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2019.4.30 07:04/ Jun

「わたし」は「わたし」に悩むのではなく「わたしの物語」に悩んでいる!? : 千野帽子著「人はなぜ物語を求めるのか」書評

 ひとは「物語る動物」である
    
 そして
   
 物語は、ひとを救いもするし、ひとを苦しめもする
  
   ・
   ・
   ・
  
 千野帽子著「人はなぜ物語を求めるのか」 (ちくまプリマー新書) を読みました。本書は「生きること」と「物語ること」の相互的な関係を、古今東西の人文社会科学の知見を用いて、軽やかに論じる本です。
  

  
 本書は、様々に読めると思います。
「特定の物語に執着し、生きづらさを感じているひと」もさることながら、「ナラティブターン(物語論的展開)」「社会構成主義」などに興味をお持ちの玄人の方にも、簡単に「物語論」の基礎を学ぶことができます。
  
  ▼
    
 本書の冒頭、著者は
  
 ひとは「物語る動物」である
  
 と位置づけ、
  
 読者のあなたもまた「物語る動物」である
   
 とします。
  
 著者のいうように、ナラティブターンと呼ばれる、この数十年の人文社会科学の展開のいくつかは、
  
 ひとは、物語の形式で、世界を認識していること
  
 を明らかにしてきました。
   
「世界を認識する」という「ニュートラルな物言い」で終わるのなら、話はシンプルなのですが、冒頭申し上げましたように、物語には、ひとを苦しめるネガティブな側面もございます。
  
 人間は、さして因果律のはっきりしない出来事の間に、勝手に因果律を想定し、物語化することがあります。
 またひとは、いったん「慣れ親しんだ物語」にまことに脆弱です。様々な物事を「慣れ親しんだ物語」に決めつけて生きている、という性質を持ちます。
  
 つまり、
  
 ひとにとって「物語」とは諸刃の剣です
   
 よって、
  
 物語は、ひとを救いもするし、ひとを苦しめもする
   
 ということになるのだと思います。
 これは本書の枠を超えますが、この「囚われの物語」からの解除が、心理療法ということになるのだと思います。個人レヴェルの解除ならば「心理療法」、組織レヴェルであるならば「組織開発」と呼ばれたりします。
  
  ▼
   
 さて「物語化の矛先」は「わたし」という、自己にとって、もっとも根源的で、深淵な世界にもひらかれています。本書では、「わたし」を物語としてとらえる視点ー自己へのナラティブアプローチ、ないしは、物語的アイデンティティ論についても述べられていました。
   
 著者によれば、よく、わたしたちが苦悩する「実存的問い」ーすなわち、「私とは何か?」すらも、物語化から無縁ではありません。
   
 すなわち、
  
「私とは何か?」もまた物語である
  
 ということになります。
  
 わたしたちは、日々、環境から様々な刺激を受け、実は、散逸的な行動(バラバラの行動)をとっていたりします。
 しかし、そのままでは、どうにもおさまりが悪い(笑)そのとき、「何か一貫した実在」のように「自己」を感じる必要性があります。
    
 よって「わたし」という存在は「物語的」に構成される
  
 という事態が生まれるのです。
  
 実存にひとが苦悩するとき、
  
 わたしは、「わたし」そのものに悩んでいるわけではありません
  
 わたしは、「わたしという物語」に苦悩しているのです
   
  ▼
  
 今日は、千野帽子著「人はなぜ物語を求めるのか」をご紹介させていただきました。本当ならば、GWはすべて休もうと思ったのですが、どうにも書かないでいると、気持ちが悪い。
  
 僕が支配されているのは、
  
 毎日、ブログを書かなければならない
  
 という「物語」なのかもしれません。
  
 本書には近日、続編もでるようです。おすすめの一冊です。
 そして人生はつづく
  
(明日からは、またお休みになります。ブログの開始は5月7日の予定です。みなさま、よきお休みを!)
    
 
   
  ーーー
  
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