NAKAHARA-LAB.net

2017.11.9 06:34/ Jun

「いいひと」を採用したいときに感染しがちな「キラキラスペック病」とは何か?

 先生、いいひと、いませんか?
 ひとを、探しているんですけれど・・・
    
 いいひとですか? 
 欲しいのは、どんなひとですか?
  
 人にまつわる仕事に興味があって
 企画ができて、できれば分析もできるといいなぁ
 研修に登壇とかも少しだけできるとさらに嬉しいですね
 ビジネスの経験もあるといいなぁ・・・
  
 いやいや、いないっすよ。
 そんなひといたら、こっちが欲しいくらいですよ
  
  ・
  ・
  ・
  
 最近、この手の会話を、一週間に10回はしているような気がします(笑)。
 一般的にどうかは知りませんが、とにかく、ひとが足りていない。ここでの「ひと」は、僕の周辺なので、「人にまつわる仕事に興味のあるひと」ということになります。
  
 さらに、みなさん、「高望み」なので(笑)、「企画ができて、できれば分析もできて、ちょっと研修で登壇もできる」といったような条件を、重ねて、いくつもあげられるので、さらにいなくなる(笑)。
 自戒をこめて申し上げますが、採用をしたいひとは、すぐに「スペック」を盛って、「キラキラスペック」にしていく傾向があります(笑)。僕は、これを「キラキラスペック病」と呼んでいます。
  
 とにもかくにも、ひとが足りていない、という言葉をよく聞きます。
   
  ▼
  
 しかし、よーくよーく、あたりを見渡してみれば、非常に興味深いことに気づきます。
 いわゆる「9時ー5時で働き、残業もこなしてくれるようなひとで、上記のように、すべてを兼ねそろえたハイスペック人材」なら、結論は「いない」。
  
 しかし、育児をなさっている方などで「9時ー5時」は無理だけど、短時間なら働きたいハイスペック人材はいる。
 さらにいうと、望まれているすべての用件を満たすことはできないけれど、登壇だけとか、分析だけでよいのなら、もっと有望になる。
   
 要するに何がいいたいか、というと
    
 人手不足時代にあって、すべての能力を兼ねそろえたキラキラスペック人材で、かつ、フルタイムでバリバリ働けるひとを採用することを夢見るのは「現実的」ではなくなってきているのではないか?
   
 ということです。
    
 逆にいうと、今、フルタイム・ハイスペック人材を採用できているのなら、その「ひきとめ」を徹底的にはかる必要があるように思います。
  
 そのうえで、
       
 もう少しフレキシブルな働き方は認められないのか?
 すべての仕事ができるハイスペック人材でなければだめなのか?
 もう少し仕事を切り出して、「分業」することはできないのか?
  
 を考えていく必要があるのかもしれません。
  
 現在、「残業是正」や「長時間労働是正」の問題は、主に「働き方改革の問題」として認識されることが多いと思いますが、この人手不足社会にあっては、むしろ「採用=人材確保」の問題として考えていくことの方が、僕にはしっくりきます。
 みんな一律にロングのフルタイムで働かなければだめなのか? 多様な働き方をみとめて、優秀な人材を集めたほうがいいのではないか? という視点の方が、僕の実感にあいます。
  
 端的に申し上げますと、今後の社会においては、
  
 多様な働き方が実現しなければ、優秀なひとを採用できず、またつなぎとめておけない
   
 と思うのです。
    
 また「分業」は、今後の人材確保を考えていくうえで、非常に重要なキーワードになってくるような気がします。「企画」も「分析」も「研修に登壇」も、では、採用はなかなか困難になります。
   
 こうした仕事をいかに「分業」し、組み合わせて、いくことができるか。
 さらにいうならば、どんな出入りがあったとしても、分業が滞らないように「仕事の属人化」を避けて「標準化」をすすめるのか。
   
 いずれも難しい課題ですが、今後、取り組んでいかなければならないことのように思います。
   
  ▼
  
 ちなみに、、、自戒をこめて申し上げますが、こうした「キラキラスペック病」にかかっているのは、大学も、その典型です。いろいろな「制度」「しがらみ」「因習」でそうなっているのですが、まぁ、そんなものは「大学内部で勝手に誰かがこしらえた事情」なので、外からみれば、知ったことではありません。
  
 たとえば、大学の人材の応募資格に、下記のようなキラキラスペック条件を見つけるのは、そう難しいことではありません。
  
 以下の能力を満たすことが望ましい
 ・博士号取得をしているもの
 ・TOEIC900点以上で、業務に必要な英会話を堪能に行えるもの
 ・統計などのデータ解析に経験をもつもの
 ・コミュニケーション能力の高いもの
  
 こんな人材、どこかにおりますか?
 トホホ。
  
   ▼
  
 今日は人手不足社会における採用、ひきとめ、について書きました。
   
 人手不足というコンテキストがなければ、多様な働き方を認めることや、労働慣行をフレキシブルにすることに対処できないのか!
  
 と言われてしまうと、忸怩たる思いもあります。
 が、ここは、我が国が直面している困難を、敢えて逆手にとって「利用」しつつ、多くの人々が長く安心して働ける環境を整備していくことが重要であるように思います。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   
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