリダ、フーコー、ブルーナ、ガーゲン、ホワイト、エプストンなどの言葉や理論から説明がなされます。これがまことに「難解」。
また既存の書籍の「翻訳が悪い」というわけでは「全くない」のですが、事例やケースが、どうしても海外の物になりますので、なかなかしっくりこない、ところがあったように個人的には思います。
本書は、そうした通常の書籍とは一線を画し、カウンセラーの国重浩一さんが、ご自身の言葉でナラティブセラピーを解説しつつ、ご自身の抱えたケースを応用しながら、それらを理解させようとなさっているところが、非常に印象的でした。おすすめの一冊です。
▼
本書を読んでいて痛感したのは、多くの場合、
ひとは「起こった出来事」そのものに苦しむわけではない
ということです。
起こった出来事(行為の風景)に対して、「物語る存在」であるひとは、自ら考え、感じ、「意味」をつくりあげる。ひとは、自分の人生を意味づけ、自ら生き抜いていく主体性を有しています。しかし、それが、逆に「徒」になることもある。
そうした場合、
ひとは「起こった出来事を考えることや、意味づけること」に苦しむ場合もある
ということになるのではないかと思います。
ナラティブセラピーでは、そうした場合、カウンセラーとの会話を通じて、「起こった出来事の意味づけ」に「裂け目」や「ほころび」を見つけ、「新たな物語」に書き直していくことがめざされます。
冒頭申し上げましたように、モンクによれば、ナラティブセラピーとは「希望を掘り当てる考古学」のようなものだといいます。
曰く
「カウンセリングにおけるナラティブの方法論とは、人生における問題によって覆い尽くされてしまった才能や可能性を一緒に探究するたびに、クライアントを招待すること」
であることです。まことに含蓄のある言葉です。
▼
10連休中、ふだんは読めない本、ふだんはなかなか経験できないことを、子どもと一緒にしておりました。皆様は、いかがお過ごしでしたでしょうか。
10連休明け・・・少しずつ再始動したいと思います。
あなたは、ふだん、どんな出来事を経験し、どんな物語を自ら紡いでいますか?
そして人生はつづく
ーーー
新刊「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介編著、中原淳監修)好評発売中です。1日の労働時間が約12時間におよぶ、先生方。その働き方を見直し、いかに持続可能な職場をつくりだすのか、を考えます。「サーベイフィードバック方の組織開発を応用した働き方改革」の事例として、教育機関以外の組織でも応用可能です。どうぞご笑覧くださいませ
ーーー
新刊「残業学」重版出来、6刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
最新の記事
2024.10.31 08:30/ Jun
2024.10.23 18:07/ Jun
【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)
2024.10.14 19:54/ Jun
2024.9.28 17:02/ Jun
2024.9.2 12:20/ Jun