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2019.4.24 06:56/ Jun

「1on1」とは「説教を食らう時間」ではない!?

「うちの会社のなかには、1on1を「説教を食らう時間」だと思っているメンバーが少なからず、いるんです。上司に呼ばれて、説教を食らって、猛省する時間だと。そういう組織で、1on1の考え方を普及させるのは、本当に大変です」
  
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 ちょっと前のことになりますが、ある人事担当者の方が、こんなことを漏らしておりました。非常に印象的なひと言でしたので、そのあと、かなり議論が盛り上がったことを、明確に記憶しています。
  
 ここで「1on1(ワン・オー・ワン)」とは本来は「上司と部下が、定期的に行う、30分程度の相談会(振り返り会)」のこと。
 「1on1」は、外資系企業や、ヤフーで導入された部下育成手法です。数年前から人事・人材開発の業界では、定番の部下育成方法として普及・定着しつつあります。
 今年になってからも、いくつかの企業で「1on1」の導入が決定されているのではないでしょうか。「1on1」が「制度」として導入された企業では、一週間に一度か、隔週で1度程度、上司と部下が膝詰めで、仕事の振り返りを行ったりします。
  
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 「制度として1on1」を導入することは、さして、難しいわけではありません。
  
 しかし、それを「組織の中のルーティン」として「定着」させるためには、それなりの「苦労」が伴います。
   
 まず最大のチャレンジになるのは「上司のマインドセット」を変えて、「1on1」に対して時間を割くことを了承してもらうことでしょう。
  
 上司のなかには、一定数、
   
「部下と話をするのは、時間の無駄だ」
  
 と思い込んでいる人もいます。
   
 端的に申しますと、
  
「無駄話をするくらいなら、仕事をしろ!」
  
 と思っているのです。
  
 そういう上司の「マインドセット」を変革していくのは、それなりにコストがかかることです。
  
  ▼
  
 一方、「変革」しなければならないのは「上司」だけではありません。
  
「上司のマインドセット」ほど「強固」ではありませんが、冒頭、ご紹介させていただいたように「部下のマインドセット」も、それなりに「強固」だったりします。
  
 過去に上司と話した経験、や、その組織の支配的な文化などの影響を受け、
  
 「1on1=(上司からの)説教を食らう時間」
  
 と思い込んでいる部下もいないわけではないからです。
  
 もちろん、ここでただちに部下を責めるのは酷というものです。
 おそらく、それらの人々は、その組織で長く働く中で、現在の状況に至っているのです。「上司とのコミュニケーション」ということから想起されるイメージが、イコール「説教」になってしまったのですね。
  
 上司に呼ばれる=上司とのコミュニケーション=説教食らう時間
  
 という風に「学習されてしまった」ということですね。
  
 これに抗して。「1on1(ワン・オー・ワン)」を「上司と部下が、定期的に行う、30分程度の相談会(振り返り会)」として機能させるためには、こうした「部下側のマインドセット」も変化させていく必要があります。そこで必要になってくるのは「部下の視点にたった1on1論」ではないでしょうか。
  
 世の中には、
  
「上司の視点からみた1on1論」
  
 があふれています。
   
 一方で
  
「部下の視点にたった1on1論」
  
 というものも必要になっている気がします。
  
 一般のメンバー、部下から見れば、「1on1」の経験とは、どのような経験なのか?
 彼らは「1on1」をどのように意味づけているのか?
 彼らの「マインドセット」をいかに変革していくのか?
 
 これらに関する実践知が語られる必要があるでしょう。
 さらには、部下に対して、1on1の意義や意味をいかに伝えていくのか、という学習機会が必要なのではないか、と思いましたが、いかがでしょうか?
   
  ▼
  
 今日は「部下の視点にたった1on1論」という「妄想」を開陳させていただきました。
  
 上司の方は「1on1」を「振り返りの会」と思っているかもしれない。
 しかし、同時に部下の方は「1on1」を「説教食らう時間」と思っているかもしれない。
  
 この「絶望的な両社のすれ違い」をいかにすりあわせていくのかが、大きなチャレンジですね。
  
 あなたの組織のメンバーは「1on1」にどのような思いをもっていますか?
 あなたの部下は「1on1」をどのように意味づけていますか?
  
 そして人生はつづく
  
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