2017.2.6 06:45/ Jun
金成隆一(著)「ルポ・トランプ王国」を読みました。本書は、いまや日々世界を賑わしている「トランプ現象」の社会的背景をさぐる良著です。著者はラストベルト(赤さびの工業地帯)とよばれる、米国の地方工業地帯を自らの足でおとずれ、トランプ大統領の当選を支えた「労働者たちの生の声」をひろい、ルポルタージュをしたためました。
本書を通底する著者の問いは、下記のとおりです。
ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々(ミドルクラスの労働者)が、なぜ民主党を捨て、トランプ候補を支持したのか?
大統領選における「トランプ勝利」を支えたのは、「マイノリティに対する差別的言動を繰り返す差別主義者」だけではなく(そういう人もいただろうけれど)、「ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々」であったというところが、もっとも興味深い仮説です。
この問いの設定が素晴らしい!
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かくして、本書では、「普通の人々の生の語り」から、トランプ勝利の背景が浮かびあがらせます。それを支えたのは、自らの将来に対する「絶望」と、「絶望」をつくりだしたとされる「エスタブリッシュ(既存政治勢力)への怒り」です。
「出自がどうであれ、まじめに働いて、節約して暮らせば、親の世代よりも豊かな暮らしを手に入れられる」という「アメリカンドリーム」が「親の時代」や「祖父母の時代」の「昔話」になってしまった。
(同書より一部抜粋・要約)
かつて1940年代生まれの世代は、親よりも裕福になる確率は「92%」だった。しかし、今の30代の世代では親より豊かになれるのは「約半数」、しかも工場労働者のひしめくラストベルト(ラスト=赤いサビの工場地帯)では、さらに低い。
(同書より一部抜粋・要約)
かくして、かの候補者は、労働者の不満の矛先を「不法移民」と「自由貿易」に求めた。
(同書より一部抜粋・要約)
「ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々」は、かくして不満を爆発させ、かの候補者の言葉を信じていきました。
かの候補者の信頼感をさらに高めたのは、「彼自身が大富豪」であり、自分自身の豊富な資金で選挙戦を戦っているので、「既存の業界のロビイングを受け付ける必要がない」という「物語」だったことは容易に予想がつきます。
かくして、この「物語」は奏功し、トランプ大統領は誕生しました。
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しかし、問題はここからです。
本書で著者が述べるように、「どんなに、かの大統領が頑張ろうとも、製鉄業と石炭鉱業、製造業をラストベルトに復活するのは難しい」のです。むしろ、本来ならば、製鉄業、石炭鉱業、製造業といったものから、産業の転換を図らなくてはならない。
かの大統領は「エスタブリッシュ層」の「失政」は強い言葉で糾弾できても、その演説において、自らが「この難問を、どのように解決するか?」は決して語ることはありませんでした。その不満の矛先を「不法移民」と「自由貿易」に求めるだけで、何ら「解決策」は示していないのです。
大統領となったいま、ここをいかにして実現するかが、激しく問われることになります。
おそらく「ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々」が、この「解決の難しさ」に薄々気づくのは、そう時間がかからないと思います。
そして、そのとき、その「不満の矛先」が「どこ」に向かうのか。
大統領は、この「不満の矛先」を「どこ」に向けるのか。
それこそが、わたしたちにとって「最大の脅威」です。
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ちなみに、個人的に興味深かったのは、本書の下記の記述です。
「かつてのような給料払いのいい仕事がなくなった」と嘆く労働者と、現代の製造業に「必要な技能を持ち合わせた労働者が見つからない」と嘆く工場経営者が、ともに同じラストベルトにいる
(同書より一部抜粋)
この記述は、同じラストベルトにおいても、「低スキルしか必要としない労働力」が、移民労働者によって代替され担われていく一方で、「高いスキルが必要な労働力」に関しては、圧倒的に不足していることを示唆しています。
この記述は、「ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々」も、「排外主義」に向かうのではなく、「自らの能力やスキルを高度に保つことが必要なのだ」という「本質的な解決策」を気づかせてくれました。そうした方向に、国全体として舵を切らなくては、本質的な解決には向かわないのです。
非常に興味深いことです。
しかし、現実は、そちらには向かいませんでしたが・・・。
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いまや、わたしたちはトランプ大統領の姿をニュースで見ない日はありません。
センセーショナルに取り扱われている彼の言動の背景には、「ルールを守り、汗水垂らして働く普通の人々」のどのような思いがあるのかをさぐると、また「別の見方」ができそうです。
そこには、「もうひとつのアメリカ」があるのです。
そして人生はつづく
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