NAKAHARA-LAB.net

2019.4.22 07:06/ Jun

「働き方を見直すプロジェクト」に必要な「見える化ツール」と「コンテキスト」

 このところ、企業でも「働き方の見直し」を「組織ぐるみ」ですすめる動きが本格化しています。
 一方で、その動きは、「学校」においても同じです。1日の平均の在校時間が11時間42分にものぼっている、一般の「学校」。マスメディア等でも大きく取り上げられているように「働き方の見直し」が急務となっています。
  
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 今年度から、横浜市教育委員会と中原淳研究室の共同研究では、
  
1)今年度、横浜市の新任校長になられた先生方の学校(約80校)で
  
2)サーベイフィードバックを用いた組織開発を
  
3)校長先生と副校長先生、主任の先生方など学校のキーマンたちが企画しつつ、
  
4)現場の先生方のご理解を得て、なるべく多くの方々を巻き込んで、
  
5)学校ぐるみで「働き方」を見直すプロジェクト
  
 を側方支援させていただいております。
 去年行っていた1校での実践事例をもとに、今年はこれを80校に広げ、さらには500校あまりある多くの学校に広めていくことを狙っています。
  
 先だっては、中原と研究室の辻和洋さん、そして、今年度から帝京大学に移籍なさった町支大介さんらとともに、横浜市の新任校長の先生型の研修(80名程度)を担当させていただきました。ご参加いただいた先生方、ありがとうございました!またサポートいただきました横浜市教育委員会・教職員育成課の皆様、教育政策推進課のみなさまに、心より感謝いたします。
  
「働き方の見直し」の「企業事例」については、なかなかブログなどで公表することは難しいので、今日はこのお話をさせていただこうと思います。中原研究室では、企業との共同研究も行っておりますが、しかし、行っていることのエッセンスは学校とまったく同じです。
  
  ▼
  
 横浜市の学校の「働き方の見直し」について、わたしたちが、何より重視していることは何か?
  
 それは、
  
 校長先生など、学校リーダーたちでプロジェクトチームを組み、
 「組織ぐるみ」で「働き方を見直して」いただくこと
  
 です。
  
 そのために、わたしたちは、下記のように「2つの武器(ツール)」を用意しました。
  
1.学校の現在を「自動で見える化」する自動集計アンケートシステム
 三十問程度のサーベイで学校の今を「見える化」し、全市平均と直ちに比較することのできる自動集計システムです。教職員育成課の野口久美子さんが、素晴らしいマクロを組んでくれました!ありがとうございます!
  
2.研修からかえった校長先生が、今回の取り組みを説明するときに用いることのできるDVD映像教材
 こちらは、わずか10分の視聴で、本取り組みの意義を、研修に参加していなかった先生方でも理解することができるように編集されています。撮影・収録にご協力いただきましたA小学校の校長先生型、先生方には心より感謝いたします。
  
 わたしたちが、この取り組みで大切にしたいと思っていることは
  
 働き方を見直す取り組みをすすめるリーダーの先生方を「孤独」にしない
  
 「素手で働き方を見直そう」とするのではなく、「見える化」を武器にする
  
 一部の先生だけが「気合いだけで、乗り切ろうとしないこと」
  
 だと思います。
   
 むしろ、なるべく多くの教員の皆様に、取り組みの意義を理解していただき、
  
「組織ぐるみで、計画的に働き方」を見直すこと
  
 を側方支援させていただければと思っております。
  
 先生方におかれましては、ただでさえ忙しい中、このようなプロジェクトにご参画いただくことになり、心より御礼を申し上げます。これらの取り組みを通して、働き方を見直していただくきっかけになったとしたら、大変嬉しいことです。
  
  ▼
  
 たとえば、学校の見える化ツールの方は、自分の学校を「プルダウン」で選択するだけで、自校の様子がグラフになって描画されます。
  
10分間に編集されたDVD教材の方は、先生方に、いかに取り組みの意義を感じて貰えるかだけを考えて、様々な工夫をこらしました。
 校長先生が孤軍奮闘して、取り組みの意義を伝えるのではなく、この取り組みの意義を感じてもらうための「コンテキスト」を映像としてあらかじめ準備し、提供することをめざしています。
  
