NAKAHARA-LAB.net

2019.4.3 06:50/ Jun

組織開発とは「心理戦」である!? : 現場の人々がシャッターバーンする「残念な組織開発」はなぜ生まれるのか?

 サーベイフィードバック型の組織開発は「心理戦」である
   
  ・
  ・
  ・
  
 最近、僕が、いろいろなところで繰り返している言葉のひとつです。
 中原研では、現在、民間企業・学校ふくめて、様々な組織に、サーベイフィードバック型の組織開発のご支援(研究)をさせていただいております(ありがとうございます)。それぞれの現場での展開を拝見させていただいて、常に、思っていることが、このことです。
  
 ちなみに、ここで「サーベイフィードバック型の組織開発」とは、
  
 1.サーベイ(組織調査)の結果を、
 2.組織メンバーにおかえしし(フィードバック)
 3.「これまで」の組織のあり方を「振り返り」
 4.「これから」の組織の方向性を「決めていく」こと
  
 とさせていただきます。
 別の言葉で申し上げますと、サーベイフィードバック型の組織開発とは、サーベイ(調査による現場の見える化)を「きっかけ」として、現場メンバーに「リフレクション」をうながすこと、です。
  
  ▼
  
 本日のテーマである、
  
 サーベイフィードバック型の組織開発は「心理戦」である
  
 という命題の含意は、下記の3つです。
  
1.サーベイ(データ)の返し方ひとつを間違えると「現場は白ける・拒否する」
(=現場の方々の感情に配慮したフィードバックを行わなければならない)
  
2.データが「刺さり」現場の納得感を得たときの、主体性の発揮のされ方はすごい
(=現場の感情が動いたときの主体的な瞬発力は素晴らしい)
  
3.組織開発は、しばらくすると「リバウンド」がはじまる
(=現場の感情は常に揺り戻しがあるので、リバウンドを避けるための施策が必要)
  
 下記では、それぞれを見てみましょう。
  
  ▼
   
 まず1の「データの返し方」に関することです。これは、これまでにも論じたことがあります。
 サーベイフィードバックを行う際に、「上から目線」でデータをフィードバックをしたり、「現場のひとがカチンとくるような言葉」を不用意に用いようならば、データをかえすとか、フィードバックをする「以前」に、現場の人々の心のシャッターがバーンと閉まってしまう(拒絶されてしまう)。
  
 どのようなデータを、どのような順番でみせるのか?
 どのデータから、何を考えてもらうのか?
  
 こうしたことを「当事者の目線や心理」にたって考えて、データをお返しする必要がございます。これが「心理戦」のひとつの側面です。
  
 そして、幸いに、データが「現場」に刺さり、現場のひとびとが主体的に動きだしたときのスピードや勢いは、素晴らしいなといつも感じています。気持ちや当事者意識だけで、これほどまでに変わるのか。成果がでるのか、と感慨深く拝見させていただいております。これが「心理戦」の2つめの側面ーいわば、ポジティブサイドです。
  
 ▼
  
 心理戦の最後・・・3つめは、「リバウンドの防止」です。
 組織は、まことに「継続すること」に脆弱です。サーベイフィードバック型の組織開発が奏功し、主体的に現場が動きだしたとしても、日々のルーティン作業や定常業務のなかで、いつしか、変革のマインドが薄れてきます。そこが「心理戦」の見せ所です。
  
「振り返り」や再度「フィードバック」の機会をもうけ、初心をリマインドさせていただく。リバウンドを何とか食い止めるご支援をさせていただく。
   
 このように現場を変えていくためには、組織がもつ「感情」に配慮しながら、行う必要があります。
  
 ▼
  
 今日は、サーベイフィードバック型の組織開発を行うときの留意点について「心理戦」というメタファを用いて考えてみました。
  
 今日の主張を端的に言ってしまえば、
  
 組織メンバーの有する「感情」や「価値」に配慮しながら、組織開発を行わなければ、成果はでないよ
  
 ということなのでしょう。
 月並みすぎる(笑)
  
 しかし、命題として書いてしまえば、至極もっともなことでも、世の中には「非・心理戦的な組織開発」があふれています。
  
 ボタンをポコンとおすだけで、サーベイフィードバックできんですよ
 えっ、何がフィードバックされるかって、そりゃ、現場のことなんで、わたしにはわかりません
  
 組織開発で、数字を現場に「落とし」たんですけどね
 そしたら、予想外のハレーションが起きちゃって・・・
  
 AIが自動で、人事の勤怠データを引っ張ってきて、現場長にメールでフィードバックするんです
 現場長がメールを読んでいるかって? それは、メールなんでわかりませんねぇ・・・

 トホホ。
  
 あなたの組織開発は、「受け取る相手の心理」に配慮をしていますか?
   
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
 組織開発におけるサーベイフィードバックについては、これまでにもポイントを論じたことがございます。どうかあわせてご笑覧くださいませ。
  
連載1日目:調査データを現場にフィードバックしても シャッターバーンにならない方法!? : サーベイフィードバック型組織開発、11のポイント
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9679
  
連載2日目:「上から目線のサーベイフィードバック」が現場を1ミリも変えない理由 : サーベイフィードバック型組織開発、11のポイント
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9683
  
  ーーー
  
 働き方改革を組織開発ですすめる事例に関しては、民間企業、学校等、下記のような事例がございます。どうかご笑覧くださいませ!
  
働き方改革から組織開発へ~現場主体で変革を推進するための3つの鍵とは?~
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201903110001.html
  
個々の教員の気付きを促す 組織開発による働き方改革
https://www.kyobun.co.jp/commentary/cu20190117/
  
  ーーー
  
新刊「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介編著、中原淳監修)好評発売中です。1日の労働時間が約12時間におよぶ、先生方。その働き方を見直し、いかに持続可能な職場をつくりだすのか、を考えます。「サーベイフィードバック方の組織開発を応用した働き方改革」の事例として、教育機関以外の組織でも応用可能です。どうぞご笑覧くださいませ
   

   
  ーーー
   
新刊「残業学」重版出来、5刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
   

   
 ーーー
   
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
   
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
   
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.10.14 19:54/ Jun

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.9.28 17:02/ Jun

サーベイを用いた組織開発が「対話」につながらない理由とは何か?:忘れ去られた「今、ここ」の共有!?

2024.9.2 12:20/ Jun

【参加者募集中】研修開発ラボで「研修開発・評価の基礎」をすべて学びませんか?