2017.11.13 06:53/ Jun
書くということは、昔の自分に「落とし前」をつけることである
(岸政彦先生の言葉 現代思想2017年11月号より引用)
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今月の「現代思想」は「エスノグラフィー」特集でした。
かつてこのブログでもご紹介させていただいたことがあり「断片的なものの社会学」などのご著書で有名な岸政彦先生がエディターをつとめ、最近、やはり注目されている「中動態の世界」を著した國分功一郎先生との対談を冒頭に挟みながら、エスノグラフィー研究の現在を論じていらっしゃいます。
特集記事は、どの記事も非常に興味深いものでした。
「分析も解釈もできない断片たち」の何とも言えない読後感!?:岸政彦(著)「断片的なものの社会学」書評
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7959
今日の僕のブログ記事は、先の現代思想の特集であるエスノグラフィーの本論からはズレるのですが、個人的に非常に興味深いと感じられた言葉をご紹介したいと思うのです。それは、先の対談の中で、岸さんが発せられた、この言葉です。
書くということは、昔の自分に「落とし前」をつけることである
僕自身も、いくつかの論考を書いてきた経験もあるだけに・・・また昨今では、指導している学生が「博士論文」や「著書」やら「雑誌論文」などにチャレンジしている様子を見ているだけに、この言葉は、グッときました。
これは一般論ですが、書くこととは、本当に「困難」です。その「困難」の中で、書くことをあきらめてしまう人もいらっしゃいます。
書くことに逡巡し、昔の自分に「落とし前」をつけられない人もいます
書くことの途中で挫折し、昔の自分に「落とし前」をつけられずに、過去をひきずりつづける人もいます
一方、
悪戦苦闘して「書くこと」を成し遂げ、過去の自分に「落とし前」をつけられる人もいます。
長く「書くこと」に取り組み、ようやくようやく、過去の自分に「落とし前」をつけられる人もいます。
「落とし前」をつけるということは、「新しい自分」を模索することができるということです。
人は、過去の自分に「落とし前」をつけられるからこそ、前に進むことができます。
これまで僕も、いくつかの大きな論文、単著などを書いてきました。
残念ですが、たいしたクオリティのあるものはございません(笑)。が、それでも、しかしながら、悪戦苦闘して書き続け、「過去の自分」になんとか「落とし前」をつけようとしてきたものだと思います。
僕は、自分の論文や単著が刊行されたとしても、おそらく、一度も、それらを手に取り、内部を読んだことはございません。
僕にとって、それは僕にとっては、もはや「過去」のものであり、「落とし前をつける前の自分」であるからです。僕は、長いこと、そういう思いをもって、ものを書いてきました。
書くということは、昔の自分に「落とし前」をつけることである
この言葉はグッときました。
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今日は「書くこと」について、岸さんの言葉を引用しつつ、書きました。
これから冬にかけて、大学は卒論、修士論文、博士論文のシーズンにはいっていきます。多くの方々が、それに挑戦なさいます。
悪戦苦闘しつつも、書くことを成し遂げ、過去の自分に「落とし前」をつけていただきたいと心より切に思います。「完璧を目指す」より「確実に終わらせる」。
「新たな自分」に「出会う」ためにこそ。そして、まだ見ぬ「新たな世界」へと旅たつために。
そして人生はつづく
(ちなみに・・・プラティカルなことですが・・・セーブは細切れに! 印刷は早めに! バックアップは複数に! これが論文執筆の鉄則ですぞ!)
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