NAKAHARA-LAB.net

2018.1.26 05:58/ Jun

博士論文を書くとは「自分と向き合い、けじめをつけること」である!?

 博士論文を書くとは「自分と向き合うこと」である
 そして「けじめ」をつけることである
    
  ・
  ・
  ・
  
 今年度、中原研究室では、博士論文を執筆する大学院生が何人かおられます。
    
 過去1年には、研究室の2名の方々が博士号を取得しました(おめでとうございます! 研究室ができてから4人目になりますね)。現在、2名の方が、まさにアタック中。ぜひ最後まで「完走」していただきたいものだと思っております。
  
  ▼
   
 博士論文の指導教員(主査)として指導をしていて(たいした指導はしていませんが・・・)、最近、つくづく思うことがあります。それは冒頭のひとこと。
  
 博士論文を書くとは「自分と向き合うこと」である
 そして「けじめ」をつけることである
  
 ということです。
  
 このことは所属する大学院や、学問分野によって違うので一概には言えませんが、少なくとも僕の置かれている状況では、そう思います。
  
  ▼
  
 以前、このブログでも、書いたことがありますが、
  
 博士論文の執筆プロセスとは「U字の谷」を上り下りするようなもの
  
 です。図にしてみると、こんな感じ。
 下記では、このことを少し説明してみましょう。
  

  
 図にみえますように、博士論文の最初は「自分はなぜこの論文をかくのか」「一般・理論・抽象的な議論 / 社会背景 / 歴史的背景」といったようなことをのべる「高み」からはじまります。
   
 そして、そうした「高み」にこれからやるべきこと、すなわち、自分の研究を意味づけ、位置づけながら、「個別・実践・具体」の世界に「下っていく」。この「下り」は「先行研究を批判的に吟味する / 自分の研究のオリジナリティを主張する」とよぶこともあります。
  
「下界」におりたら、ただちに、RQをかかげて、いくつかの研究知見を積み重ねなくてはなりません。ここは個別・具体的に研究を積み重ねるところです。
  
 問題は、ここからです。下界で得られた知見は、そのままにしておいてはいけません。そこで「旅」を終えては「谷底で遭難」です(笑)。
 「下界」で得られたものを、もう一度持ち帰るべく、谷をはいあがらなくてはならない(笑)。
  
「下界」で得られた知見を、「一般・理論・抽象な議論」といったような「高み」に「意味づけなおし」「位置づけなおし」を行わなくてはならないのです。
  
 そして極めつけは「自分と向き合うこと」です。
 「過去の自分は何をやってきたのか」「自分の研究とは何だったのか」、そして「これからの自分は何をしていくのか」を述べなくてはなりません。これが懸案の「けじめ」をつけることです。
   
 それができて、ようやく「高み」に戻ることができました。「U字谷、無事終了」です。
  
  ▼
  
 しかしながら、言うのは簡単ですが、この「U字谷」の旅はまことに苦しい。本当に苦しい。特にラストワンマイルの「けじめ」の部分です。
  
 「過去の自分は何をやってきたのか」「自分の研究とは何だったのか」、そして「これからの自分は何をしていくのか」を述べる頃には、体力や気力も尽きており、もう、ほうほうの体なわけでございます。
 そんななか、自分の研究を学問分野全体に位置づけつつ、さらには、自分にけじめをつけなければならない。もう必死です。
  
 しかし、博士論文を指導する先生方は、こここそを、ぜひ「完走」して欲しいと願います。
  
 それは、
  
 博士論文を書くということが、大学院における「最後の教育機会」であるから
 そして、博士論文を書くということは、「研究者人生の入り口」だから

 です。
  
 また、
  
 博士論文を書くということは、「巣立つ」ということであるから
 博士論文を書くということは、「別れる」ということであるから
       
 だと思います。
        
  ▼
   
 今日は博士論文を書くことについて私見を書かせていただきました。
  
 おそらく、全国の大学院には、数多くの博士論文執筆者、博士号予定者の方々がおられるのだと思います。分野によって違うとは思いますが、ぜひ、自分の研究に「けじめ」をつけて、新しい世界に飛び立っていただきたいと願います。
   
 終わった論文がよい論文。
 
 けじめをつけられたあとは、もう二度と過去を振り返らず、
 自分の領域で、心ゆくまで暴れてください。
      
 そして人生はつづく 
   
  ーーー
   
「人材開発研究大全」(中原淳編著、東京大学出版会)、いよいよ電子版が刊行になりました!,AmazonのKindle、紀伊國屋書店のkinoppy、楽天koboなどで購入できます。人材開発研究の最前線を、4部構成・全33章であますところなく所収する国内初のハンドブックです。日本型雇用慣行が崩壊しつつある現在、日本の組織は「能力形成システム」を再構築する必要に迫られています。新人育成・OJTからリーダーシップ開発。民間企業の育成から教師教育・看護教育・医療者の学習まで。どうかご笑覧くださいませ!


  
  ーーー
  
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
 中原研究室のLINEを運用しています。すでに約4600名の方々にご登録いただいております。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
     
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.11.22 08:33/ Jun

最近、僕は何をやっているのか?そうね、いろいろやってます!?

2024.11.15 15:01/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)