2016.2.18 07:01/ Jun
十数年にもわたって、人材育成に関する研究をしておりますと、いくつかの組織の「研修体系」や「人材育成体系」の「変遷」というものを感じるときがあります。
「あれ、A社は、かつて、ちょめちょめ研修やっていたけど、やめちゃったんだ」
とか
「そうなんだ、B社の、ほにゃらら制度、結構、よかったのに、変えちゃったんだ」
とか、
「へー、C社の、ほげほげ研修、最近、やっていないんだ。全部変えちゃったんだね」
とか、そういうことが、よく起こります。
もちろん、外部の第三者には「研修のよしあし」など一部しか分からない、ということもあるとは思えます。しかし、どこから見ても、誰もがうらやむ研修や体系が、ある日、突然変更され、影も形もなくなる、ということが、ままおこるのです。
時代の変化に応じて、研修体系なども「変化しつづける」というのは、「問題」というよりも、むしろ「よいこと」である場合もあります。しかし、一方で、それらの変更が、ジョブローテーションのプロセスにおける担当者の異動・交代で、さして「根拠なく」起こる可能性があります。要するに担当者が変わり、後任の担当者が「根拠なく」「思いつき」で変更してしまうという事例や、担当者の無理解や理解不足で変更してしまうという事例が、まま、起こっているような気がします。
変えて「よくなる」のならよいのですが、そうならない場合もままあるような気がいたします。
人材開発が専門職として位置付いていない我が国においては、人材開発の知識や経験は、個人になかなか蓄積していきません。ジョブローテーションによって、全く経験のない人、経験の浅い人ーまだそれならよいのですが、人材開発にまったく向いていない人ーが、後任にやってくる場合もゼロではないような気がしますが、いかがでしょうか。
かくして、
「あのとき輝いていた研修体系」が、担当者の変更とともに「ペンペン草」もはえなくなる
という事態が起こりえます。
こうした事態を悪化させてしまう原因には、「研修ならではの事情」もあるような気がします。
それは、
研修体系を変えると、「変革した気」がする
のです。
別の言葉でいいかえましょう
研修体系を変えると、「仕事をした気」がする
のです(笑)。
変更に大きな設備投資などが必要のない研修は、合意さえとることができれば、比較的「変更」をしやすいもののひとつです。生産ラインとか、そういう大がかりなものと比べれば、の話ですが。
しかし、ここには大きな問題があります。
一般に、世の中では、「変革」をすれば「効果」が問われます。
しかし、研修体系というものは、それが問われにくい構造があります。
これに一役買っているのは「研修効果の不可視性・遅効性」というものです。
要するに、
研修は「効果がただちに見えにくい」(研修効果の不可視性)
研修の効果は「じわじわと遅れてやってくることもある」(研修効果の遅効性)
ということですね。
そうしますと、たとえ「変えて」、それが「ペンペン草」もはえないようなどうしようもない「代物」であったとしても、効果が見えにくいので、「責任をとらなくてよい」という事態が発生します。
要するに
研修体系とは「かえ放題」の世界
なのです。
しかも、それ自体をいじくれば、「変革をした気がする=仕事をした気がする」。かくして、ペンペン草もはえない研修が生まれることになります。
つまり、ペンペン草もはえないような研修には、生まれやすい「構造」があるのです。
▼
今日は、「研修の変革」について書きました。
もちろん、時代に応じて、研修体系を変化させなければならないことは、言うまでもありません。多くの人材開発担当者の方々は、パッションをもって「変革」に立ち向かっていることは言うまでもないことです。しかし、その「歯車」がいったん狂い始めると、「研修効果の不可視性と遅効性」によって、研修かえ放題の世界が生まれてしまうので、注意が必要です。
しかし、研修の中には、時代にあわせて変更してもよいものと、そうでないものというものがございます。
「変更してはだめ」なものを、担当者の都合や無理解によって変更してしまうことが、もし仮に起こっているのだとしたら、それは第三者の目からみますと、残念なことのように思えます。
変えることのできるものについて
それを変えるだけの勇気を
われらに与えたまえ
変えることのできないものについては
それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ
そして
変えることのできるものと
変えることのできないものとを
識別する智慧を与えたまえ
(ラインホルト・ニーバーの祈り)
そして人生はつづく
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