2018.6.28 05:39/ Jun
患者が着席すると、通常なら、医師は「どうしました」と声をかけ、症状を聞こうとするだろう。 / しかし、ここでもまた、中井(精神科医の中井久夫:元京都大学教授)は違った。(中井は)患者が黙っているならば、自分も黙っていた。
10分ほどたった頃、中井は、やさしく患者に語りかけた。
「しゃべるのが苦手みたいね」
「・・・・はい」
患者は、はじめて口をあけた。
「いいよ、そのままで、いいよ」
中井がそういうと、再び「沈黙」となった。 /
さらに10分ほどして、患者はようやくなぜここに来たのか語り始めた。
「・・・先生・・・ぼく・・・みんなに嫌われているんですよ。ぼく・・・いてもいなくても同じなんですよ」
「そうか、それ以上、今、あわてて、言葉にしなくてもいいよ。そのままでいいよ」
(最相葉月「セラピスト」 p225より一部引用、一部略)
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最相葉月「セラピスト」を再読した。この本が出た頃に、僕は、一度、読んだことがあるような気がする。本をめくってみると、ページの右端が「折られている」。これは僕の読書の痕跡だ。やはり、「かつての僕」は、本書を読み、感じ入ったことがあるようだ。
しかし、「過去の自分は、今の他人」ともいう。過去の僕が、何を思って、このページを折ったのか、僕にはわからない。ただ、今、同じ場所でページを折ろうとしているところを発見する。今とかつての僕のあいだに、共通点も感じる。
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最相葉月「セラピスト」は、とてつもなく、不思議な本である。
本書は、カウンセリング(心理療法)の歴史や方法の変遷を「縦糸」にして論じつつ、作家自身が、自らの悩みをもとに、自ら自分自身でカウンセリングを受けた経験を「横糸」に綴っている本である。まずは、この構成に圧倒される。
さらに述べるならば「斜め糸」というべきか ー 心理療法家の河合隼雄さん(箱庭療法)と精神科医の中井久夫さん(風景構成法)らへのインタビューを時折織り込み、これまでの類書の、どんな本にもない読後感をもつ「テクスト」を構成しているようにも思える。
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本書を通底しているテーマとは、副題にもなっている、この「ひと言」であると思う
Silence in Psychotherapy
(心理療法の沈黙:静けさ)
静けさとは「沈黙」だ。
沈黙とは「待つこと」である。
一般に、世の中では、心理療法とは、迷える患者を「善導」する営みーすなわち、患者をよき方向にむかって「助言」を行い、望ましき方向に「社会化」する営みであるかのようにとらえてられている。
しかし、本書を読みすすめると、その「方向性」にズレがあるかのように思えてくる。
心理療法は、僕にとって、まったくの門外漢だ。
でも、心理療法の要諦とは「沈黙」や「間」にもあるのではないかー「待つこと」や「静けさ」を保つことではないか、と思うようになってくるから不思議である。
もちろん、本書に、明確にそう書いてあるわけではない。
中井久夫さんと著者のやりとり、そこで展開されている会話のテンポや静けさ・・・そうしたことから、著者が、このことを読者に感じさせているのではないか、とすら思えるのである。
嗚呼
静けさのある時間を、心ある人と過ごしたい
読後の感想は、それに尽きる。
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一般に、心理療法の効果性を決める要因のうち、カウンセラー、セラピストの占める割合は、少なくないことがよく知られている。
■心理療法効果に影響を与えるのは、1)偶然の要因(40%)、2)カウンセラー要因(30%)、3)本人が感じる「希望」(15%)、4)カウンセラーが用いる技法(15%)である
Lambert(1992) Psychotherapy outcome research. Norcross, J. C. and Foldfried, M. R. Handbook of Psychotherapy integration
■心理療法の手法よりも、カウンセラーが誰かということの法が、ずっと多くの影響力をもつ。カウンセラー効果が全体的機能水準の改善の28%を説明する
Orlinsky, D. E. and Ronnestand, M. H.(2005) How psychotherapists develop. American Psychological Association
Nissan-Lie, H.A. et al(2013) The contribution of the quality of therapists personal lives to the development of working alliance. Journal of Counseling psychology. 60(4) pp483-495
■カウンセラーの内省能力が高いほど、課題解決が高い
Nissan-Lie, H.A. et al(2013) Psychotherapist’s self reproof their interpersonal functioning and difficulties in practice as predictor of patient outcome. Psychotherapy research. 23(1). pp86-104
心理療法は、
どの手法を試すのか
もさることながら、
誰に出会うのか
が重要なのかも知れない。
あなたは「誰」に出会いたいのか?
そこに「静けさ」はあるのか?
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とにかく「饒舌さ」と「前のめり」が求められる時代である。
迅速でアジャイルな問題解決、アカウンタビリティの饒舌さ、前もって前もってつくりあげられるプラン。
「静けさ」とは対極にある世界に、疲れ切った方には、おすすめの一冊である。
今のあなたは、いったい「誰」に出会いたいのか?
心が癒やし、癒やされるとき・・・そこに「静けさ」はあるのか?
僕も「疲れている」のかも知れないな(笑・・・ははは)。
そして人生はつづく
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