 まず、映像は、先生方、場合によっては親御さんにも見ていただけるように、ソフトな質感でつくられています。
  

  
 映像のナレーションを行うのは「子ども」たちです。
  

  
 この映像では、横浜市教育委員会と中原淳研究室の共同研究の調査結果のダイジェストを簡単に解説させていただくことをとおして、なぜ働き方を見直す必要があるのかを考えていただけるように編集されています。
  

  

  
 取り組みの意義をご理解いただけたとしたら、のちに解説するのは、サーベイフィードバック型の組織開発の説明です。先生方の働き方を「見える化」していきながら、自分たちで対話を通して、働き方を決めていけるように、デザインされています。
  

  
 映像中では、組織開発という言葉を一切用いずに、その要点を解説しています。組織開発のエッセンスを、これ以上、簡単に説明している映像は、おそらく日本初ではないでしょうか(笑)。
  

  
 また、組織変革という言葉をひとつも用いずに、組織変革のやり方や理論のエッセンスを、具体的にお話ししています。
  

   
 大切にしている価値感は「自分たちの未来は、自分たちで決めていただく」ということです。
  

  
 行政などにはリソースなどの投入で予算獲得にさらにがんばっていただく一方、自分たちの組織の未来を、いかに自分たちで決めていくかを考えていただけるようにしています。
  
 なお、この映像は、映像作家の夏目現さんにおつくりいただきました。夏目さんには素晴らしい映像をつくっていただき、心より感謝をしています。
  
 実は、この映像は、もともと、僕が長く仕事を御一緒してきた、映像作家の大房潤一さんにご依頼をさせていただいておりました。しかし、大房さんは、先だって病に倒れ、急逝なさいました。
  
 僕が大房さんにこの仕事をご依頼させていただいたのは、冬のことです。
 大房さんは、おそらくは自分の健康が長くはもたないことをお感じになり、この映像の作成を、自分の弟子の夏目さんにお任せになりました。
 闘病の中、僕と夏目さんを引き合わせてくださり、大房さんの奥様、わたし、夏目さん、辻和洋さんで、映像のコンセプトを議論しました。大房さんは、最後の最後まで、この世にまだ誰も見たこともないような「新しいもの」を創ることに、こだわり抜かれていました。これまで僕は、大房さんと様々なプロジェクトで御一緒してきました。どのプロジェクトにおいても、クリエィティブを語る大房さんは真剣でしたし、遊び心に満ちた素晴らしいアイデアをお持ちでした。クリエィティブを語る嬉々とした大房さんの顔が、僕は、いまなお、忘れられません。
 かえすがえすも残念なのは、この映像の完成を待たずして、大房さんが亡くなられたことです。とてつもなく残念なことです。
  
 この映像を見るたびに、僕は、大房さんを思い出し、思わず涙がでてしまいます。
 あなたと一緒にもっと仕事がしたかった。。。
 どうかゆっくりお休みください。ご冥福を心よりお祈りいたします。
  
 たくさんの思いがつまったプロジェクトです。
 何とか、多くの現場に、思いがつたわることを願っています。
  
  ▼
  
 今日は、サーベイフィードバック型の組織開発で、働き方を見直すプロジェクトについて、横浜市教育委員会と中原研究室の取り組みをご紹介させていただきました。80数校の校長先生方、また、それらの学校に勤務なさる先生方におかれましては、大変お忙しい中、このプロジェクトにご関与いただき、心より御礼を申し上げます。
  
 なお、わたしたちが側方支援させていただいたサーベイフィードバック型組織開発による「働き方の見直しプロジェクト」の概要は、下記の書籍「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介著、中原淳監修)にまとめられております。また、こちらの書籍では、横浜市教育委員会×中原淳研究室の行った調査結果についてもご照会させていただいております。どうぞご笑覧くださいませ!
  

    
 この試みを通して、どうか、よき働き方を見いだしていただけることを願っております。
    
 そして人生はつづく
    
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