NAKAHARA-LAB.net

2018.11.7 06:48/ Jun

「肩書き」を語るな「経験」を語れ!? : 副部長の「肩書きトーク」が面接担当者にイマイチ「ピン」とこない理由!?

 先だって、ある企業の採用の担当者と雑談をしていたとき、こんな話になりました。
    

「先生、採用を担当してすぐに気がついたのですが、学生の「経験」は、なかなか聞きだしたくても、聞けないのです。極端なことをいうと、みんな「肩書き」で、自分をアピールするのです。100人いたら90人はそうですね。副部長やっていました、副キャプテンをやっていましたとね。そういう面接が一日に数十人続くのです。
  
もう僕らは、副部長の話は聞きたくないのです。部長ならともかく、副部長というのが、これまたビミョーですけれど。まぁ、それは置きましょう。
  
先生もおわかりでしょう。肩書きから、僕らは、その子が何を考えて、どんな行動をして、だからこそ、自社でどんな貢献をしてくれそうか、はわからないのです。「肩書き」ではなく「経験」を語って欲しい。
  
たとえば、なんか面倒くさいものを、自ら取りにいった経験。動かないものを、何とか動かした経験。みんなに、笑顔を取り戻した経験。そうした「経験」を語って欲しいのです。
  
副部長、部長、TA、キャプテンの「肩書き」は、社会から見たら、極端な話、どうでもいいのです。だって、たかだか、大学のクラブの肩書きじゃないですか。社会から見たら、あっそうなんだ、という感じじゃないですか。でも、学生の中には、肩書きをつとめたから、よいと思っているひとが少なくないですね」

  
  ・
  ・
  ・
  
 なるほどなぁ・・・と思いました。僕は、ふだん採用の場面にいるわけではないので、とても勉強になりました。「へー、そうなんだ」。貴重な勉強の機会をありがとうございます。
  
 そして、話を伺いながら、この話が仮に「真」だとするならば、問題の根源には、やや根深い問題があるな、と感じました。少し腑分けして考えますと、下記の4点です。
  
1.学生のなかには「肩書き」を語ればOKだと思っているひとがいる
  
2.学生のなかには「どこそこの大学の、どこどこクラブの、ある特定のポジションを占めること」が、社会的にただちに「意味がとおる」と思っているひとがいる=社会からみたときの「肩書き」の意味を相対化できていない
  
3.学生のなかには、どのような状況で、自分が何を為して、どんなインパクトをもたらしたのか、経験の棚卸しができていないひとがいる。さらには、だからこそ、社会にどんな貢献ができそうかを示唆することができないひとがいる。
  
4.学生のなかには、聴衆が何を知りたがっているのか、把握していないで、自分のことだけをアピールすることがよいと思っているひとがいる
  
 細かくあげていけば、まだまだいろいろあるとは、思いますが、だいたいそんなところでしょうか。
  
 もちろん、ここでいう「学生」は、広くあまねく一般化できるものではないことは、先に申し上げておきます。
 できている学生もいるし、そうでない学生もいる。究極をいえば、ケースバイケースです。
  
 そのうえで・・・1と2と3と4の問題は、突き詰めて考えれば、僕は「ひとつの問題」に帰結するような気がします。それは、「社会の第三者の視点の圧倒的欠如」です。
  
 もう少しブレークダウンして考えますと、
  
 社会の「第三者」をそもそも意識できていないこと
 社会の「第三者」から見たときの自分を相対化できていないこと
 社会の「第三者」から見たときの「経験」の意味を把握できていないこと
 社会の「第三者」が「この人がどんな貢献をしてくれそうか」を経験から推し量っていることを把握できていないこと
 
 ですね。
  
 だからこそ、
  
 ひとりよがりに
 大学時代につとめた「肩書き」の話を
 誰一人、その「肩書き」がピンとこない状況で
 語ってしまうのでしょうね
  
 おお、くわばら、くわばら。
  
 まぁ、もちろん、学生の皆さんからすれば、言いたいことも多々あるのでしょうけれど。経験の話をしたくても、時間がなくて、肩書きの話で終わってしまうとかね。
  
 「すれ違って」ばかりだね。
  永遠の課題かもしれません。

  ▼

 今日は採用のお話をしました。そのエッセンスを端的に述べてしまうのなら、
  
 肩書きを語るな、経験を語れ!
  
 ということになるのではないか、と思いますし、
  
 社会の「第三者」から見てどう見えるかを意識せよ
  
 となるのだと思います。
  
 僕は採用が専門ではないので、あまり詳細は知りませんが、皆さんはどう思われますか?
 実は、ついこないだ、この話を「中途採用の担当者」にしたら、「先生、それ、中途採用でもまったく同じですよ」なんて言っておられました。「どこそこ大企業の肩書きでしか、自分の仕事を語れない人は、少なくありません」だそうです。
  
 あなたは、最近、肩書きの話にウンザリしたことはありますか?
 あなたは、自分の大学時代の経験を、語ることができますか?
   
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版3刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
   

    
 ーーー
    
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、ついに刊行になりました。AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
    

  
 ーーー
  
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
 中原研究室のLINEを運用しています。すでに約9300名の方々にご登録いただいております。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
        
友だち追加
   

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.11.22 08:33/ Jun

最近、僕は何をやっているのか?そうね、いろいろやってます!?

2024.11.15 15:01/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)